1970年代からアジア、欧州、北米などのコースを取材し、現在、日本ゴルフコース設計者協会名誉協力会員として活動する吉川丈雄がラウンド中に話題になる「ゴルフの知識」を綴るコラム。第30回目は、セントアンドリュースGCが「アメリカ最古のコース」とされてきた理由について。

真の起源を巡る二つの物語

アメリカ最古のコースは、ニューヨーク郊外のヨンカースにあるセントアンドリュースGCとされている。

貿易商のロバート・ロックハートは、移民前のスコットランドにいた少年時代にマッセルバラGCでプレーを楽しんでいた。仕事でセントアンドリュースに出張したロバートは、トム・モリスの店でクラブを6本、ガタパーチャーボールを2ダース購入するとアメリカに持ち帰った。ロバートは息子と近くのセントラルパークに行き試し打ちをすると、クラブを友人のジョン・リードに発送。公園でボールを打ったことからか、警察官に咎められたという記録が残っているそうだ。

1888年2月22日はアメリカ初代大統領ジョージ・ワシントンの生誕記念日だった。ジョン・リードの裏庭に100ヤード前後3ホールを造りゴルフを楽しんだのは、ロバート・ロックハート、ジョン・アルプルハム、ハリー・ホルブルック、ヘンリー・トールマッジ、キングマン・プットナム、そしてジョン・リードの6人だった。

狭いことからもっと広い場所でプレーすることになり、近在の農場に土地30エーカー(36000坪)を借りると6ホール造った。その後の1892年、リンゴ園を借りて6ホール造り、大きなリンゴの木の下に集まり、そこをクラブハウス代わりにしてプレーするようになったことから「オールドアップルツリーギャング」と称した。これがアメリカ最初のゴルフ組織とされている。ジョン・リードは同年の11月14日にセントアンドリュースGCを設立している。ここまではアメリカゴルフの正史とされているエピソードだ。

だが、調べると1739年に深南部のサウスカロライナ州チャールストンのウィリアム・ウォーレンにクラブが届いており、1787年にチャールストンにサウスカロライナGCが設立されている。ニューヨーク州ヨンカースのセントアンドリュースGCよりも実に101年も前のことだ。

この不思議な事例をある時、バージニア州生まれでジョージア州に暮らしていた生粋の深南部人といえるプロゴルファーの友人カーター・スミスさんに質問してみたらビックリするような答えが返ってきた。

画像: シカゴGC

シカゴGC

「恐らくだが」と前置きをして「1861~65年、アメリカの北部23州と南部11州が戦った市民戦争(日本では南北戦争と呼ぶ)の影響だと思う。勝った北部が政治の中心になり、そのほかの物事も北部がアメリカの中心として機能し歴史は勝者の物となったからだ。1894年にシカゴGCのチャールズ・ブレア・マクドナルドの提案によって全米ゴルフ協会が設立されたことでゴルフも北部が中心になり、その瞬間ゴルフの歴史も北部の物になってしまったと思われる。負けた南部に彼らよりも101年も古いコースが存在していたことは許し難いのだろう。何度もアピールしたが全く相手にされなかったようだ」。

南北戦争による分断は今でも根深いといわれ、事実建国200年祭の1976年、南部の都市には南軍のモニュメントが建立され、実際に見て驚いた記憶がある。9.11の時「ニューヨークはアメリカじゃない、アメリカとは南部なんだ」という深南部人のコメントをテレビで視た時も驚いた。今でも南北戦争は北部による侵略戦争(The war of Northern Aggression)だったと南部人いう。

文・写真/吉川丈雄(特別編集委員)
1970年代からアジア、欧州、北米などのコースを取材。チョイス誌編集長も務めたコースやゴルフの歴史のスペシャリスト。現在、日本ゴルフコース設計者協会名誉協力会員としても活動中

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