本大会は、リハビリテーション医学の第一人者である東京慈恵会医科大学附属病院、リハビリテーション科主任教授診療部長、安保雅博先生が大会会長を務め、医療法人雄心会の協力を得て行う交流試合です(日本障害者ゴルフ協会「DGA」主催)。
安保先生は、日本リハビリテーション医学会理事長でもあり、昨年6月の第61回リハビリテーション医学学会学術集会内の特別企画として「障害者ゴルフシンポジウム」を実施されました。このときのテーマは「障害者ゴルフの普及・啓発~障害見ずして球を見よ~」。ここで多くの方から関心を寄せられたことを機に、バリアフリー社会のさらなる充実のため、また、障害者ゴルフへの理解と地域社会との連携を深めるため、障害者と健常者が対等にプレーできるゴルフ競技を開催したのです。
DGA代表の松田治子さんによると、「うちのメンバーはいつも通りの平常心でプレーしていましたが、サポートプレーヤー、特に男性は、障害者ゴルファーたちのティーショットに驚き、感動する人が多かったです。なかには、ビビる方、競争心を見せる方も(笑)」。

ゴルフ愛もあふれる安保先生。多くの障害者たちの心身を“元気に”させてきた。「一緒にプレーすると“バリアフリー”という言葉はいらないですね」
さて、グランプリの部は、天候よりさらにアツい展開に。現在日本の障害者ゴルフのトップランカー吉田隼人(右大腿切断)と、イギリスなどでの国際試合を経てさらに心技体のレベルアップをはかっている秋山卓哉(左大腿切断)がともに76でラウンドし、プレーオフにもつれ込みました。
1番(通常の10番・パー5・490Y)で行われたプレーオフ1ホール目は両者ともバーディ。実は秋山は、ラウンド後にあまり時間がなかったこともあるのか、プレーオフにパターを忘れてきてしまったのです。それでもアイアンを使ってバーディパットをねじ込みます。2ホール目、吉田は持ち前の飛距離を生かして2オン。秋山は3オンを狙うもグリーンを外し、奥からの4打目、起死回生のチップインを狙うもパー。吉田が2パットのバーディを沈め優勝しました。
今大会では、障害者ゴルフで初めて「賞金」が設定されました(グランプリの部のみ/優勝10万円、2位7万円、3位5万円)。これはやはり大いにモチベーションにもなった様子。優勝した吉田隼人は、「プロとして賞金を獲得することでモチベーションが上がり、より高みを目指して頑張れるので、この大会が来年、再来年と継続して開催される事を願っています」。
DGA代表の松田治子さんは、「DGAの公式試合ではありませんが、障害者の試合で賞金が出るのは初めてです。以前から賞金の出る大会をやりたいと考えていました。今回、安保先生と運営事務局に打診したら快諾していただきとても嬉しかったです。障害者の試合と賞金には結びつかないイメージがあるかもしれませんが、そんなことはありません。彼らのプレーは本当に素晴らしく、その対価が賞金なのは至極当たり前のことです。障害者ゴルファーのモチベーションも上がります。これを機に障害者ゴルファーにも賞金を出せる試合が増えたらいいなと考えています。本大会は参加者の評判がよく、来年も実施してほしいという声は多いです」

ゴルフ愛もあふれる安保先生。多くの障害者たちの心身を“元気に”させてきた。「一緒にプレーすると“バリアフリー”という言葉はいらないですね」
形式や内容はもちろん、いろいろな地域で、小さくても様々な大会が広がることこそ、障害者ゴルフの理解と普及につながります。
大会運営に当たった医療法人雄心会専務理事、金子達也さんは、「(サポートプレーヤー募集や寄付集めで)今回の大会の趣旨を理解していただくのが大変でした。本当に趣旨を理解した方だけに参加していただきたかったので。でも、実際障害者とプレーしてみると『学ぶことが大きかった』という方が多く、お互いの理解が深まったと感じました。特に表彰式で新しい人脈を得た参加者が楽しそうにしているのが印象的でした。運営の苦労が報われたと思いました」。

プレーオフを2連続バーディとし、勝負を決めた吉田隼人。「初の賞金が出る大会で結果を残せて嬉しいです」と貫録の笑み
さて、“首謀者”でもある安保先生は、「とにかく楽しかった。そして障害者ゴルファーが楽しそうにプレーしながらも、ここぞというところで決める姿に感動した。彼らとプレーしていると逆に“バリアフリー”という言葉はいらないと思った。障害者ゴルファーとのラウンドを今後も続けていきたいです」。
目指す「共生社会」における、ゴルフというスポーツ・競技の持つ可能性を、多くの人が改めて感じることにもなったのです。