
「バド・コーリーは現在、世界ランクは60位ですが、来年は初のマスターズ出場も射程圏内に入ってきました。ドラマがある選手が多いこともPGAの魅力かもしれません」(佐藤プロ)
ジュニア時代から全米に名を知られたエリートですが、プロ転向後の人生は波瀾万丈です。90年、フロリダ生まれの35歳。07年にジュニアライダーカップ、09年にウォーカーカップのアメリカ代表に選出され、前後して08年のトヨタジュニアワールドカップでは個人戦でメダリストに輝きました。アラバマ大に進むと通算3勝、1年から3年までオールアメリカンのファーストに選出。プロ転向は大学3年時の11年。予選会から出場権を得た全米オープンがプロ初参戦となりました。11年は推薦などで8試合に出場。うち7試合で予選通過を果たし、トップ10入りも2試合でシード権を獲得。大学からプロ転向し、Qスクールを経ることなくツアーメンバーになったのはフィル・ミケルソンやジャスティン・レナード、タイガー・ウッズと並ぶ史上7人目の快挙でした。
翌12年は優勝こそありませんが、トップ10入り6回でランク38位……と、ここまでは順風満帆のゴルフ人生を歩みます。13年は131位、14年は143位で入れ替え戦に回りますが、ここで上位に入ってシード権を死守。ところが15年は肩のケガで下部ツアーである当時のウェブドットコムツアーに7試合だけ出場、翌16年は公傷制度を利用してのシーズンになりました。しかし実力者であることに変わりはなく、肩のケガが治った17年はランク65位でシードに復活します。
ところが仕切り直しとなった18年、メモリアルトーナメントで予選落ちが決まった5月31日の夜、交通事故に遭うのです。バーで一緒に飲んでいた友人の医師が運転する車が側溝にはまり大木に衝突。後部座席に乗っていたコーリーは肋骨6本と左足を骨折、右肺損傷で2日間に及ぶ手術を受けることになりました。
アラバマ大のチームメイトで、フロリダで3年間一緒に暮らした親友のジャスティン・トーマスが、「あの日のことは鮮明に覚えている。人生の中で最も困難な夜だった」と振り返るように、選手生命が絶たれる可能性もあった大事故でした。しかし、手術後4カ月で奇跡のカムバック。事故前の成績もありギリギリの124位でシード権をキープ。19年は95位、20年は83位でシード選手の座を守ります。
ところがさらなる悪夢が20–21シーズンの開幕直後に襲います。開幕のセーフウェイを14位タイと幸先のいいスタートを切ったコーリーですが、妻の「あなた、シャツが濡れているわよ」という一言が地獄への入り口。約3年前の交通事故で胸に埋め込まれていた金属プレートが、肉を突き破って出てきたのです。取り除くには当然、手術するしかありませんが、その間に成長した肉や骨が覆いかぶさってなかなか取れず。何度か手術しますが、上手くいかず、感染症にもかかるなどして一時は現役復帰が絶望かとも思われました。しかし3年半かかって、公傷制度を使い昨年のフェニックスオープンで復帰を果たすのです。
同制度で27試合が保障されているうち、昨年は17試合に出場。そして今年は残る10試合での参戦です。試合を重ねるごとに結果へのプレッシャーが大きくなる状況ですが、22試合目、残り6試合となった3月のザ・プレーヤーズ選手権。この試合で月曜日に欠場者が出て、コーリーにウェイティングでの出場権が回ってきました。会場のTPCソーグラスが地元に近いことも味方したのか、3日目、この日66のベストスコアを叩き出すと、首位と1打差の2位に浮上。最終日、優勝戦線からは脱落しましたが6位タイでフィニッシュ。これでプレッシャーから解き放たれたのか、続くバルスパーで4位タイ、テキサスで5位タイ。残る保障試合でもすべて予選通過を果たし、現在はシード選手として試合に出場しています。
ちなみに今年は全英オープンまで17試合に出場して予選通過は14試合、うち4試合がトップ10フィニッシュ現時点でフェデックスランクは51位で、12年の38位を超すベストシーズンになるかもしれません。ジュニア時代に強い選手が、プロになってもそのまま強い、というのはアメリカであれ日本であれ、世界のゴルフ界の現実です。
一方でアマチュア時代に名を馳せた選手であっても、消えていく選手が驚くほど多いのも事実。実際、コーリーと一緒に前述のジュニアライダーカップに出場した6人のうちプロの第一線で活躍しているのは、トニー・フィナウ、ウォーカーカップの10人ではリッキー・ファウラー、ブライアン・ハーマンくらいです。コーリーもまた消えていく選手の一人であっても、なんら不思議のないプロ人生でした。
しかし奇跡の大逆転が起こるのもまた、ゴルフというスポーツ。一度、地獄を見たコーリーは不死鳥のごとく舞い戻ってきました。
◆参考ポイント="小指外し"スウィングでタメとしなやかなリストコックを

小さな飛ばし屋が飛距離を伸ばしたポイントは「しっかりしたタメとしなやかなリストコックによるもの」(佐藤プロ。左手の小指を外して打つ練習を取り入れているのがいいという
身長170㎝、73㎏と小柄ながら飛ぶのは、しっかりしたタメとしなやかなリストコックによるもの。ケガの前までは290ヤード台だった飛距離は、現在では303ヤードと10ヤード以上伸びています。ボクもこうしたしなやかなリストコックを使おうと、こんな練習を取り入れています。時には本番でも使う打ち方です。それは左手の小指を外して打つ、というもの。最初は違和感があるでしょうが、手首がグラグラになって、自然とリストが使えるようになります。飛距離を伸ばしたい人は、一度、お試しあれ。
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※週刊ゴルフダイジェスト2025年8月19&26日合併号「さとうの目」より