ライダーカップを象徴する1枚の写真がある。茜色に染まる夕暮れをバックにセベ・バレステロスと同郷(スペイン)の後輩ホセ・マリア・オラサバルがシルエットで握手を交わす1枚だ。

1991年ライダーカップでセベ・バレステロス(左)とホセ・マリア・オラサバルが握手するシーン(PHOTO/Getty Images)
アメリカの連戦連勝を食い止めヨーロッパ優勢の流れを作った立役者2人。写真に顔は写っていなくても2人の喜び、興奮、絆が浮かび上がってくる傑作だ。
その写真でもわかるように80年代までのライダーカップではほとんどの選手が帽子をかぶっていなかった。セベやオラサバルだけでなく、米チームのジャック・ニクラスもトム・ワトソンも当時は後ろ髪を伸ばし風になびかせていた。
前回のイタリア(ローマ)大会でパトリック・カントレーがUSAのエンブレムがついたキャップをかぶるのを拒否し物議を醸したが、彼は主催者が莫大な収益を上げていることに対する批判的立場を示したかったようだ。波風を立てないためか会見では「サイズが合わなかった」と話しているが……。
あくまで推測だが選手が無報酬(20万ドル寄付はできるが)で戦うのはいい。しかし収益を上げ多くの報酬を受け取る幹部たちがいることが不公平だと感じたゆえの行動。カントレーは無帽で抗議しギャラリーから盛大なブーイングを浴びたのだ。
タイガー・ウッズの登場でゴルフ界は潤った。他のスポーツもそうだが選手たちは広告塔の役割を背負うことになった。
企業スポンサーは選手がかぶる帽子の前面、右側面、右袖にロゴを配することを最重要課題としている。特に帽子の前面はゴールデンスポット。そこにロゴを入れるためにメーカーは大金を投入する
世界ランクトップクラスになると契約金は年間500万ドル(約7億4000万円)から1500万ドル(約22億円)が相場といわれており帽子の前面ロゴは必須。スポンサー契約する限り選手は帽子をかぶらずに競技に出ることはできない。

1986年マスターズ。ジャック・ニクラスは無帽だし、中嶋常幸はマスターズのロゴ入りキャップで試合に挑んでいた
ニクラスが86年にマスターズを46歳で制したときは帽子をかぶっていなかった。だからこそ最後のパットを決めたシーンの眼光鋭いかなつぼまなこが強調されたのだ。
タイガーが登場した90年代後半ゲーリー・プレーヤーとリー・トレビノが「いまの選手たちはゴルファーというよりビジネスマンのよう。皆アタッシュケースを持って飛行機乗っている(苦笑)」と揶揄していたが、いまはその頃の比ではない。
80年代のライダーカップの写真と最近の写真を見比べたとき、80年代の選手の方が個性的で独自の色を持っているように感じるのは帽子をかぶっていなかったせいかもしれない。