「週刊ゴルフダイジェスト」や「みんなのゴルフダイジェスト」で、障害者ゴルフの取材記事を執筆したベテラン編集者が、日本だけでなく世界にアンテナを巡らせて、障害者ゴルフのさまざまな情報を紹介する連載。今回は「健常者と非健常者の行動の違い」を調査・研究している柳下さんのお話です。

今回は、先週行われた「東京2025デフリンピック」ゴルフ競技の会場に観戦に来ていた大学生、柳下涼さんをご紹介します。

柳下さんは和光大学現代人間学部心理教育学科心理学専修の4年生。彼がなぜ大会会場の若洲ゴルフリンクスに足を運んだのかといえば、ズバリ「卒論」のためです。本大会を見て、自身の卒業論文の参考にしたかったのです。

柳下さんは今、「デフゴルフ」を素材に「健常者と非健常者の行動の違い」を調査・研究しています。当初は別のテーマを考えていたと言いますが、「せっかくなら好きなこと、興味あることをテーマにしたい」との思いから、デフゴルフを題材にすることに決めたのだそう。

生まれつき左耳が難聴だった柳下さん、幼稚園のとき中耳炎をこじらせ左耳が聞こえなくなりました。「最初は周りに自分から説明していましたけど、『わざわざ言う必要もない』という友人がいて、自然体になりました。今も左側から話をされると聞き取りづらくはあります」。ゴルフに関しては、「祖父母が地域のゴルフ協会の会長をしていて。僕もグラウンドゴルフをしたり、ときどき打ちっぱなしに行ったりしていたんです」。名前の“涼”の由来には、石川遼選手が関係するとかしないとか……。

画像: 寒いなか授業とバイトの合間をぬって“完全防備”で来場した柳下さん。声援の拍手はもちろん手話で「きらきら・ひらひら」

寒いなか授業とバイトの合間をぬって“完全防備”で来場した柳下さん。声援の拍手はもちろん手話で「きらきら・ひらひら」

大学では、ゴルフの授業を取り、また、ろう者に関するゼミで手話を学んだりもしています。デフゴルフに興味がわくことは自然の流れでした。

「デフリンピックがあることは今年に入って知ったんです。研究を決めた頃にゴルフ競技があることも知りました」

そして、日本デフゴルフ協会の存在を知り、自分で連絡、イベントの見学をさせてもらったりしてきました。

卒論のための実験は、つい先日終了したとのこと。

「ゴルフの授業を取っている学生たちに協力してもらい、5ホールは普通にプレー、5ホールは耳栓を付けてプレーしてもらい、スコアとコミュニケーションがどのように変化するかを実験しました。ほとんどの人がゴルフ経験はありません。これから統計を出して分析します」

画像: ゴルフを観戦するのは初めて。「ギャラリーが選手と一緒に動くのが他のスポーツと違って面白いです」

ゴルフを観戦するのは初めて。「ギャラリーが選手と一緒に動くのが他のスポーツと違って面白いです」

“結果速報”を聞くと、

「耳栓したほうがスコアはよかったんです。しているほうが集中できるという意見がありました。また、耳栓をすると会話が減ります。特に遠い距離での会話には距離感ができる。あまり面識のない人たちですし。また、人のほうに球が飛んで行っても“ファー”と言わなかったことが2回くらいありました。聞こえないと無意識にそうなるんですね。身振り手振りも増えました。オーバーリアクションやガッツポーズなども増えていたと思います」

とても興味深い結果です。また、デフリンピックの知名度についても調査したところ、8割の人が「初めて聞いた」と答えたそうです。

デフゴルフの選手たちは皆、「もっとデフゴルフの存在を知ってほしい、もっと多くの人に参加してほしい」と口をそろえます。デフゴルフへの“入口”を作りたいのだと……。柳下さんのような若者が興味を持ち行動を起こしたことが、“入口”の1つとなり、様々なつながりを作ることは間違いありません。

画像: 観戦可能な1番、10番のティーイングエリア、9番、18番のグリーンを行き来して日本チームを中心に応援。「最終組はみんな飛びますね!」

観戦可能な1番、10番のティーイングエリア、9番、18番のグリーンを行き来して日本チームを中心に応援。「最終組はみんな飛びますね!」

さて、実際にデフリンピックを見た柳下さん。その感想は、「会場で他のスポーツのようなアナウンスがなくて、静かだなあと思いました。手話を使う方が、ボランティアさんはもちろん、観客にもめちゃくちゃいますよね。ゴルフは誰にでもできる、楽しいスポーツだと思います。デフゴルフに特別な不便はなさそうですけど、難聴の度合いや、中途失聴者で、プレーはどのくらい変わるのかなども気になります」

初めてのゴルフ観戦を楽しみながら、研究者の顔ものぞかせる柳下さん。現在卒業論文の執筆真っ最中!“つながり”の入口になる卒論、楽しみに待ちたいと思います。

PHOTO/Tsukasa Kobayashi

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