取材・撮影/吉川丈雄(特別編集委員)
参考資料/The Golden Age Golf Design、The World Atlas Golf
Special Thanks/ Ballyshear Golf Links(Thailand)
バリシアーGLは楽しくも難しいリンクスだ。打ちのめされても疲労や嫌悪を受けなかったのは新しいコースへの好奇心と、コース設計家 ギル・ハンス、そしてチャールズ・ブレア・マクドナルド、セス・レイナーの息遣いを感じ取ろうとしていたからだった。
ルーティングから始まりトラップの位置配列と形状、グリーンの形状と傾斜のパーセンテージ、そしてフェアウェイのうねりとウォーターハザードの使い方などすべてを記憶しようとしていたからだ。これだけの要素を観察できるコースはそれほど多くない。
自分史の中ではオーガスタナショナルGC、ロイヤル・メルボルンGC西、プレストウィックGC、ミュアフィールド(スコットランド)、そして川奈ホテルGC富士ぐらいだ。バリシアーGLは自分にとって魅力にあふれ、心に刻まれるコースとなった。
打ちのめされても
挑戦する価値を教えてくれる
マンメイドリンクス
アウトコースをプレーして9ホールを観察したが、ここには荒ぶる海風が吹き抜けていくことはなく、バンカーの砂の中に貝殻を見つけることもないが、どこから見ても「神が造り給うた」リンクスそのものだ。
内陸部にあるが、微妙な起伏とリンクスを思わせる芝のない部分(ウェイストエリア)は視覚的に「打ち込んではいけない」と警告を発する。その警告を受けているのにもかかわらず必要以上に力んでしまい、そして飛翔していくボールはごくごく自然にウエストエリアに吸い込まれていく。
非日常的な景観の中に身を置いていることから、果てしなく続く荒野で迷子になったような気がしてくる。ゴルフは「メンタルなスポーツ」だと認識している、ゴルフは「不条理なスポーツ」だということも十分理解している。それを上回るギル・ハンスのコース理念の高さに「負けてたまるか」と奮起しても毎ホール打ち負かされてしまう。
その理念はどこから来るのだろうか。
「先人たちは自然の特長に戦略性を持たせ、敷地を最大限に活用していた。プレストウィックやノースベリックでは思いもよらないものを目撃でき、これらに影響を受け参考にしている。その理由はコース設計の限界を広げているからだ」とハンスは語っている。
つまり、リンクスこそ「ゴルフのゲーム」にふさわしいと考えているからリンクスを手掛け、ここバリシアーGLでもリンクスを造ることになった。黄金時代といわれる1900年初期代表的コースのひとつで、マンメイドリンクスの聖杯とされるリドーCCをオマージュすることにしたのだろう。
きっと発注したオーナーだけではなく、関わった多くの人が『リドーCCのオマージュ』というそのアイデアに驚き、そして潔く賛同したのだろう。
「誰もが楽しく興味深いコースを造りたい」「綿密な研究とプレーが報われ、何度も何度もプレーしたくなるコース」というハンスの考えは理解できるし、正解だと思う。
ゴルフ場について考えてみた。他のスポーツ、例えば野球、サッカー、卓球、バスケットボールやバレーボールなどは戦うフィールドの大きさや形状は、規則である程度決められている。陸上競技も100メートル、200メートルなどと競う距離は異なるが1周400メートルのトラックが使われる。
ゴルフ場にはそのような規定はない。距離が6000ヤード、パー70でも7500ヤード、パー72でも全長やパーの数の規定もない。つまり、コース設計家は与えられた大地を思う存分に使うことができ理想とする18ホールを造ることができる(もちろん法的制約と予算内でのことだが)。
コース設計家がイメージする理想的なコースとはどんなものだろうか。少なくともハンスの答えはバリシアーGLにあると思われる。

Ballyshear Golf Links(バリシアーゴルフリンクス、開場/2022年 18H・7115Y・P71、コース設計/ギル・ハンス)

Ballyshear Golf Links(バリシアーゴルフリンクス、開場/2022年 18H・7115Y・P71、コース設計/ギル・ハンス)
難易度の高いコースをプレーすることにより自分の技量が明確にされ、足りない部分を練習とラウンドで補う、これが本来のゴルフというスポーツではないだろうかと思った。なぜなら容易なコースには飽きてしまうからだ。
難コースだとして、多くの選手からクレームが殺到した1982年のTPCソーグラスでのザ・プレーヤーズ選手権、試合が終了し表彰式の後に優勝したジェリー・ペイトは抗議の意味を込めてコミッショナーのディーン・ビーマン、設計したピート・ダイを道連れにして18番横の池に飛び込んだ。だが、その難コースも、今では「難しすぎる」などと訴える選手はひとりもいない。
当時のゴルフクラブといえば柿の木を削ったパーシモンヘッド、アイアンはマッスルバックでいずれもシャフトはスチールだった。当時に比べればボールやクラブの進化は著しい。現在はツアー選手の多くがいとも簡単に300ヤード以上飛ばす時代だ。
難易度というものの解釈が大きく変化して、道具も、コースも、少しずつ進化していることがこのような事象で判断できる。
コース設計家がどんなに難しく造り上げても、やがて人智が勝り、やがてその難しさがスタンダードになっていく。そしてゴルファーはより賢く強くなる。ハンスのコースをプレーしていてそう思った。ハンスがリンクスに思いを抱き、手掛ける気持ちが少し見えてきた瞬間だった。
ゴルフはリンクスで始められ、それは自然との対峙であり終わりのない挑戦でもある。アメリカゴルフ誌のパネリストが「世界の潮流はリンクスタイプ。このままでは世界ベスト100コースはリンクスが主流になり、やがて日本のコースは自動的に押し出されてしまう」と嘆いていたのを思いだした。
さて、気持ちを切り替えてインコースをプレーしながらハンスの世界に浸り、マクドナルド、レイナーの姿を見つけることができたら彼らとも会話してみようと思う。さぁ、楽しくも苦難を伴う午後の始まり……。
マクドナルドとレイナー、そしてハンスの
無差別攻撃にも心は高ぶり喜ぶ
IN 9H・3471Y・P35
プレストウィックを彷彿させるアルプスで早くも遭難
10番ホール/405・385・370ヤード
パー4(ALPS)
“アルプス”のホール名で有名なのは、プレストウィックGCの17番(394ヤード/パー4)だ。打ち上げの丘越えで、1打目はブラインドになる。グリーン手前には驚くほど大きくて深いバンカーがある印象的なホールだ。かつてプレストウィックを訪れた時、この17番アルプスでプレーしていたベン・クレンショーに出会ったことを思いだした。
リドーCCの10番(414ヤード/パー4)アルプスも、ザ・ナショナルG Lオブ・アメリカの3番(418ヤード/パー4)も、谷越えの打ち上げでグリーンは視認できない。
バリシアーGLの10番は、アルプスの名の通りティーショットは打ち上げで、かなり広いウェイストエリアの先にアルプスのごとく丘が広がる。グリーン奥、11番と15番の間にもウェイストエリアが広がり、まるで景観と難易度を誇示しているようでもあった。
丘を越えることができないゴルファーは右回りのルートが用意されているが、この場合は3オン狙いとなる。実際に構えると、ティーイングエリアの先はウェイストエリア、その先に小高い丘とフェアウェイがあり、その先は視認できない。飛距離が出せればブラインドながらもグリーンを狙うことができる。丘には裸地状態のウェイストエリアがあり、ここからピンを狙うのはかなり難しいのではと思われる。

10番ホール/405・385・370ヤード/パー4(ALPS) ※写真の手前部分が小高い丘になり、それを越えるように打っていく
多くのゴルファーは右の広いフェアウェイに打つことになるだろうが、そこはかなりの右傾斜が付けられていてグリーンからどんどん遠くなる。目の前の丘を越えるとグリーン手前に大きなバンカーが現れ、グリーンは横長で2段グリーンになっている。

10番ホール/405・385・370ヤード/パー4(ALPS)

10番ホール/405・385・370ヤード/パー4(ALPS)

10番ホール/405・385・370ヤード/パー4(ALPS)

10番ホール/405・385・370ヤード/パー4(ALPS)
飛ばさないとパーオンが難しくなるパー4
11番ホール/440・408・381ヤード
パー4(LAGOON)
リドーCCの11番(408ヤード/パー4)のデザインソースは、マクドナルド自身によるものだった。バリシアーGLの11番は、右ドッグレッグのパー4でフェアウェイに4つのバンカー、左は10番グリーンから15番のフェアウェイを分断する広大なウェイストエリアになっていて、まるでパインバレーのようだと言いたいが、ここは紛れもなくバリシアーGLだ。グリーン周りにはバンカーなどのトラップはない。

11番ホール/440・408・381ヤード/パー4(LAGOON)

11番ホール/440・408・381ヤード/パー4(LAGOON)

11番ホール/440・408・381ヤード/パー4(LAGOON)
1打目は打ち上げでティーイングエリアからその先の小高い丘までウェイストエリアになっていてプレッシャーを受ける。狙いはやや左になる。右の丘からバンカーが連なるのが見え、残り距離を考えれば入れたくないトラップだ。グリーンは大きいが右手前は大きくえぐれており、全体的に傾斜が強く感じられた。