「週刊ゴルフダイジェスト」や「みんなのゴルフダイジェスト」で、障害者ゴルフの取材記事を執筆したベテラン編集者が、日本だけでなく世界にアンテナを巡らせて、障害者ゴルフのさまざまな情報を紹介する連載。今回は障害者ゴルフ界のレジェンド、義足のプレーヤー・古田謙さんのお話です。

先週行われた日本障害者オープンゴルフ選手権の会場(麻生飯塚GC)に、古田謙さんの姿がありました。第30回の記念すべき大会に“レジェンド”の姿があったことを、主催の日本障害者ゴルフ協会(DGA)代表・松田治子さんや参加選手たちはとても喜んでいました。

古田謙さん(左大腿切断)は義足のプレーヤーとして、障害者ゴルフの黎明期から活躍、世界大会にも出場し、障害者ゴルフ界を長く引っ張ってきたトップ選手でした。日本障害者オープンの第2、3、4、6回のチャンピオンであり、優勝4回は現在、小林茂さん(左ひざ関節機能全廃)、吉田隼人さん(右大腿切断)と並んでの最多回数です。

筆者も以前お話を聞いたことがあります。とても誇り高い、根っからのアスリートで、ゴルフにも人生にも真剣に取り組んでおられたことを覚えています。一時期、日本障害者ゴルフ協会の試合から離れ、独自で活動をしていた時期があります。そうしているうちにコロナ禍となり、5年前に小脳梗塞を患い左半身に麻痺が残りました。思うようなゴルフができなくなってしまったのです。トッププレーヤーが思いどおりの球を打てないことがどんなに辛いことか。義足側が片麻痺となったことは不幸中の幸いだったのか……。

画像: 満面の笑みを見せる旧友たちとの嬉しい再会。またここから、と思わせてくれた

満面の笑みを見せる旧友たちとの嬉しい再会。またここから、と思わせてくれた

しかし、今回の大会に出場を決めた古田さんは、今年6月、2年半ぶりにラウンドを再開。そしていよいよかつて自身が主役をはった“舞台”に立ったのです。

「ここに参加するまで、来るまでが苦しみの連続でした。宿泊することもストレスになるんです。先月、ここへ練習ラウンドに来たとき、宿泊するリハーサルもしたくらいですよ。(大分から)200キロしかないんやけどね。そして大会に関しては、気持ちとしては“ただ回ってくるだけだ、グランプリの部に出場するわけではない”と思うんですけど、やっぱり胸が締めつけられる感じなんです」

1日目のラウンドを終えた古田さんはしみじみ語ってくれました。

「ラウンドも数回しかしていない。自分の実力が足りていないのに試合に来るということ。大会が近くなるほど気持ちがおかしくなってきて。競技に出ることに対して、余計なプライドが邪魔してしまう。そして、結果的にこんな無様なスコアになりました。やはり肉体的にも道具的にも至ってない状態です。今は体の節々が痛みます……。話はこれくらいでいいですか」

少し照れたように話す言葉の端々に、心が痛んでいることが、ひしひしと伝わってきました。しかし、古田さんは2日目も“舞台”に立ちました。

「パー3をドライバーで打ったんだよ。近くまで運んでようやく乗せて4パット……今日はキャリアハイのスコアを打っちゃった。帰りの運転はもうできないかもしれんね」と冗談を交えながら話すその目には、うっすらと涙が浮かんでいるようにも見えました。それは、悔しさと嬉しさ、どちらからくるものだったのでしょうか。

画像: 「体が痛みます」と言いながら、全力でプレーする古田さん。鍛え上げた技術は健在だ

「体が痛みます」と言いながら、全力でプレーする古田さん。鍛え上げた技術は健在だ

「DGAが世界の試合に参加し続けて、そこで活躍する選手を輩出していることは素晴らしいですよね。でも今回、僕を知っている旧友たちに会えて、そして何より(松田)治子さんに会えて、本当によかったです」

その旧友たちに話を聞きました。

小林英喜さん(右大腿切断)は、「本当によかった。何年か前、テレビ会議をしたときに、大丈夫かなあと思ったけれど、そのときよりずいぶんよくなった。また関西にも来たらええやん。一緒にゴルフしよや」

吉田隼人さんは、「謙さんと、先月、ここで練習ラウンドを一緒にしたとき、麻痺はあるけどやっぱり上手い、ゴルフをわかっていると思いました。自分がやるべきことを淡々とできるんです。僕のゴルフの師匠でもあり、大人になってもきちんと“しかって”くれる存在。海外の試合に出場して順位が思わしくないとき毎回連絡が来て、『何やってるんだ!』と。嬉しいですし、もっと頑張ろうと思えます。今、随分回復されて、またラウンドができてめちゃくちゃ嬉しい。ずっとイケてるプレーヤーで、レジェンドで、今はもちろん悔しいだろうけど、ここに来て僕らの尻を叩いてくれる。プレーを見せてくれるだけで、『俺も頑張っているんだ、お前も頑張れ』と言われている感じなんです。ここに来るまでの努力と勇気……今度は僕が応えなければ、と思えます」。

秋山卓哉さん(左大腿切断)は、「ここに出てきて完走することはとても勇気がいること。初期のトップ選手で輝かしい戦績があって誰もが憧れる選手。それが突然の病気で昔のプレーができない……、そんななかでもゴルフしよう、大会に出ようと挑戦する姿は、やっぱり古田謙だ、さすがだと思います。また、謙さんの宿泊のリハーサルの話は、社会へのアピールにもなるかもしれません。バリアフリーではないホテルもまだ多く、これは皆の課題ですし、そのために家から出ない、活動が広がらない障害者も多い。僕たちの活動が、そういう環境を整えるきっかけになることが大事だと思うんです」。

トップ選手の心技体と戦略、上達できないゴルファーのもどかしさ、両方を知る古田さんが立つ新たな“舞台”は、障害者ゴルフの未来へとつながっているのかもしれません。

PHOTO/Yasuo Masuda

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