初期条件の変化で、クラブ選びの2極化が始まる?
GD もうちょっとで2026年になりますが、例年だと「テーラーメイド」と「キャロウェイ」が新作を出してきます。テーラーメイドは2026年をリストオンさせていますが、将来的にどの方向にどこをいじってきそうですか?
長谷部 カーボンとチタン、もしくはジュラルミンという構造素材の設計はもう十数年前からあって、その限界値を一生懸命極めているんですけど、ここが抜本的に変わらないんだとしたら、本当にシャフトに頼ったらいいと思います。
シャフトをちゃんと内製して、もうちょっと科学的に設計し直さないと、ボールの規定が出てきたときにメリットが出せないんじゃないかなと思うので、いよいよクラブ全体での設計に力を入れないといけないのかなと思います。
GD この連載でも何回かお話しているように、クラブメーカーはヘッド開発、スペック競争に注力して、シャフトに関して言えばコラボシャフトをメインにしています。クラブメーカーでありながら、ヘッドメーカー色が強くなっていますが、今後はクラブ全体を設計するクラブメーカーに回帰しなきゃいけないんじゃないかということですね。
長谷部 そこに選択肢としては「ノウハウを蓄積して力を入れて、投資をする」、「やっぱり今あるシャフトで十分だからとにかく選べる機会を作る」、この二択だと思うんですよね。
純然たる純正シャフトとか、自社のロジックにこだわるメーカーはオリジナルシャフトを作るでしょうし、そうじゃないメーカーはありとあらゆる何通りもあるシャフトの中から、あなたに最適なシャフトはこういう選び方ができますよ、というロジックを作っていく、どちらかになっていくと思います。
日本のメーカーは前者のオリジナルシャフトを一生懸命作りましょう、外ブラはフィッティングの機会をたくさん作ってより選びやすくしましょう。この2つに分かれるんじゃなないでしょうか。
GD カスタム市場が強くなってきてヘッドに好きなシャフトを付けることが多くなっていますが、アマチュアの技術だとなかなか“当たりのクラブ”を見つけられていないのが実情だと思うんですよ。メーカーが提案するクラブが今後また出てくる可能性はある?
長谷部 そういった意味で言えば、「ピン」は成功しているし、うまくOEMメーカーと共同開発していると思います。あとひとつ言えるのが、「ピン」はヘッドの開発方向性が一定方向の直線上にある。だから次のシャフトが見えやすいし、購入する側もわかりやすいと思うんですよ。
だけど日本のメーカーが頑張らなきゃいけないのは、ボールの規定がかけられ初期条件が変わったときに、ヘッドの謳い文句が言いづらいはずなので、独自のシャフト理論を謳うのが一番なのかなと。今でもオリジナルシャフトにこだわっている「ヨネックス」、「オノフ」はそういったことが言えるんじゃないかと思います。
GD 昔はどのメーカーもシャフトの宣伝文句が結構あって説明もたくさんありましたが、それが段々なくなってきて、慣性モーメントや反発、フェースのたわみだといったことがクラブ選びのキーワードに変わった。その余波みたいなものがアイアンにも来ているような気がします。
長谷部 アイアンもいろんなシャフトがあるにもかかわらず、既製のスチールシャフトはたくさんあっても吊るしクラブとしての選択肢が限られている。「ダイナミックゴールド」も「日本シャフト」もすごくシャフトの種類が増えてるんだけど、皆さん知らないじゃないですか?
だからそこの辺でもお客さんが求めているニーズに対しても、タッチポイントが少ない点も課題になってくるのかなと思います。選べる機会がない、打てる機会がないから知らない、体感できないから選べないっていうジレンマがある。でも世の中には豊富に存在する。その辺はアイアン選びの中では、ヘッドのパフォーマンスはウッドほど変わらない、それなら気に入ったシャフトを見つけるというのが今後の楽しみですよね。
GD 2025年は大きく目立ったテクノロジー変化みたいなものがあまりなかったように感じますが、2026年はどうなるんでしょう?
長谷部 何かを期待できるとか、ワクワクするテクノロジーがあるのか? というと内部情報をもらってないからわからないですが、それでもちょっとその辺に期待するのは難しいので、我々も目線を変えて“最新のヘッドを生かすには、どんなセッティングが合うんだろう”というところに目を向けてもいいのかなと思いますね。
GD ドライバーもアイアンも飛びを求めすぎていて、飛ばすことの楽しみが強調されすぎているような気がします。ゴルフの面白みの中には、ボールを操ったり止めたりすることもある。その部分がクラブの進化が飛びに傾いたことによって、ちょっと削がれているような気がするんですよね。
長谷部 そうですね。確かに300ヤードドライブがプロの世界でも目標だったのが既に超えてしまっている。飛距離競争はあるんですけど、アマチュアがそこまで飛ばせないときに何を楽しむかといったら、少ない打数で上がること。いろんな選択肢をもっとメディア側が提案していく必要があるような気がしますね。
GD 今のプロはゴルフをはじめた当初から、飛ばしの世界でゴルフを覚えてきているわけで、球を曲げるというよりも、直進性が強く、前へ前へ、先へ先へって覚えてきたので、どうしてもクラブ選びもそっちの方向にいくとは思うんです。
我々が古いのかもしれないんだけど、違うところに選択肢があるのかなと。飛距離はそこそこに、操作性のいいプロモデルをもう一度使ってみるというのもありな気がします。
長谷部 実際自分も今は小さいヘッドのアイアンを使って、操作性じゃないですけどミスをミスとして許容することを楽しんでいて、まっすぐ飛べばいいやって感覚はちょっと薄らいでいます。他にも「7番ウッドでコントロールしたいな」とか、これまでなかった発想をするようになったし、ゴルフの楽しみ方も年齢とともに変わってきています。最新の飛ばし優先のトレンドをちょっと一歩引いたところで見ている可能性はありますよね。
GD 飛びというものにこの30年間、翻弄されてきて、飛ぶ、曲がらない、だからゴルフが楽しいということが強調されすぎているような感じがあります。
長谷部 飛びよりも心地よいフィーリング優先の考えがあっていいと思いますし、飛距離競争に食傷気味というか、飽きているところもあるので、ゴルフってそれだけじゃないよねっていうのは今一度確認したいと思いますね。
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※11月17日12:00に一部訂正いたしました。
