プレッシャーのかかる“ヒマラヤ”ホール

打ち上げホールのデザインはその形状から“ヒマラヤ”と呼ばれる(写真/渡部義一)
ゴルフコースのホールには適度な起伏が求められ、その起伏の度合いにより景観や難易度が変化する。打ち下ろしのホールではミスしてもボールは転がっていくが、打ち上げではかなり飛距離が落ちてしまい、ゴルファーにとって打ち上げのホールは苦手意識が生じやすい。
打ち上げホールのデザインはその形状から“ヒマラヤ”と呼ばれる。ヒマラヤで最も有名なホールといえば、スコットランドのプレストウィックGCの5番(231ヤード・パー3)だろう。パー3としては距離がありしかも打ち上げだからかなり難易度は高い。ティーイングエリアからはグリーンは視認できない。そのためホールアウトしたら、グリーン横にある鐘を鳴らすことになる。鐘の音が聞こえたら後組はティーショットをする。
スコットランドのコースには鐘が設置されているコースが多い。アメリカにもコロラド州デンバー郊外にあるプラムクリークGCにも鐘が設置されたホールがあった。この場合は、どちらかといえば遊び心的なもので、コースを設計したピート・ダイがプレストウィックGCを訪れた際、コースの原点というべきリンクスに感動し、結果「スコティシュへの回帰」を唱えたが、その時に目撃した鐘やバンカーに枕木を使うことを後のコースデザインに反映させているからだ。

千曲高原CCは、グリーン面が見えないパー4がある
高低差の大きい日本のコースにも“ヒマラヤ”ホールはある。長野県の千曲高原GCの4番(278ヤード・パー4)はグリーン手前からまるで壁のように急激な上りになっていて、グリーン面を視認することはできない。
静岡県御殿場にある富士CCの12番(400ヤード・パー4)は、ティーイングエリアで構えると「フェアウェイに届くかな」と思ってしまうほどの打ち上げで思わず力んでしまう。ホールの高低差は最大でなんと36メートルもあり、目の前にあるフェアウェイは壁というよりも崖というほうが相応しい(31メートルある)。この難関を超えるには10階建てのビルを跳び越すショットが求められる。10番はトリッキー、11番は距離のある打ち上げのパー4だから12番に辿り着いた時点でそれなりに疲れてしまう。
川奈ホテル大島コースの8番(464ヤード・パー5)のフェアウェイの左側はかなり高くそびえ、右へと下がっているがティーショットは高弾道で飛距離も求められる。峠のようなこのホールの名前はOCHIUDO-MAWARI(落人回り)といい、峠を越えなければホールなりに右から攻めなさい、という意味合いから付けられた。
コース設計者の嶋村唯史さんは「コースのデザインをするとき、3ホール単位で考えます。その中で強弱をつけていき、18ホールがバランスよくなるようにするわけです」と語ってくれたが、池越えがあれば打ち下ろしの容易なホールもあり、そして高弾道、大きな飛距離を求める難易度の高いホールもあるわけだ。それぞれのホールは変化があり個性的だが、18ホールという単位でみればゲームとして成立するように工夫されていることになる。
文・写真/吉川丈雄(特別編集委員)
1970年代からアジア、欧州、北米などのコースを取材。チョイス誌編集長も務めたコースやゴルフの歴史のスペシャリスト。現在、日本ゴルフコース設計者協会名誉協力会員としても活動中