
「(蟬川は)際どいパーパットをことごとく決め、ボクが見る限り、外したのは11番の3mほどのパーパットだけ。18番、プレーオフのバーディパットも、ラインを読み切り、しっかり打てていました」(佐藤プロ)
2025日本ゴルフツアー選手権でラウンドレポーターを終え、興奮冷めやらぬままです。今回は優勝争いを演じた蟬川泰果、堀川未来夢、米澤蓮の3選手が作り上げた、最終日最終組のすがすがしい空気をお伝えできたらな、と思っています。
最終日最終組は、6アンダーで首位に並んだ堀川と米澤を、1打差の3位タイで追う蟬川という組み合わせ。米澤が1番で、堀川が1、2番で連続バーディを奪えば、蟬川は2番でチップインイーグルと、スタートからスコアが動き、誰が優勝してもおかしくない目の離せない展開になりました。
最終組が優勝争いを演じるのは当然のことですが、それが最後の最後まで続く試合というのはそう多くはありません。むしろ珍しいと言えるでしょう。3人のスコアが動かなかったのは実に5ホールだけで、1ショットごとに優勝予想が難しくなる、メジャーにふさわしい名勝負でした。
正直に言うと、ラウンドレポーターにとって優勝争いする選手の誰か一人が崩れると仕事が楽になるんです。崩れた選手は中継からほとんど消え、絞られた優勝候補にだけ集中してフォーカスできるからです。そういう意味ではレポーター泣かせの展開だったわけですが、ホールを重ねるごとにボクには“このまま3人で争ってほしい”との思いが強くなっていきました。
ギャラリーは堀川ファンが多く応援もすごかったのですが、ボクの思いと同じように徐々に3人の繰り広げる名勝負への拍手が大きくなっていったと感じました。その思いは3人の選手も同じだったのではないでしょうか。3人は9アンダーで並んで、サンデーバック9に入っていきます。
その10番ホールのティーインググラウンドで、プロの試合ではなかなか見ることのない光景が。一番年上の堀川が、「後半も頑張りましょう」と、声をかけたのです。2人はその言葉に笑顔と会釈で応じました。堀川が上からの物言いではなく、丁寧に言った言葉には、若い同伴者に対する気遣いやゲームに対するリスペクト、「みんなでこの試合をよいものにしよう」という雰囲気があり、なんだかいいなあと感じました。
さらにもうひとつ。プレーオフの末に優勝した蟬川へのウォーターシャワー。そこに堀川の姿があったことも、この名勝負のすがすがしさを物語っています。普通の試合ではあまり考えられないことで、そこにいるはずがないと思いますよね。もっと言えばシャワーをかけている選手の面々を見ると、大半は堀川の3年ぶりの優勝を祝福しようと集まった選手たち。
しかし、その誰もが堀川の負けが決まっても帰ることなく、しかも敗れた堀川自身が先頭に立って水をかけていたのです。彼のグッドルーザーぶりも、蟬川の優勝と同じくらい価値あるものだと思います。ちなみに蟬川はアマチュア時代も含め、これで5勝目となりましたが、ウォーターシャワーは初体験だったようです。それだけに深く胸に刻まれる水かけになったことでしょう。
さて優勝争いは、それぞれの選手の特徴が表れていました。正確なショットと緻密なマネジメントで戦った堀川。米澤は難しいピンポジでもショートサイドに攻める果敢なゴルフを見せてくれましたそうしたなかで蟬川の勝因を挙げるなら、何よりパターだと思います。プロの2m半のパットの成功率は約50%と言われています。フロント9で蟬川のパット数は。しかも、そのうちの4ホールは2m以上のパーパット。これをとにかく入れまくったのです。
1番をバーディ発進した堀川、米澤に対し、60~70Yの3打目を2m超の難しいラインにつけましたが、これを粘ってパーセーブ。崖下に落としたり、15番は曲げて隣の17番からのスーパーセーブ。最終18番は6mを沈めて堀川に追い付くと、同じ18番でのプレーオフ1ホール目は、残り178Yのバンカーからピン奥の2mにつけてバーディ決着。
今シーズンはコーンフェリーツアーからPGAツアー昇格を狙うも、第4戦のコロンビアでは、後に判明する肋骨3本の疲労骨折で撤退を余儀なくされました。全治6カ月でまだまだ本調子ではありませんが、やはり実力者。
22年の日本オープン23年の日本シリーズに続き、史上14人目のメジャー3冠を獲得しました。これはジャンボさんの27歳248日の記録を塗り替える、24歳148日の最年少記録です。この名勝負をリアルタイムで間近で見られ、その同じ空気を吸えたことは、ラウンドレポーター冥利に尽きる体験でした。
◆参考ポイント:ストロンググリップでボールをつかまえる

蟬川、堀川(写真)、米澤に共通するストロンググリップ
優勝した蟬川のみならず、最終組の3人に共通するのが、かなりのストロンググリップだということ。ボールがつかまらずに悩むアマチュアの方を多く見かけます。ムリにダウンスウィングで左に引っ張って、かえって大きなスライスになってしまうケースも。ボールをつかまえるためにはグリップをストロングにするのが一番簡単な方法だと思います。
左のナックルが2個半から3個見えるとか、右手を下から持つなどの方法もありますが、おすすめは少しフェースをかぶせ気味に握り、その状態からフェースをスクエアに戻す。ムリせず、自然なストロンググリップになるはずです。
PHOTO/Hiroyuki Okazawa、Shinji Osawa
※週刊ゴルフダイジェスト2025年7月1日号「さとうの目」より