「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか? その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられているようです……。

今年のD-1は予選1位が予選16位に敗れる大波乱からスタート!

GD 今回は6月21日発売の「月刊ゴルフダイジェスト8月号」で発表された2025年「D-1グランプリ」の結果から見えてきたドライバーの「真の性能」についてお聞きします。発表前に長谷部さんに優勝ドライバーを大予想していただきましたが。

長谷部 「いやー、GT2が来たか」というのが正直本音ですね。うーん、ちょっと予想できませんでしたね。『GT2』はベスト4まで勝ち上がるだろうと見ていましたが、最新モデルのロースピン化にすごく期待をしてしまったので予想をハズしてしまいました。要因は試打者とのマッチングだと思いますが、市場評価の高い新製品もあったので『GT2』の連覇は予想できませんでした。

GD D‐1グランプリは今年で“30回目”の名物企画ですが、これまで連覇を達成したドライバーはありませんでした。そういった意味では毎年確実にドライバーが進化していることを意味してきたと思うんですが、『GT2』は1年以上先の進化をしていたという見方もできなくありません。

長谷部 そうですね。『GT2』は定期的な2年サイクルのモデルチェンジ以上の進化があったと言ってもいいと思うんですけど、それにしても市場ではピン『G440シリーズ』が圧倒的に売れているという話がある中で、有識者の中での飛ぶという評価とのギャップというかズレが見られました。

「D-1グランプリ」史上初の連覇を達成したタイトリスト『GT2』

GD 2024年から2025年のドライバーの進化はどのように感じますか?

長谷部 『Qi35』のコアモデルの評価が高かったことと、『G440』は“飛ぶ”というよりも“やさしい”という評価の高いブランドの新作でありながら、前モデルと比べて「G440は飛ぶ」という評判もありました。
 
ただポテンシャルとしてはこの最終決戦(D-1グランプリ)で試打されるプロ、上級者とのマッチングを考えると、やっぱりプロ仕様のブランドの強さが極まったということでしょう。だから『GT2』であり、キャロウェイ『エリート♢♢♢(トリプルダイヤモンド)』が決勝に残った。苦しい言い訳ですが、そう言わざるを得ないということですね。

GD 番狂わせもありましたが。

長谷部 初戦で予選16位の『エリート♢♢♢』が負けると読んでしまったところに大きなズレがありました。飛ばないわけではないんですけど、「試打者を選ぶ」というリスクと予選トップのプロギア『RS-F』が相手ということで落としたんですけど、ここが大きな間違いでした。
 
「RSシリーズ」のギリギリフェース設計が勝つだろうと思ったんですが、勝たなかった。あと『G440 LST』が『Qi35』のコアモデルに負けてしまいました。『G440 LST』は自分も使っているので、この結果にびっくりです。
 
それと『GT1』の活躍ですね。「コブラ」をはじめとするLSモデルを倒していったことで、「LSは誰のためのクラブだっけ?」ということを今一度考え直す必要が出てきました。LSは無駄にスピンがかかってしまう人にはいいのかもしれませんが、プロは打点が安定しているので、「極端に性能をふったLSはいらない」。そんな話にもなりかねないですよね。

GD 2025年は「テーラーメイド」を含めてコアモデルのウェイトの可変が可能になって、LSにちょっと近くなったのか、またはLSの飛距離が落ちてきている?

長谷部 LSがちょっと中途半端なスペックになりすぎているのか、もしくは『Qi35 LS』のように「もっと飛ばせる機能の調整もできますよ」みたいな形になったときの標準仕様としてのLSの立ち位置がちょっとやさしくなっているのかもしれないですね。
 
それよりも『GT1』が勝ったということに注目しなければいけなくて、男子プロの阿久津未来也プロや幡地隆寛プロが使ったりすると、『GT1』を含め、「GTシリーズ」の完成度がどれだけ高いんだよってことになると思います。

『GT1』は軽量モデルという位置づけでありながらLSモデルを破った

GD 全体的にはコアモデルがちょっと飛び仕様になってきているのかもしれませんが、実際市場で売れているのは『G440 MAX』です。そこから何か見えてくるものはありますか?

長谷部 そうですね。LSモデルが一時飛ぶぞということで、「コブラ」のLSも含めてここ数年もてはやされています。その機能をコアモデルにも取り入れてきているので、アマチュアとしては安心してコアモデルを使いながらロースピン化が図れているというのが2025年の傾向で、それを先んじていたのが『GT2』だったというのが、D-1グランプリ連覇の結論なのかなと思います。

GD つまりLSが要らないということになる?

長谷部 そんな考え方もあるかもしれません。

GD 国産勢に関してはどうですか? 今年のD-1グランプリでは存在感が出せなかったように見えますが。

長谷部 国産勢はきっちりとそれぞれのモデリングをしているので、フィッティングをしていければ3機種なり3兄弟の中から選べるはずなんですけど、ツアープロ、上級者向けということでは若干物足りなさがあるのかなという気がしますね。

GD 飛距離アップについては、ボールの進化が大きいということをよく耳にしますが、ボールが飛ぶようになったからクラブに一発の飛びを求めなくなったというのはありますか?

長谷部 オリジナルシャフトの開発というところも当然あって、日本のメーカーもかつてはオリジナルシャフトを一生懸命作っていたメーカーでさえもコラボブランドのシャフトが中心になってきています。そうなるとシャフトでの性能差が出しにくくなってきているので、D-1グランプリのような試打テストでは、いわゆるツアー系のヘッドがやっぱり強くなりつつあるのかなという気がします。

GD ベスト4から改めて振り返りたいのですが、準決勝1試合目は『エリート♢♢♢』と『Qi35 LS』の低スピン性能対決。もうひとつのカードが『GT1』と『GT2』の“GT対決”でした。

長谷部 去年もGT対決がありましたよね。「GTシリーズ」は月刊ゴルフダイジェストの誌面でも総合力の高さが評価されていましたけど、上級者にしたら「GT1もGT2もどっちも打ちやすいよね」っていう評価になりやすい。あとはもう形の好みだけだったりするのかなと思います。
 
『エリート♢♢♢』と『Qi35 LS』はツアーモデル対決とも言えます。重心位置の違いがインパクトロフトの違いとなったのか、『Qi35 LS』の打ち出しが低く、スピンも多めになっています。今回の試打条件詳細はわかりませんが、いずれにしてもトーナメント方式の試打後半の時間にベスト4を実施しているとしたら、試打者にも疲れが出てくる時間ですね。
 
つまり我々のラウンド後半のショットでやや疲労の出ているイメージと思えば、ヘッドの違いや寛容性、クラブの重さというよりは振りやすさの違いがそれぞれのヘッドの性能を引き出した。その点において、『エリート♢♢♢』が『Qi35 LS』より上だったのだろうと思いますね。

画像: 『エリート♢♢♢』vs『Qi35 LS』の低スピンモデル対決は『エリート♢♢♢』に軍配が上がった。「振りやすさの違い」が勝敗を左右したと長谷部氏は分析

『エリート♢♢♢』vs『Qi35 LS』の低スピンモデル対決は『エリート♢♢♢』に軍配が上がった。「振りやすさの違い」が勝敗を左右したと長谷部氏は分析

GD 決勝戦は『エリート♢♢♢』と『GT2』の戦いとなりました。

長谷部 『エリート♢♢♢』は決勝でも『GT2』に飛距離の差を付けられています。3ヤードですが、平均での3ヤードは結構でかいと思います。アマチュアの方のコメントに「下っ面に当たっても250ヤードを超えた」というのもありましたし、安定性プラス若干のスピン調整が今のドライバーのトレンドと言えるでしょう。
 
『GT2』の連覇が今後市場にどのような影響を与えるかわかりませんが、一般アマチュアは『G440 MAX』を好んで使っているというのも事実で、飛びよりもやさしさを選んでいることは明確に言えているのかなと思いますね。

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