「週刊ゴルフダイジェスト」や「みんなのゴルフダイジェスト」で、障害者ゴルフの取材記事を執筆したベテラン編集者が、日本だけでなく世界にアンテナを巡らせて、障害者ゴルフのさまざまな情報を紹介する連載。今回は、障害者ゴルファーの皆さんのギア選びについて。クラブフィッティングは、慣れていないと「自分なんかが行っていいのか」と思ってしまいますよね。

フィッターとの出会いでゴルフが変わった秋山さん

今年5月に開催された障害者ゴルフの世界大会「THE G4D OPEN」に2年連続で出場した秋山卓哉さん(左大腿切断)は、フォーティーンのクラブとフィッターに出会ったことでゴルフが変わったと言います。

「障害者は特にチェックポイントが多いんです。考えすぎてミスにつながることもある。それを少しでも減らせるクラブ選びはすごく大事です」

フォーティーンのブランド執行責任者マーケティング部部長の池田純さんが初めて一緒にラウンドしたとき、秋山さんの苦労しているところや癖を見抜いて、すぐに合うクラブを提案してくれたという。

具体的には、つま先下がりでひざを曲げて上体を落とせず、特に短いクラブでボールに届かせるのに苦労している姿を見て、9番アイアン以下の長さを揃えて振りやすくし、ヘッドバランスの出過ぎを防ぐためにヘッドの裏を削って「D5」から「D1~D1.5」に調整したり、左が義足なので、詰まって引っかけることを怖がっていた秋山さんのアイアンのライ角を2度フラットにし、振り切っても左に飛ばないようにしたり……。

画像: 秋山さんと池田さん&長さを揃えたクラブ。ウェッジのバウンスも14度から8度に。「左義足だと右足軸になり左に体重を大きく乗せに行くのが難しく入射角が浅めになる、ローバウンスのほうがレベルブローに振る僕には合います」(秋山)

秋山さんと池田さん&長さを揃えたクラブ。ウェッジのバウンスも14度から8度に。「左義足だと右足軸になり左に体重を大きく乗せに行くのが難しく入射角が浅めになる、ローバウンスのほうがレベルブローに振る僕には合います」(秋山)

「うちの存在意義は、プロみたいなテクニックやパワーがないアマチュアが、道具をどう使ってそこに近づくかを提案することにある。ハンディがある方にクラブの力でよりよいゴルフをしてもらうことで、それを体現していただけます」と池田さん。

トップアマとして試合に出てきた鋭い観察眼と感覚を使い、“すべてのゴルファー”に合うクラブを提案していく。世界障害者ゴルフランキングで日本のトップランカー、吉田隼人プロ(右大腿切断)もスウィングだけでなくクラブ選びに関しても考え抜いてきたと言います。本人いわく「飛ばしが武器」というだけあって、特にドライバーのシャフトにこだわりアリ。

「僕はウェイトトレーニングもしており足に障害があるので上半身の力が強く、腕力が出やすいので軽いシャフトを使うとヘッドスピードが上がってもヘッドが暴れ気味になり、打点もズレる。重いシャフトにしてバランスよく振ることで、プレーンにしっかり乗り確実性と飛距離が両立できる。片手で打つ人は、軽くて軟らかいほうがいいと思います」

障害者に合うギア選び

日本プロゴルフ協会のティーチング資格も持つ吉田プロは、レッスン活動において、クラブ選びのアドバイスも行います。昨秋の日本障害者オープンで初の試みとして行われたブリヂストンスポーツ提供のスペシャルイベントでは、障害者ゴルファーたちがクラブフィッティングを体験。普段なかなかできない経験に、選手の皆さん、とても喜んでいました。フィッティング担当の押川忠徳さんは、データ計測後、打点、軌道、入射角、プロセスなどを真剣に選手に説明します。

「フィッティグって壁がありますよね。でも僕たちはお客様のスウィングは1つの個性としてとらえますし、それは健常者でも障害者でも変わらない。人の動きではなくクラブの動きのなかで、何よりインパクトでフェースが真っすぐに当たってシャフトがしなり戻れば一番ベスト。まずは最初のコミュニケーションでその方がどこに向かいたいのか聞くことが最大のポイントです。目的がしっかりあってこそ、それに対する原因がわかり、そのための解決を探せます。お客様が求めていることにきちんと合わせたい。骨格の運動や、動きの制限などの動作環境は見ますけど、やることは健常者とまったく同じです。可動域が制限されるのであれば、クラブという自由に選べる選択肢を活用すべきです」

画像: 選手から笑顔を引き出すブリヂストンスポーツの“ハッピーフィッター”押川さんと悩みを話す片倉郁江さん(左上腕切断)。「データを説明してもらい、難しかったけど発見もありました」。合うボール、2万通りのヘッド✕シャフトの組み合わせからクラブの提案を受ける

選手から笑顔を引き出すブリヂストンスポーツの“ハッピーフィッター”押川さんと悩みを話す片倉郁江さん(左上腕切断)。「データを説明してもらい、難しかったけど発見もありました」。合うボール、2万通りのヘッド✕シャフトの組み合わせからクラブの提案を受ける

スウィングはその人の“個性”。そこを磨くお手伝いをするためにゴルファーと真摯に向き合う“コミュ力”が印象的でした。自身トップアマで、クラブ工房「キナセ」を経営する木名瀬和重さんも、以前、障害者に合うギア選びを聞いたとき、

「その人によりいろいろとあるはずです。あえて言うならバランスが大事。力がないからこそ、バランスは軽いほうがいい。片手で打つ方などはシャフトを軟らかくすると、かえって難しいかもしれない。バックスウィング、ダウンスウィングでほどけるような再現性をつくりづらいスウィングの方は特に、シャフトを硬くしてバランスを軽くすると再現性が上がるかもしれません。重い軽いはバランスによります。バランスは『D1』くらいなければいけない!なんていうことは無視していい。ゴルフを一生懸命やりたい方ほど、感覚がよいものを使ったほうがいいです」

皆さん、とにかく遠慮せずに相談に来てほしいと言います。「自分なんかが」という“壁”を取り払えば、自分のゴルフがワンランクアップするのかもしません。

PHOTO/Yasup Masuda

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