ツアー解説でおなじみの佐藤信人プロ。今回は、フォーティネットで、日本ツアー初優勝を飾った佐藤大平選手について語ってもらった。
画像: 「正確性の高いショットとショートゲームの上手さが身上。唯一、飛距離が課題でしたが、年々、数字も伸びており成績にもつながっています」(佐藤プロ)

「正確性の高いショットとショートゲームの上手さが身上。唯一、飛距離が課題でしたが、年々、数字も伸びており成績にもつながっています」(佐藤プロ)

11月第1週のフォーティネットで、日本ツアー初優勝を飾った佐藤大平選手。プロ10年目の32歳。思えばこの連載で佐藤くんを取り上げたのは約7年前、19年シーズンに入る前のことでした。

18年に、当時のABEMAツアーで2勝し賞金王に。翌19年の開幕前には米3部のPGAツアーチャイナの重慶選手権で優勝、日本人として初の快挙でした。どんな試合であれ海外で勝つのは並大抵のことではない。それだけに初優勝が期待される選手として紹介したのです。

ところが時が経つにつれ大平の名は、〝なかなか勝てない選手〟の一人にもなっていきました。賞金ランクは55、42、40、16、18位とシード権は安泰なものの、初優勝が果たせません。実は優勝したフォーティネットの最終日、ボクはレポーターとして大平の最終組に付きましたが、彼のプレーをじっくり見るのはほぼ初めての体験でした。 

驚かされたのが3日目を終えた練習グリーンでの発言。この日、ベストスコアの62をマーク、2位に3打差をつけ単独トップに立った彼に「調子いいねえ」と声をかけると返ってきたのが、「そうなんですよ。今週、めっちゃ調子が良くて、試合前から今週もしかしたら勝てるかもって思ってたんですよね」。片山晋呉が言うならまだしも、まだ優勝したことのない選手。正直、緊張を隠しているのか、自分を鼓舞しているのかと思いました。最終日になるともっと驚かされます。最終組は今季初優勝組の小斉平優和と金子駆大、前の組には百戦錬磨の石川遼。未勝利の選手であれば普段のプレーができない条件が十分にそろった状況です。 

ところが大平はスタート前から、どこから見てもまったく普段と同じ表情。キャディや同伴者とにこやかに会話し、ルーティンもいつも一緒。3打差といって広いエリアに逃げるわけでもなく、果敢にピンを攻めるプレースタイルも変わりません。連続バーディでスタートするも、3番で3パットのイージーミス。ここから崩れるのかと一瞬感じてしまいましたが、池絡みの4番でピンを狙ってバウンスバック。終始、そうした戦い方でしっかり逃げ切りました。「これだけの戦いができる選手が、なぜ今まで優勝できなかったのか」と思ったくらいです。

優勝後の仲間からの水かけもとても多く、〝イジられキャラ〟で多くの選手やキャディからも慕われる人柄が見て取れました。本人は「初優勝は泣くと思ったけれど意外とこんなものなのかな」とひょうひょうと語っていました。 初優勝には、〝タイミングがある〟と思っています。理想は、早過ぎず遅過ぎずくらいがいいのでしょうが、選手がそれを選べるわけもなく……。早過ぎて一気に注目を浴びてハードルが上がって自分を見失うパターンもありますし、遅過ぎるとホッとするのかそこで終わってしまうということも。

大平の場合、少し時間がかかった感はありますが、実力者が満を持しての優勝、という感じで、とてもタイミングのいい優勝だった気がします。3人の子どもたちのパパでもあり、プライベートも充実した30歳。初優勝をきっかけに次のステージへの扉を開いたはずです。

PHOTO/Tadashi Anezaki

※週刊ゴルフダイジェスト2025年12月16日号「さとうの目」より

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