11月15~26日、日本で初めての「デフリンピック」が東京で開催され、21競技の中にはゴルフ競技も採択されている。そこで、情熱と集中力を持って取り組むデフゴルフの世界を「週刊ゴルフダイジェスト」11月25日号で紹介している。その一部を「みんなのゴルフダイジェスト」でも紹介していく。

音のない世界で「キラキラ」する

写真A/とても仲が良い2人。しかし、よくケンカもするという。「私はアプローチとパターが得意。ドライバーだって当たれば200ヤードいくけど、彼はダメなときしか見てないんです(笑)」(由美)(写真:小林司)

10月某日。調布市の小学校で講演していたのは袖山哲朗(写真A右)・由美(写真A左)夫妻。2人とも、生まれつき聴覚に障害がある。

プレゼンテーションが映るスクリーンを背にインカムマイクで言葉を発しながら手話を交じえて伝える内容は非常に練られていて 、手話を教えたり、ゴルフのルールを教えたりしながら 、約100人の子どもたちを飽きさせない。

最初に伝えた、星が「キラキラ」するように両手を振る(両手を上に挙げ、ひらひらさせる)手話は拍手と同様に使えるもので 、人の応援をするときに使うものだ。

「15歳も離れていますけれど、僕たちはラブラブです」という説明に、子どもたちは笑顔で手を「キラキラ」と動かしながら応える。

画像: 「聞こえなくても、ゴルフはできる」は、協会のHPにあるキャッチコピー。小学校での講演会&パター体験会でも、随所に工夫を凝らしていた(写真:小林司)

「聞こえなくても、ゴルフはできる」は、協会のHPにあるキャッチコピー。小学校での講演会&パター体験会でも、随所に工夫を凝らしていた(写真:小林司)

後半には実際にパター対決のゲームをする 。ゴルフなどしたことのない子どもたちに「プレッシャーがかかること、ドキドキハラハラすることを体験してください」とゴルフの神髄を教えるのである。また、ゲームを行う者たちの周りを生徒が囲めば、ゴルフの試合を見る疑似体験にもなる 。試合などで使われる「お静かに!」のプラカードを手作りし、それを見せて静寂を誘うのもアイデアだ。

このパター対決は大いに盛り上がり、まるで試合の最終ホールにいるような一体感となっていた。

「僕たちは、強化指定選手として助成金をもらって活動しています。ゴルフを始めたばかりの人や一般の方のためのイベントやコンペも行います 。自分のプレーの結果が出ることはもちろん、こういった活動も喜びですし、これにより僕自身を応援してくれる人が増えることも実感しています 」(哲朗)

「聴覚障害者の中にはどうやってゴルフを始めたらいいかわからない人も多い。まったくしゃべれない人もいて、不安ですし、コースで入場を断られることも未だになくはないんです。また、技術だけでなくルールもきちんと教えて、マナーが悪いと言われないようにしたい。聞こえる人の中に入っても一緒にできるようにしたいんです 。私たちがゴルフへの“入り口”を作りたい 」(由美)

袖山夫妻は、NPO法人日本デフゴルフ協会の事務局長・デフリンピック日本代表、事務局海外担当としての顔も持つのだ。

動画を見て分析し 何回も練習する

画像: 2歳のとき、動きや反応が遅いことから病院で調べて障害が発覚した(写真:小林司)

2歳のとき、動きや反応が遅いことから病院で調べて障害が発覚した(写真:小林司)

袖山哲朗は88年生まれ、静岡県出身。2歳のとき、動きや反応が遅いことから病院で調べて障害がわかった 。感音性難聴による聴力障害である。ゴルフは小3のとき、ゴルフ好きの父の影響で始めた。関東ジュニア選手権で3位、JJGA全国大会で5位に。11歳のとき、日本デフゴルフ連盟の理事長から誘われ、デフゴルフの世界でも活動を始め、高1のとき日本一となる。18歳のとき、カナダでの世界デフゴルフ選手権の日本代表に選ばれ4位に。

日本体育大学(ゴルフ部)を卒業後、さまざまな国際大会で活躍 、24年の世界デフゴルフ選手権では団体戦で初めて3位に。また、茨城GCでクラブチャンピオンとなり「有名なトップアマ、澤田信弘さんに勝てたんですよ」。昨年は日本社会人ゴルフ選手権全国大会で35位に。輝かしい経歴で気づくことは、デフだけではなく、アマチュアの大会でも活動し結果を残していることだ。現在はスポーツメーカー、アンダーアーマーの日本総代理店である株式会社ドームのカスタマーチームで働きながら活動している。

哲朗は、試合では補聴器を外してプレーする。電車の音がかすかに聞こえるくらいだという。

「補聴器を外し、音のない世界でプレーする。そうすると集中できる面はあるんです。僕たちはレッスン時、身ぶりで教えてもらうことが多く、情報量が健常者と比べて少ない。動画を見て分析し、何回も繰り返して練習し、技術を習得します。また、プレーが遅いと思われているけど、それは関係ない。マナーや技術などをしっかりと指導、理解していただくことが大事です」

PHOTO/Tsukasa Kobayashi、日本デフゴルフ協会、本人提供
※週刊ゴルフダイジェスト11月24日号「音のない世界で『キラキラ』する」より

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この記事の続きでは、デフリンピック日本代表の袖山哲朗氏と、世界デフゴルフ連盟の袖山由美氏が、その情熱と集中力の秘密を明かしている。さらに、哲朗氏が茨城GCのクラブチャンピオンを獲得した輝かしい経歴や、彼が目指す「健常者と障害者が一つにまとまった未来のゴルフ界」という壮大な夢、そして妻・由美氏が語る「ゴルフは特別で、つながって、つながっていく」という言葉の真意 に迫っている。続きは週刊ゴルフダイジェスト11月24日号、Myゴルフダイジェストで掲載中!

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