飛びも、打感も、やさしさも・・・かなり欲張りなアイアン
テーラーメイドは、とかくドライバーやウッド系(最近はパターも)が注目されがちだが、世界を見渡してほしい。シェフラー、マキロイ、フリートウッド、モリカワ、といったPGAツアー屈指のショットメーカーは、言わずもがなテーラーメイドのアイアンを使っている。それ以上に、性能の確かさを証明するものはないのではないか。

PGAツアーのトップランカーが信頼を寄せる、テーラーメイドのアイアン。彼らのフィードバックが同社のアイアンには脈々と流れている
そんなテーラーメイドアイアンの最新作「P8CB」アイアン、まずはどんなモデルかをおさらいしておこう。

軟鉄鍛造の「P8CB」アイアン。打球部の裏を厚肉にし、さらなるソフトな打感を実現している
前述のとおり「P8CB」アイアンは軟鉄鍛造。素材はS25Cを採用し、これを他では類を見ない2000トンという強力なプレス機によって鍛造。これにより均質で緻密な金属組織が形成され、やわらかくかつ芯を感じる打感、そして高精度な仕上がりになる。
さらに、打球部裏は厚肉設計となっており、これも深く心地よい打感を生み出す。

また“やさしさ”も「P8CB」アイアンのウリのひとつ。5番~8番にはヘッド中央部分に比重の軽いセラミックをイン。これによりヘッド中央の軽量化を図り、ヘッドの周辺部に重さを配分でき、寛容性が高められている。ヘッド長も810ミリとやや長めで、同じ7番のロフトが30度の「P790」アイアン(同790ミリ)より見た目の安心感も大きい。

余剰重量をヘッドの外周に配置。慣性モーメントを上げ、ミスヒットに対して抜群の強さを発揮
「P8CB」アイアンはアジア限定モデルということもあり、ソールにも細かな工夫が施されている。ソールを3つに分けて考えた「スピード ソール デザイン」は、高麗芝など日本の芝で最高の抜けを実現するように研究を重ね、開発されたものだ。

中央部のミッドソールは、日本の芝に最適なバウンス設計。リーディングエッジ(赤部)は、さまざまな入射角に対応。トレーリングエッジ(青部)は、接地面積を減らし別格な抜けの良さを実現
ロフト30度でちょい飛び、重心設計により高弾道、寛容性が高く、軟鉄鍛造らしい打感の良さもある。そんな欲張りな性能が、「P8CB」アイアンには備わっているという。
安心して構えられる「ちょっと大きめ、ちょっとグース」
では、その本当の性能はいかがなものか。2人のベテランゴルファーに検証してもらうことにした。

福永和宏プロ。1969年生まれ。正確なショットと豊富な試打経験でクラブの違いを敏感に感じ取る。ツアー1勝

宝地戸展幸さん。1972年生まれ。HC2.6のエリートアマ。今年、月刊GD「D-1グランプリ」のテスターも務めた
アイアンは顔が大事、ということで、まずは見た目の印象から。2人ともややオフセット(グース)の形状に着目した。
「これ、僕らみたいなベテラン勢にはしっくりきますね。やっぱりグースネックって安心感があるんですよ、ボールを包み込んで勝手につかまえてくれる雰囲気があって。ヘッドも大きめでそこも安心できる。ストレートネックでブレードが薄いヘッドは、どうしても力みやすいので、これぐらいのグースとヘッドサイズは絶妙です」(福永プロ)
「最近はストレートネックに慣れてしまっていて、正直グースネックは“おやっ!?”て思いました。でも、9番アイアンやPWはグース感が減って、まったく違和感がないですし、何なら構えやすい。ヘッドが大きくて包み込む雰囲気なので、スライスが出るイメージはない。うん、安心感が大きいですね」(宝地戸さん)

7番(左)と9番の比較。つかまりが増す短い番手になるにつれて、グースの度合いを減らしている
【9番アイアン】想像以上にソフトな打感、そして飛ぶ(宝地戸さん)
では、試打に移ろう。今回は、「P8CB」アイアンの9番、7番、5番と徐々に番手を上げていきながら打ってもらい感想を聞いた。まずは9番アイアンから。

ショートアイアンを納得いくまで打ち込む。ボールは「TP5x」を使用
「ショートアイアンって、個人的には高く上げたり、低く抑えたり、ドロー、フェードを打ちたい、そういう意思が伝わってほしいクラブです。この「P8CB」アイアンでもそういう球筋の変化は可能です。でも、どちらかというとそういう細工をするよりは、真っすぐ狙ったところに飛ばす性能に長けていると思います。操作しやすいということは、裏を返せばピーキーということでもありますから。多くの人にとっては、狙った方向にミスなく飛ぶ、「P8CB」アイアンのような性格のほうがはるかにスコアにつながるはずです」(福永プロ)
「私はショートアイアンで引っかけるのが嫌なんですが、その気配はまったくないです。それに楽に飛距離が出ますね。なるほど、9番でロフト39度ですか。ちょっと立っている分、140ヤード余裕で打てました。それから、ちょっと薄めに当たっても距離が落ちないのは驚き。これって、僕らアマチュアにとっては何よりも心強い“やさしさ”。スコアに直結しますから。打感ですか? 控えめに言って“最高”ですね」(宝地戸)
【7番アイアン】ソールの抜けが抜群! 弾道の高さがきれいに揃う(福永プロ)
7番アイアンには、セラミックが内蔵されているが、そのあたり打感の変化はないのだろうか。

「このソールの抜けは、今まで打ってきたアイアンの中でも特筆もの」(福永プロ)

福永プロのショットはピンそばにズドン!「高さが出る、スピンが入るからピンそばで止められる」(福永プロ)

「このソールの抜けが、弾道の高さを揃えることに大きく貢献しています」(福永プロ)
「まったく変化ないですね。めちゃくちゃソフトでいい打感です。それからショートアイアンの時も思っていたんですが、ソールの作りが秀逸です。スパッと抜けてくれます。突っかかったり、逆に跳ねたりということが起こらないので、ヘッドの挙動がいつも一緒。実はこれってすごく大事なことで、ヘッドの入りと抜けが変わらないから、インパクトロフトもヘッドスピードも安定します。結果的に弾道の高さが一定になり、落下角も縦距離も揃うんです。高さが揃わないことには、ピンなんて狙えませんから。ソールを滑らせる感覚で打っているうちに、どんどん気持ちよくなってきます。それにしても、ここまで抜けのいいソールをよく作りましたね。すごい」(福永プロ)

「さらっと高弾道が打てる。芯を外したらそれが打感で伝わりますが、距離はさほど落ちないのがすごい」(宝地戸さん)
「私もソールの抜けの良さを感じました。普段ダウンブローに打っている7番がさらっと打てちゃうんですよね。ソールが若干幅広なことも相まって、インパクトでソールが滑り抜けていきます。ターフが取れるほうがカッコいいと思うかもしれませんが、実際にはサラリと払い打てるほうが、球が揃いやすいです。弾道の高さもロフト以上に高く、安定しています。くやしいけどいいアイアンです」(宝地戸さん)
【5番アイアン】高く、そしてアイアンらしい球質。これなら5番が復活できる(福永プロ)
そして、今やロングアイアンと呼ばれる5番。ここでも「P8CB」アイアンのやさしさが際立つと口を揃える。

「あ、もう1球打ってわかりました。すごく高さが出るし、すごくやさしい。この5番なら多くの人が打てるはずです。実は私もすでにアイアンは6番からなんですが、これなら5番アイアンを復活させたい。やさしく打てるのに、しっかりアイアンらしいスピンの入った球質なんです。グリーンで止められる“狙える5番”です」(福永プロ)
「確かに5番アイアンでここまで高い球が打てるといいですね。それにスイートエリアが広い。引っかけた、と思ってもあまり曲がりませんから。5番アイアンでここまで確率良く打てて、高い球が出るなら、使ってみたくなりますよね」(宝地戸さん)

「採点が甘いと思いますか? いいえ、「P8CB」アイアンをかなり本気で気に入りました」(福永)

「特に気に入ったのは“打感”ですね。抜けの良さも秀逸です」(宝地戸さん)
【番外編】ロフトは同じ30度。「P8CB」アイアンと「P790」アイアンを打ち比べ
テーラーメイドには、「P8CB」アイアンと同じロフト設定の「P790」アイアンがある。構造的には軟鉄鍛造と中空の違いがあるが、実際にゴルファーはどんな違いを感じるのだろうか。

「P8CB」アイアンは軟鉄鍛造、「P790」アイアンはステンレスの中空構造
「「P790」アイアンは中空らしく、フェースの弾き感がありますね。その分、ボール初速が速くて、「P8CB」アイアンより少し飛ぶ感じがします。見た目にもストレートネック系なので、力を入れて振りたくなります。一方で、打ち比べると「P8CB」アイアンの打感の良さが際立ちますね。インパクトでフェースとの接触時間が長く感じるので、やさしいヘッドだけどスピンもしっかり入って操作できる感覚があります。高さも「P8CB」アイアンのほうが出ます。どちらもミスには寛容ですが、「P8CB」アイアンが私にとってはよりやさしいです。」(福永)

「P790アイアンは高初速で飛ぶ感じが強い」(福永プロ)
「「P8CB」アイアンのほうが、かなりミスには寛容だと思います。アマチュアの私のほうが、芯を外すので、よりわかるのかな(笑)。「P790」アイアンは中空らしい初速の速さがあって飛ぶ感じがしますが、芯を外した時に打感と飛距離の落ち込みが「P8CB」アイアンより少し大きいかなと。「P8CB」アイアンの軟鉄鍛造のやわらかな打感は、体にもやさしい感じがして好きです。私は「P8CB」アイアンを推したいです」(宝地戸さん)
こだわり派のベテランゴルファーにドンズバのアイアン
「正直言って打つ前までは、変哲のないフォージドアイアンでしょ? 程度にしか思ってなかったんですが、シンプルな中に“打ちやすさ”が凝縮されていて、その打ちやすさが、ショートアイアンからロングアイアンに至るまで同じ感じで存在している。これは数多あるフォージドアイアンの中でも、間違いなく稀な存在です。もしかしたら、次に会った時にはバッグの中が「P8CB」アイアンになっているかも。それぐらい真剣に使いたいと思いました」(福永プロ)
熱意を持って長年ゴルフを続けてきたベテランゴルファーにとっては、飛距離の低下とともに、少し飛んでやさしいアイアンを使いたいと思うだろう。ただ、心地よい打感は譲れないし、グリーンを狙うには、弾道の高さやスピンの入る球筋もぜひモノの性能のはず。今回試打した2人もまさにそういったゴルファーだが、そんなニーズに応えるのが「P8CB」アイアンのようだ。“アイアンのシフトチェンジ”を目論む熱意のあるゴルファーにとっては、「P8CB」アイアンはまさにドンピシャではまるモデルではないだろうか。
PHOTO/Takanori Miki、Tsukasa Kobayashi THANKS/鹿野山ゴルフ倶楽部