先月、参議院本会議でカスタマーハラスメント(カスハラ)の対策法案(通称:カスハラ対策法)が可決・成立した。具体的な内容は厚労省が今後、指針を示す予定という。「カスハラ」といえば、一般的に飲食店や鉄道でのケースが思い浮かぶが、ゴルフ業界ももちろん無縁ではない。週刊ゴルフダイジェスト8月5日号で特集。「みんゴル」では2回に分けてご紹介。【2回中1回目】

「クレーム」と何が違う?「カスハラ」とは……

本来、顧客等からのクレーム・苦情は、商品・サービスや接客態度・システム等に対して不平・不満を訴えるもので、業務改善や新たな商品・サービス開発につながるものでもあります。他方、クレームのなかには、過剰な要求を行ったり、商品やサービスに不当な言いがかりをつけるものもあります。不当・悪質なクレームは、従業員に過度に精神的ストレスを感じさせるとともに、通常の業務に支障が出るケースも見られるなど、企業や組織に金銭、時間、精神的な苦痛等、多大な損失を招くことが想定されます。企業は不当・悪質なクレーム(いわゆるカスタマーハラスメント)に対して従業員を守る対応が求められます。

「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(厚労省)より抜粋

カスハラがはびこるゴルフ場。原因に「客と従業員の関係性」

近年、話題になっているとはいえ「ゴルフ場でカスハラなんてあるの?」と言う人もいるかもしれない。しかし、ゴルフ場コンサルタントの菊地英樹氏は「『カスハラ』はわりと最近話題になった言葉ですが、ゴルフ場では長らく問題とされてきました」と言う。背景には「客と従業員の関係性」があるという。

「数十年前、ゴルフ場に来る客は地位や名誉があって、いわゆるお金持ちというタイプがほとんど。会員権は高く、プレーフィーも数万円は普通で、客側に『こんなにお金を払っているんだから』という意識があったんです。一方の従業員は若い人が多く、客の言うことを聞くしかないような関係性が出来上がりました。さらに、その後バブルが崩壊してゴルフ場の経営が思わしくなくなった時期があり、すると、客側の立場がさらに強く、従業員が弱くなって……。長らく客側を“甘やかしてきた”歴史があるんです」(菊地氏)。

現に、今回の取材でも多数のゴルフの現場での“実例”が挙がった。

実際にあったカスハラエピソード集

「ツバメのフンで怒る人、巣を作らせないと怒る人」
スタート小屋にツバメが巣を作って、スタート待ちをしている人にフンがかかりました。クレームが入ったので、次の年から巣を作らないようにプラスチックの板を張りました。すると、とあるメンバーから支配人に「愛鳥保護の条例に反する!」と猛烈な抗議が入り、困ったことがありました。実際のところ、ツバメは虫を取る益鳥として大歓迎で、板を張ったのもスタート小屋だけなのに、あの有無を言わせない口ぶりには閉口しました。(元ゴルフ場勤務、山梨県)

「俺を8時にスタートさせろ!」
いい時間帯の予約を無理に押し込もうとするメンバーがいます。しかも、いかにも「俺はメンバーなのに何で言うことが聞けないんだ」と言わんばかりの口調で……。でも、無理なときはきっぱりNOとお伝えします。(ゴルフ場勤務、静岡県)

「朝食メニューを昼に出せと大騒ぎ」
朝食のトーストセットをランチタイムに注文している客を見たことがあります。「パンと卵を焼けばいいんだからすぐできるだろ」と強い調子で言っていて、辺りを凍り付かせていました。同伴者がたしなめたらいいのにと思いましたが、言えないようでした。(60代男性、東京都)

「おやつを盗られた恨みでマスター室前占拠」
「カラスにおやつを盗られた」と激怒し、キャディマスター室に延々と申し立てているおじさんを見かけました。「カラスに注意」という張り紙もしてあったし、カートにポイと置いていた自分が悪いと思います。いい歳して「おやつが……」などという言い方も恥ずかしいと思いました。(30代女性、埼玉)

画像: カラスにおやつを取られて…

カラスにおやつを取られて…

「暗証番号を忘れた!貴重品庫を開けろ!」
貴重品庫の暗証番号を忘れ「自分は○番に入れたから開けろ」と言う客がいた。貴重品庫は全客が帰らないと開けられないようになっていて、その旨、表示しています。本人が「1番に入れた」と言っても証明できませんし。丁寧に説明しても「打ち合わせがある。キャンセルになったら損害賠償を訴える」とわめき散らしましたが、受け入れず、すべての客が帰るまで待ってもらって合鍵で開けました。(ゴルフ場勤務、群馬県)

「途中でやめたんだから半額返せと主張」
肌寒く、午後は雨がパラパラ降りだすあいにくの天気でしたが、「ハーフでやめよう」と言っている組がいました。それはそれでいいんですが、帰りの精算でフロントスタッフにハーフしかプレーしていないので返金しろというようなことを強い調子で言っている人がいて驚きました。(40代男性、神奈川県)

「クラブヘッドの芝が取れていない!」
ゴルフ場に勤務していたときのこと。自宅に帰った客からキャディマスター室に電話があり「家に帰ってキャディバッグを開けてみたら、クラブのヘッドに芝の刈りクズがついている。これはどういうことだ!」と怒鳴ってきたというのです。プレー後、クラブをしまう際にヘッドを拭き切れていなかったということですが、クラブを拭くのはあくまで付帯的なサービスです。お客さんにはその旨やんわりとお伝えしたら激高。「もう来てくださらなくてけっこうです」とお伝えすることになり……。実際にその人はコースに来なくなりましたが、それでいいと思いました。このような人は他の場所でもさまざまなカスハラをしているんだろうと思いました。(元ゴルフ場勤務、茨城県)

画像: 芝が拭き取れてない!と激高

芝が拭き取れてない!と激高

「財布を無くしたと勘違いしキャディのせいに」
とあるゴルフ場で、上がってきた客が騒いでいました。「財布がない。絶対キャディバッグの中に入れていたのに」と、まるでキャディが盗んだような言い方で……。後日、顛末を聞いたら、財布はロッカーの中に入れていたそうです。さすがにその客は気まずそうにしていたらしいですが、キャディへの謝罪はなし。キャディはしばらく仕事を外してほしいと言っていたらしいです。(70代男性、静岡県)

「自分が忘れたクラブが見つからず激怒」
昨年見かけた出来事です。プレーヤーがコースのどこかにクラブを置き忘れたらしく、手が空いている従業員が総出でクラブを探していました。その後、自分たちが上がったら、マスター室でキャディさんが泣いていました。なんとクラブが見つからず、置き忘れた客から激しく叱責されたとのこと。置き忘れたのは客なのに……。ゴルファーにあるまじき行為だと思いました。(70代男性、埼玉県)

「生ビールをビールじゃないと言い張る」
10年ほど前ですが、生ビールを注文した客が「これは生ビールではなくて発泡酒だ」としつこく言い、ウェイトレスを困らせていました。上司らしきマネジャーが出てきて、「お客さま、申し訳ございません」と、瓶の生ビールを持ってきて「こちらを注いだのですが」と丁寧な言い方で、でもちゃんと客を黙らせていて心で快かい哉さいを叫びました。(70代男性、神奈川県)

画像: レストランでのクレーム

レストランでのクレーム

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ILLUST/Koki Hashimoto

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