会員が多い欧米、ビジターが多い日本

閉鎖的で、高額な会費として有名な「オーガスタ・ナショナルGC」
日本のコースの大半が会員制だ。会員制は高額な入会金をコース事業者に払うことで会員となり、プレー権の保証を得るという構造だ。
だが、会員制コースとしながら会員ではないビジターが多くプレーをしている現実があり、その比率は俗に会員3割、ビジター7割ともいわれている。本来会員制のコースは会員がゴルフのプレーをするための施設だから多くのビジターがプレーをしていることはおかしいともいえる。
では欧米のコースではどのような運営がなされているのだろうか。
アメリカのプライベートコースは会員が支払う年会費で賄っている。通常プライベートのコースの会員数は300~500人ほどしかいない。この人数でコースを維持運営しているのだ。つまり、年間の総経費を300人で均等に割り、その金額を会員が負担する。それをできる人だけが会員でいられ、できなければ退会しなければならない。アメリカの西海岸の高級住宅にベルエアがある。映画の都ハリウッドの近くで、敷地内には映画関係者の住宅もあり、何番ホールかは忘れたが、キャディがこの家は「アルフレッド・ヒッチコック監督の家だったんだよ」と教えてくれた。
コースが出来たのは1925年、コースを設計したのはジョージ・クリフォード・トーマス(1873~1932)だ。東部の裕福な家庭に生まれたトーマスが大学で学んだのは造園学で、なかでもバラの研究を得意とし1000種類ほど栽培していた。広大だった自宅の敷地にホワイトマーシュバレーCCを造り、自宅をクラブハウスにしてしまうほどの大豪邸だった。温暖な気候の西海岸に移り住んだが、その理由はコース建設ではなく「バラなどの研究するためだった」といわれる。

ベルエアCC
そのベルエアCCの会員数は400人。現在、年会費は改定されていると思われるが20年ほど前は2万ドルだった。現在の1ドル160円で計算すると会員1人年間320万円になり、全体で12億8000万円集めることができ、この金額で1年間運営することになる。この中には月500ドルのレストラン費用も含まれており、食べても食べなくても負担することになる。1年間、会員が毎日プレーに訪れてもプレー費は払わなくてもよく、また会員やビジターが1人も訪れなくても、コースを維持することができることになる。だから会員制コースはステータスになるのだ。ちなみに赤字になったら、その金額を会員数で割り均等に負担する義務が生じ、払わなければ退会することになる。
このような会員制コースに入会できないゴルファーは、ムニンシパルなどのパブリックコースでプレーを楽しむことになる。
日本に目を向けてみよう。会員制としているが、先に述べたようにビジターの比率が7割と高く、ビジターがプレーに来ないとコースの維持ができない。その最大の要因は年会費が安すぎるからだ。近年、年会費が10万円をこえるコースもあるが、大半はコースが開場した当時のままで3~5万円が多い。会員数が1000人なら3000~5000万円にしかならなくこれでは固定費を賄えなく、入場者が減じればたちまち窮地にたたされてしまうことになる。そのためにも少なくとも固定費を会員数で割り、最低でも1人50万円の年会費が必要になる。
このように欧米の会員制コースと日本の会員制コースには大きな隔たりがあり、日本の会員制コースは経営的にかなり脆弱だといえる。
文・写真/吉川丈雄(特別編集委員)
1970年代からアジア、欧州、北米などのコースを取材。チョイス誌編集長も務めたコースやゴルフの歴史のスペシャリスト。現在、日本ゴルフコース設計者協会名誉協力会員としても活動中