
小田孔明(おだこうめい)。1978年生まれ、福岡県出身。7歳でゴルフを始め東京学館浦安高校へ進学。00年プロ転向、初シードは07年。08年の初優勝後は勝利を重ね、14年に賞金王獲得。15年連続シードを保持する。ツアー通算8勝。名前の由来はもちろん、三国志の諸葛亮孔明だ
技はあっても、体が崩れ、気力も……
GD: 2000年にプロ転向してから約25年。まずはここで第一線から退く決意をした経緯から聞かせてください。
小田: 実は数年前から決めていたことなんです。シード権が切れて自分の力でツアーに出られなくなったらレギュラーとチャレンジ、両ツアーからは退こうと思っていました。今年はレギュラーで前澤杯とKBオーガスタに出場して予選は通過しましたが、やっぱり何かちょっと違うなという感覚がありましたね。
GD: どのような感覚ですか?
小田: 体力的なことの影響はあるとは思いますが、今は予選を通るだけの実力なのかなと。2年前くらいに心臓が悪いと言われて、そこから体と向き合っていろいろとやってきましたが、レギュラーで戦うだけの気力が今は持てていないんだろうなという感じです。
GD: よく心技体と言われますが、その中の何かが崩れてしまった感じですか?
小田: 自分は飛ばし屋だと思ってこれまでやってきて、今は若い選手に30も40ヤードも置いていかれる。プライドってわけじゃないですが悔しいですよね。振ったから追い付けるわけじゃないし、40歳くらいからトレーニングなどいろいろと取り組んできましたが、何かちょっと違うなと思っていました。心技体という意味では“技”はあると思うんです。ジャンボさんもよく言ってましたが、心技体ではなく体技心だと。僕の場合は体が変化して、それによって心が崩れた感じですかね。技術はまだ自分でもあると思っていますよ。でも初日にトップと3打差、4打差だったとしても4日間になれば16打差ですからね。そう考えるとツアーではもう勝てないのかなと。
GD: プロの実績であれば推薦での出場も可能ですよね。
小田: もちろん自分のスポンサーさんやお世話になっている方からの推薦であれば今後も出る可能性はありますが、ツアーにしがみつくという感じで推薦をもらうつもりはないんです。それなら若い選手にその枠を使ってもらったほうがいい。これは今だから思うことではなく前々から思ってきたことなんですよ。
GD: ツアーではもう勝てないとおっしゃっていましたが、勝ちたくても勝てなかった試合は?
小田: それは間違いなく日本オープンですね。日本オープンのタイトルを獲っていたら、もしかしたらもう少し早く一線から退いていたかもしれません。やっぱり日本オープンには勝ちたかったし、出たかったんですよね。僕の8勝のうち、7勝が逃げ切りなんですが、日本オープンだけは逃げ切れなかった。最終日最終組の3打リードという試合が2回あったのに逃げ切れなかったんです。あれだけは後悔が残っています。調子も良くてあれだけのゴルフができていたのになぜ逃げ切れなかったのかと今でも思いますよ。それだけ日本オープンの重みは大きかった。
死に物狂いでやれば運がついてくる

2014年には賞金王に輝いた
GD: プロは若い選手の指導も積極的に行っていますが、ご自身の経験から勝てる選手と勝てない選手の違いはありますか?
小田: まあ勝つって運も必要ですからね。例えば日本シリーズに出られる選手って全プロゴルファーの中で一握りなわけで、そこに出ることがまずは日本で一流と認められることだと思っています。僕の場合は35歳で賞金ランク3位になって、36歳で賞金王を獲れたけれど、あの2年で獲れなかったら一生獲れないって思って、死に物狂いでやっていましたからね。どれだけ必死になれるかじゃないですかね。そこに運がついてくる。でもそう考えると20代後半か、30代の頭で賞金王になれていたら、もっと違うゴルフ人生があったのかなとは思いますね。
GD: 長いツアー生活の中で一番覚えている試合はありますか?
小田: 優勝した試合はやっぱり思い出深いですが、初優勝のカシオは最後のパットがすごく長く感じましたよね。4パットしても優勝だったのにしびれたのは今でも覚えています。あとは関西オープンでの(藤本)佳則との優勝争いの中で、18番の5番ウッドの感触は生涯イチ。いまだに打った感触は忘れられないほどです。

「初優勝のパットは長く感じました」と小田孔明。08年カシオワールドの18番でのウィニングパット。4パットでも優勝だったが「しびれた」と本人
GD: 苦しかった時期もあったと思います。
小田: そうですね。僕は初シードが遅かったので、28歳で初優勝をして30代は自分の中でもやっと一流の仲間入りができたかなという感触がありました。メジャーや世界選手権にも行けるようになって充実していたと思います。でも同時に苦しい時期でもありました。日本人は世界に行くと予選を通過しないとか、活躍できないとか言われて。そう言われたくないからもっと高みを目指さないといけないと思って。世界に行く楽しさがある分だけ苦しかったです。
GD: 時代とともに男子ゴルフも変化していると思いますが、今のツアーはプロの目にどう映っていますか?
小田: 女子が人気で男子が低迷と言われますが、男子がダメというわけでは絶対ないと思います。そもそもゴルフをする人口が同じならどちらかに人気が偏るのは当たり前のことで、そこは不思議に思っていないんです。もちろんいろいろな改革が遅かったのは事実だと思いますが、男子の技術の高さだったり、世界で戦える選手が増えているのも事実です。それに好き嫌いって絶対にあるので、言い方は難しいですけど男子ゴルフが嫌いな人は見なければいい。僕たちは見てもらえるようにいいプレーをして、魅力を感じてもらえるように努力するだけですが、今の時代は何か悪いところばかりを取り上げられる感じがしています。そこはメディアにもお願いしたい点ですが、実際スポンサーさんからのプロアマの評判はいいですし、自分から見ても今の若い選手たちの礼儀はできていると思います。今の時代はSNSなんかで簡単に発信したことが事実として伝わってしまうから、なかなか難しい時代だとは思いますが。
TEXT/Masato Ideshima
PHOTO/Tadashi Anezaki
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小田孔明がSNSをしている理由、「チーム孔明」結成の理由、今後の目標などの続きは、「週刊ゴルフダイジェスト」12月9日号、または「Myゴルフダイジェスト」をチェック!
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