世界では“オンリーワン”の「片マヒ」ゴルファーの冠が付いた大会と、日本の各地方で開催されるオープン競技大会(各地域ごと3年持ち回り)がそれぞれ開催され、世界障害者ゴルフランキング(WR4GD)の対象試合でもあります。今大会の初参加は6人。まず、マレーシアのハリス・アブ・ベイカーさん(左前腕切断)にお話を聞きましょう。

日本ラインGCは過去、日本オープン、日本プロを開催したコース。「50年、100年と続く組織になってほしいです」(支配人)。皆さんのアツいご協力に感謝です!
「僕が住んでいるクアラルンプールには、ゴルフ場がたくさんあってゴルファーもたくさんいるけど、障害者ゴルファーは見ない。障害者ゴルフの協会もないんだ」と、欧州障害者ゴルフ協会のWebサイト経由で本大会を知り、参加を決めたとのこと。単独で日本に乗り込んできたのです。
「日本は気候がよい。マレーシアはとても暑いんだ。コースはとてもきれい。メンテナンスもいいし、グリーンのスピードも速い」
2008年に事故で障害を得たというハリスさん。ゴルフは2年前に始めたそうですが、そのスウィングは、アークが大きく美しい。褒めると少し照れて、「でもバンカーがとても難しかった。パウダーがたくさんかかったよ」と苦笑い。

日本に来るのも初めてというハリスさん。「寿司、ラーメン、刺身……日本食はとても美味しかったです」。帰り道、大阪万博へGO。「See You Again!」
「試合に出場するのは初めて。スコアは106だったけど、とても楽しいラウンドだった。何よりここには同じような障害の方がいて、とてもインスパイアされたよ」
ゴルフの魅力を聞くと、「年齢や障害など関係なくいろいろなプレーヤーと回れること。歳を取っても学べる唯一のスポーツだよ。一生できるしね。強い心が必要。とてもタフだけど、それは人生も同じだから」と哲学者のように語ります。

普段はレンジで練習しているからかバンカーショットはちょっぴり苦手!? 飛距離は190m(208Y)、ベストは88。41歳と聞き「とても若く見える」と言うと照れ笑い
2日目は大雨の中でのラウンドとなり、少し疲れた顔をしながらも選手同士の交流を心から楽しんでいたハリスさん。こうして日本の大会に、世界から新メンバーが加わることも大会を盛り上げます。新メンバーは日本にもいます。障害者ゴルファーにとって大会に参加することは、距離的にも費用的にも負担が大きい。でも皆さん一念発起して、この舞台に立ちました。
その一人、緑の中でとても楽しそうにラウンドしたいたのは三宅竜一郎さん(片麻痺障害)。片手でも確実にヒットし、高いボールで飛ばします。毎週末の朝練は欠かさずしているとのことですが、本大会に出場して闘志が燃えてきたようです。

和気あいあいとラウンドする三宅さんと末廣信吾さん(片麻痺障害)。*片マヒゴルファーの奮闘ぶりは、近々、週刊ゴルフダイジェスト誌上でも紹介します
「そろそろ月イチゴルフを復活させて、片マヒオープン優勝を目指していこうと心に誓ったよい大会でした」目標を持つことができれば、日々は少しずつ輝いてきます。
さて、優勝者です。片マヒの部の勝者は1日目に89でラウンドした村田信廣さん。宮崎のゴルフ場で働きながら、自身のゴルフも日々研鑽し、HCは15に。障害者ゴルフの大会出場は5年ぶりですが、クラブの月例競技などにはずっと出場しているそうです。

片マヒの部勝者の村田さん。自称“宮崎のジャンボ″は、常に工夫し続け、練習熱心。周りを巻き込む力もある。「この優勝、クラブの競技委員に自慢ができます(笑)」
「月例で健常者の方とゴルフできて楽しいですし、そこで勝てるともっと楽しいです」
以前は「グランプリの部で勝つ」ことを目標にしていましたが……。「これ以上ハンディをよくするのはなかなか難しいんですけど、9キロ痩せて、体調もよくなってゴルフの調子もいい。カートの事故で脳挫傷になったりしてしばらくこの試合に参加できなかったから、周りのレベルもどうなっているのかな、など不安だったんです。でも、結局は自分との闘いだと思って目標スコアを85に設定。これを出せば誰にも文句言われんやろうなと。優勝できて嬉しいです」
障害総合の部の優勝は両日ともに吉田隼人。5月のイギリスでの世界大会で成績がふるわず、「自分のゴルフを見直す」と語っていましたが、髪型も新たに本大会に参戦。「自分の中で何かを変えなければと考えているんです。まずは見た目から変えようと思って」とニヤリ。でも、こういうことって大事ですよね。

障害総合の部の勝者。ツーブロックパーマヘアが似合っている吉田隼人。「ゴルフをしていてもなんだかスッキリしています。ここからまた新しいスタートです」
「やっぱり気持ちが新しくなりました。このコースは距離はないけれどコースマネジメントが難しい。1日目は前半4アンダーで回ったんですけど、後半は崩れましたね」と言いつつ、70とこの日唯一のアンダープレー。大雨となった2日目も粘りのゴルフで76。「3番を終えて4オーバーになってしまいましたが、4番から5連続バーディが取れた。でもその後4連続ボギーを打ったり。ただ、悩んでもしょうがないと振り切れる感じもあって。パターもショートしなかったですし、この雨の中でも頑張れました。見た目を変えたのはよかったかな」
今後はもちろん、秋の日本障害者オープンの連覇を目指しつつ、JOYXオープンやティーチングプロの大会に出ていい成績を残したいと気合いも入ります。
「意気込みすぎないように(笑)。でも、いろいろな試合にたくさん出て経験を積み、また来年の国際大会で力を発揮できるようにしていきたいですね」
こうしてまた、そのプレーぶりで日本の障害者ゴルフ界を引っ張っていってくれるのでしょう。
PHOTO/Yasuo Masuda