▶「初出場、最悪の条件、そして現実」──星野陸也、金谷拓実、大西魁斗が直面する過酷なルーキーイヤー
「皆、通用しない理由を探すのではなく、どうしたら通用するかを考えています」(佐藤信人・プロゴルファー、解説者)
まず大前提として、海外を拠点に戦っている日本人選手について、本当に誇らしい。ボクも選手として海外経験があるので、少しはその苦労も大変さもわかるし、それぞれの選手がそれぞれのレベルや目標に向かってたくましく戦っている印象です。そんな彼らをボクなどが評価するなどおこがましい。しかし、あえて今シーズンを現時点で振り返ってみましょう。
まず松山英樹選手。初戦のザ・セントリーで勝利し、幸先のいいスタートを切りました。誰もが強い松山が戻ったという印象を抱いたことでしょう。一方でその盛り上がりの反動か、「最近の松山プロはどうなんだ」という不安の声なども聞こえてきます。しかし、PGAツアーで戦って11年で11勝。最終戦のツアーチャンピオンシップには9年連続を含む10回進出。何より21年にはマスターズでグリーンジャケットに袖を通しました。日本人などという前に、10年以上にわたってトップであり続ける選手はPGAツアーを見渡してもそうはいない。現時点で世界ランク11位(7月24日時点で13位)、フェデックスランク22位(同21位)という成績は、否定的な評価は的外れとしか言いようがありません。
確かに本人も、決して絶好調でないことは自覚してはいるでしょうが、それを超越した練習量と新しい技術への挑戦によって克服、進化し続けてきたのが松山英樹です。メディアやファンの反応は松山くんも肌で感じているはず。しかし、このようなときこそ地力を発揮するのも彼の魅力。22年、松山くんはソニーオープンで優勝しました。会場はかつて「苦手なコース」として名前を挙げたワイアラエCC。同様に「メジャーのなかで一番自分に合っていない」と語るのが全英オープンですが、彼のポテンシャル、追い込まれると強くなるゴルフスタイルを考えれば密かに優勝もあるのではと思っています。(結果は最終日に追い上げ、16位タイ)

海外ツアーに挑戦している男子プロたち
世界ランク93位(7月24日時点で102位)、フェデックスランク74位(同79位)と、日本人の2番手につけているのが久常涼選手。いわゆる久常ルートで、欧州からPGAツアーに参戦して2年目。シード選手として迎えた今シーズンは19試合に出場して予選通過が14試合、うちトップ10入りが4試合あります。まだ22歳。PGAツアーの大学を出たてのエリートたちと同年代。そのなかで決してエリートではない久常くんが、堂々と渡り合う姿は痛快でもあります。その吸収力、対応力、どこで戦っても順応す能力には脱帽です。確実に階段を一歩ずつ上ってきただけに、初優勝もそう遠くないのでは? スタッツにもよく表れていて、SG・Puttingはわずかにマイナスですが、それ以外の部門の数字はいずれも大きく「+」です。
PGAルーキー、金谷拓実選手は、成績だけを見ると心配ではあります。18試合で予選落ちが12試合、うち4試合連続が2回。しかし大会前インタビューなどを聞いていると、アメリカで戦っていることにやりがいを感じ、楽しいというニュアンスが伝わってきます。これまで壁にぶつかってはことごとく地道な努力で乗り越えてきました。米ツアーの壁も彼らしいスタイルで乗り越えていくのではないかと思っています。冷静に考えて、PGAツアーのルーキーは予選通過が半分なら御の字、うち2回程度トップ10フィニッシュがあればシード権獲得という世界。この基準から見たら、箸にも棒にも掛からないレベルでは決してない。
ルーキーは、なかなかいい時間にスタートさせてもらえない。昨年の久常選手も予選ラウンドは最終組やその1つ前あたりの遅い組に入れられることが多く、日没サスペンデッドで残りを翌日に行い1打足りずに予選落ちというケースが何度かありました。そこから這い上がってきた久常くんも見事ですが、金谷くんもそうした厳しい環境で戦っており、加えてコースに慣れるのに時間もかかっているのでしょう。
コーンフェリーツアー
平田憲聖
「厳しいけれど充実して楽しそうな雰囲気がします」
ポイントランク・15位(7月24日現在17位)、世界ランク・138位(同143位)

平田憲聖
星野陸也選手もルーキーとしてはまずまずの成績。インタビューでも元気そうで前向きな発言が多く聞こえてきます。コーンフェリーから昇格した、やはりルーキーの大西魁斗選手もなかなか成績は出ていませんが、6月のミズノオープンではサッと来日して5位に。コーンフェリーを舞台に戦う平田憲聖選手は現在15位(7月24日現在では17位)につけており順調。来年はPGAツアーに昇格する可能性が高いと見ています。
欧州ツアーは中島啓太選手がポイントランク17位(7月24日現在では19位)。まずまず順調に来ていますが、昨年後半にケガをした苦い経験を今年に生かし、後半に1勝してPGAツアーに進出すると思っています。桂川有人選手も先のBMWインターナショナルで11位に入り、いよいよエンジンがかかってきたなという印象です。
中島啓太
「世界が認める実力者。焦る必要もないはず」
ポイントランク・19位、世界ランク・137位
ドライビングディスタンス・295.45Y(123位)、フェアウェイキープ率・64.93%(19位)、パーオン率・67. 96%(46位)、平均パット数(ラウンド当たり)・29.58(110位)、平均ストローク・70.96(64位)
※7月24日時点のスタッツに修正済み

中島啓太(左)
桂川有人
中島同様欧州専念。「調子上昇。ここからです」
ポイントランク・99位、世界ランク・262位
ドライビングディスタンス・295.91Y(119位)、フェアウェイキープ率・62.54%(361位)、パーオン率・64.99%(114位)、平均パット数(ラウンド当たり)・29.07(50位)、平均ストローク・70.96(64位)
※7月24日時点のスタッツに修正済み

桂川有人(左)
かつて世界で戦う日本人は、言葉や食事、移動の大変さや芝の違い、ときに体格差まで挙げ、「通用しない理由」が前面に出ていた気がします。選手自身は思っていなくても、メディアの報じ方で、どうしても選手はそう思ってしまう。しかし今、海外で戦っている選手に共通しているのは、通用しない理由を探すのではなく、どうしたら通用するかを考え、通用すると確信していることではないでしょうか。その意味でも日本のゴルフのレベルアップを感じるのです。いずれにしてもまだ前半戦が終わったばかりですからね。
ニッポン男子、前半戦の戦績「皆、実力がある。ここから這い上がってくるはずです」
PGAツアー
松山英樹
FedExランク・21位、世界ランク・13位
SG:①-0.166(131位)②0.510(22位)③0.517(5位)④0.130(72位)⑤0.990(15位)
※7月24日時点のスタッツに修正済み
世界のショットメーカー。「日本人が足を踏み入れたことのない世界で戦ってきた選手。“点”ではなく“線”で見てほしい。後半戦に向けて仕上げてくるのは間違いないし、年間チャンピオンも夢ではないと思っています」(佐藤)

松山英樹
久常涼
FedExランク・74位、世界ランク・93位
SG:①-0.061(95位)②0.212(56位)③0.188(40位)④-0.034(109位)⑤0.426(56位)
※7月24日時点のスタッツに修正済み
ティーショットとパッティング以外SGはプラス。23年は欧州初優勝とルーキー・オブ・ザ・イヤーを受賞。米初参戦した昨季も順調にシードを獲得し2シーズン目。

久常涼
金谷拓実
FedExランク・150位、世界ランク・186位
SG: ①-0.076(91位) ②-0.483(161位)③0.254(27位)④0.261(37位) ⑤-0.107(93位)
昨年の日本の賞金王。
「丁寧にデータを見ると、予選通過にあと一歩、惜しい試合も少なくありません」
※7月24日時点のスタッツに修正済み

金谷拓実
星野陸也
FedExランク・182位、世界ランク・268位
SG: ①-0.332(141位) ②-0.045(117位)③-0.197(137位) ④ -0.033(104位) ⑤-0.332(141位)
※7月24日時点のスタッツに修正済み
最近徐々に結果も出始めている「気胸も完治したようだし、前向きな発言が頼もしい」

星野陸也
大西魁斗
FedExランク・197位、世界ランク・425位
SG: ①-0.403(156位) ②-0.309(149位)③-0.059(115位) ④ -0.008(98位) ⑤-0.780(159位)
「アメリカはレベルが高いから皆最初は苦戦しますが慣れればきっと成績は付いてきます」
※7月24日時点のスタッツに修正済み

大西魁斗
*SG:「ストロークゲインド」。他の選手の平均的なパフォーマンスと比較して、1R当たり何打稼いでいる(Gain)か、失っている(Lost)かの値。マイナスなら平均より劣っていることになる。①Off the Tee、②Aprroach the Green、③Around the Green、④Putting、⑤Total
PHOTO/ Yoshihiro Iwamoto、Hiroyuki Okazawa、 Tadashi Anezaki、Getty Images
※本文中のランクなどの数値は7月9日現在
※週刊ゴルフダイジェスト7月29日号「海外で戦うニッポン男子の通信簿」より一部抜粋