タイの首都バンコク郊外に難易度の高いリンクスが出来て話題になっていると耳にした。設計は高評価のコースを手掛けているだけではなく、世界的な名門コースを数多く改修しているギル・ハンスだと分かった。しかも1917年チャールズ・ブレア・マクドナルドが手掛けたニューヨーク州ロングアイランドのリドーCCをオマージュしたというではないか。これは現地に飛ぶしかない、早速クラブを担いでバンコクに向かうことにした。
  1. 気持ちが高揚するのはリンクスだからか、
    ギル・ハンスの傑作だからか
    OUT 9H・3644Y・P36

取材・撮影/吉川丈雄(特別編集委員)
参考資料/The Golden Age Golf Design、The World Atlas Golf
Special Thanks/ Ballyshear Golf Links(Thailand)

Part 1●アウトコース編
コースを眺めた瞬間、
心は1917年のリドーCCに飛んだ

首都バンコクのスワンナプーム国際空港から車で約25分、バンコク市内からでは40分ほど走るとバリシアーGLに辿り着く。アクセスの良さは海外では限られた時間を有効利用できることになり嬉しいことだ。

コースは2022年2月に開場、タイでは新しいコースのひとつで、その特徴は “リンクス”であり、しかも難易度の高いコースだ。特筆すべきは、世界の最先端を走るコース設計家、ギル・ハンスが手掛けたということだ。

難易度の高いコースはゴルファーの技量を問うことになり、ゴルファーは自らの技量を自覚し、さらに高めようとするきっかけになる。つまり「コースがゴルファーを育てる」わけだ。もし容易なコースばかりでプレーをしていたらそれほど上達しないだろうし、向上心もあまり湧かないだろう。

ゴルフというゲームは不条理なゲームであり、理念としてゴルファーに「あるがままを受け入れよ」という度量が求められる。それらを克服することによってゴルファーはさらなる技量を手中に収めることができ、結果的により高いステージに向かって行くことにつながる。

ハンスはなぜ難易度の高い、しかも内陸部にリンクスを造り上げたのだろうか。「その土地が持つ自然なポテンシャルを最大限に活かし、面白くて楽しいコースを心掛ける」と彼は語っている。つまり、ここでのハンスの答えは“リンクス”だったわけだ。

間違えているかもしれないが、ハンスは本格的なリンクスこそが「ゴルフの神髄」であり、ゴルフというスポーツはリンクスで始められ「リンクスで極める」ものだと考えているのだろうと想像できる。

その理由は、現代を代表するコース設計家のビル・クーア&ベン・クレンショー、トム・ドーク、そしてギル・ハンスらは、今まで見たことのないようなエキサイティングなリンクスを世界中に造り続け、高評価を得ているだけではなく、いずれもランキング入りしているという現実があるからだ。

ハンスが好きなコースを調べたことがある。ほとんどが自分と同じだったのは嬉しかった。そのコースはセントアンドリュース(オールド)、ザ・ナショナルGLオブ・アメリカ、シカゴGC、サイプレスポイントC、ロサンジェルスCC、メリオンGC、ジ・オナラブル・カンパニー・オブ・エジンバラ・ゴルファーズ(ミュアフィールド)、パインバレーGC、ロイヤル・カウンティダウンGC、ロイヤル・メルボルンGC(西)だ。

ハンスが挙げた10のコースを見て、シーサイドリンクス、シーサイドコース、そしてインランドリンクスだと分かり、彼の好みはリンクスだということが明白になった。

ギル・ハンスが尊敬する
チャールズ・B・マクドナルドとは

ハンスが尊敬するコース設計家のひとり、チャールズ・ブレア・マクドナルドは1872年に16歳でスコットランドのセントアンドリュース大学に留学し、その当時まだ活躍していたオールド・トム・モリスと親しくなり、直接ゴルフを教わっている。

モリスはプロゴルファーであると同時に、バンカーの前縁が崩れないようにソッドウォールバンカーを考案するなど卓越したコース管理者でもあり、世界最初の本格的コース設計者でもあった。

モリスから教えを得たマクドナルドは、アメリカに帰国後、多くのコースを手掛けるだけではなく全米ゴルフ協会(USGA)設立にも尽力を注ぎ、それまで統一されていなかった競技ゴルフの基礎を確立させている。

マクドナルドが「本格的なリンクスをアメリカに」とニューヨーク州サウサンプトンに造り上げたザ・ナショナルGLオブ・アメリカの完成は1911年。

スコットランドのリンクス同様に各ホールには名前が付けられ、アルプス、レダン、ホグスバック、ショート、ロング、エデン、ケープ、パンチボール、ホームなどの名称が使われた。

同じくマクドナルド設計によって1917年に完成した、ニューヨーク州ロングアイランドのリドーCCにもマクドナルドのコース理念である、テンプレート構想が盛り込まれた。

珠玉のリンクスと評価された
リドーCCのスコアカードを手に入れた

バリシアーGLは、リドーCC(Lido Golf Club/Lido Country Club)を基盤にマクドナルドの設計理念そのものをオマージュすることからスタートしたという。比較するために、今は現存しないリドーCCのスコアカードを探し求めた結果、幸運にも1923年当時のヤーデージが表示されているものを手に入れることができた。

1番から18番までどこのコースの何番ホールから「デザインソース」を得たかが記入されている非常に貴重な資料といえるものだった。

画像: リドーCCのスコアカード

リドーCCのスコアカード

カードを見ると、リドーCCはザ・ナショナルGLオブ・アメリカからアウトは1、2、5、7、9番、インでは12、14、16番ホールと8ホールがデザインソースになっている。

そのうちマクドナルド自身は、11、15、17番ホールでリドーCCの現場監督を務めた。仕事のパートナーであり、独創的なセンスの持ち主であったコース設計家セス・レイナーは6番ホールをデザインしたことが分かった。

特筆すべきは18番で、アリスター・マッケンジーがデザインコンテストで優勝した2ショットホールを実現させていることだ。正直な話、マッケンジーが優勝した2ショットホールのアイデアが現実に造られていたことは知らなかった。

バリシアーGLに話を戻し、早速1番ホールから観察することにしよう。

バリシアーGLはバンコクの平野部にあり、バンコク湾から10kmの位置にあるためコースには常に風が吹いている。アウトは反時計回り、インは時計回りのレイアウトにされている。最北端は3番のグリーンになり、4番ティーイングエリアは最北端のティとなる。これは太陽の軌道を考え、プレー中のゴルファーが眩しくないようにと配慮されていることになる。

訪れた季節は雨季だったが、雨は夜か日の出前に降ることが殆どでプレーにはほぼ影響がなく、日中は曇っているので日本の夏のような暑さもない。また、ギル・ハンスが排水施設を徹底して設計したことで、スコールの後でも、ボールの位置までフェアウェイ走行することができ、快適にプレーができる。

画像: Ballyshear Golf Links

Ballyshear Golf Links

Ballyshear Golf Links(バリシアーゴルフリンクス、開場/2022年 18H・7115Y・P71、コース設計/ギル・ハンス)

かつてのキアタニCCの跡地を整地し、新たにギル・ハンスが設計。1917年ニューヨーク州ロングアイランドに造られたリドーCCをオマージュされたコースは、タイ初めての本格的リンクスタイプのコースであり、その出来栄えは珠玉といえる。ハンスにとってアジア最初のコースだった。

バリシアーとは、チャールズ・B・マクドナルドが暮らし、こよなく愛したロングアイランドの屋敷名。マクドナルド自身が「バリシアー」と命名したことから、尊敬の意味を込めてギル・ハンスが名付けたもの。

気持ちが高揚するのはリンクスだからか、
ギル・ハンスの傑作だからか
OUT 9H・3644Y・P36

グリーンに付けられた大きなうねりに驚いてしまった
1番ホール/407・386・358ヤード
パー4(FIRST)

リドーCCの1番(384ヤード/パー4)は、ザ・ナショナルGLオブ・アメリカの15番ホール(383ヤード/パー4)がデザインソースとなった。この15番は“ナロー(狭い)”と言われてボールの落下地点のフェアウェイは2つのマウンドに挟まれて狭い。

バリシアーGLの1番は、やや長めのパー4で僅かに左ドッグレッグしておりフェアウェイ右にバンカーが2個、さらに左には大きなバンカーが張り出し、その先にもバンカーがある。

グリーン右手前と横に2個、左に2個と全部で8個のバンカーが配され、バンカーを意識して攻めることになりデザインソースとなった、ザ・ナショナルGLオブ・アメリカの15番の“ナロー”と重なる。

フェアウェイはほぼ平坦でライはよく手入れもよく行き届いていた。グリーンはやや打ち上げになり、グリーン面には大きなマウンドが2つありマウンドとの間にボールがあればピンの位置により難しいパッティングになる。(※表記のヤーデージは、ブラック・グリーン・ブルーの順で、ブルーがレギュラーティ)

飛距離不足を痛感しウェイストエリアの餌食に
2番ホール/510・490・460ヤード
パー4(DOG´S LEG)

レギュラーからでも460ヤードで、ブラックからは510ヤードある距離のあるパー4。7番のパー5は、ここよりも短い506ヤードでパー5だから、どう違うのか7番で確認する必要がある。

1打目はウェイストエリアを越えて半島状のフェアウェイに打っていく。2打目はさらに広いウェイストエリアを越えて、四方をバンカーにガードされたグリーンのピンを狙うことになり正確性が求められる。(※ハンスデザインは、ウェイストエリアをトランジッションエリアの表現を使用)

リドーCC 6番(493ヤード/パー5)の“ドッグレッグ”は、セス・レイナーがカントリーライフ誌のコンテストで優勝(3ショットホール)したホールの再現だった。セス曰く「パー5だが6でもある」

バリシアーGLと、オマージュされたリドーCCとでは敷地の関係で2番と6番が入れ替わっている。

グリーンに大きなうねりはないが、傾斜が付けられているのでボールの落とし場所により3パットをしやすいといえる。1番はパーだったが、2番では難易度が急激に上がったという印象を受け、これが「リンクスの洗礼」だと気持ちはすこぶる高ぶった。スコアカードを確認すると、納得のHC1だった。

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