1970年代からアジア、欧州、北米などのコースを取材し、現在、日本ゴルフコース設計者協会名誉協力会員として活動する吉川丈雄がラウンド中に話題になる「ゴルフの知識」を綴るコラム。第43回目はゴルフ場が貢献している環境保全と脱炭素社会について。

ゴルフ場が「緑の資源」である事実

画像: ニドムクラシックのニスパ No.13(※写真はイメージ)

ニドムクラシックのニスパ No.13(※写真はイメージ)

一面緑の芝生、ホールをセパレートしている多くの樹木。18ホールのゴルフ場の面積は20万坪以上あり、広いところでは50万坪以上もある。 

広大なゴルフ場は、山野を切り開いて造成される。この過程で多くの人が「自然の破壊、環境汚染」ではないかと声を上げるが、手の入れられていない原野状態の山野は光合成の視点から見れば思うほど優れた自然ではないとされる。今日、ゴルフ場は緑の資源となっている事実が証明されている。

自然のままの原野は必要以上に樹木が密生し、日当たりや風通しが悪く植物の成長も決してよいとは言えず、温暖化の原因とされる二酸化炭素(CO₂)を吸収して新たに酸素(O₂)を発生させるには自然のままよりも手入れがされた樹林、野原(芝地)のほうがより効率的で優れているとされる。光合成は芝地でもかなり行われることが近年の研究で明らかにされ、1ヘクタール当たりで約10トンの二酸化炭素を吸収していることが判明している。

落葉樹は冬季に葉は枯れて落ちてしまい、次の春まで光合成はできないことになるが、草よりも幹や枝がある容量の大きい樹木のほうが二酸化炭素の蓄えという意味では優れている。その点、芝は毎日のように刈られることから光合成は盛んに行われても蓄えるということで考えれば樹木にはかなわない。また芝生により性質が異なり、暖地型芝草に分類される高麗芝、野芝は二酸化炭素の吸収に優れ、対して、寒地型芝草であるベント系芝の能力はそれほど高くないとされる。

画像: 芝の面積は15万ヘクタール、残りが樹林帯で約10万ヘクタールにも及ぶ

芝の面積は15万ヘクタール、残りが樹林帯で約10万ヘクタールにも及ぶ

現在、日本には2000強のゴルフ場があり、約25万ヘクタールの面積になり、そのうち芝の面積は15万ヘクタール、残りが樹林帯で約10万ヘクタールになる。ここから吸収される二酸化炭素の量は年間約400万トン強になり、結果約300万トンの酸素が発生する。この数値から導き出されるデータとして、年間200万世帯が消費する電力で発生する二酸化炭素を吸収していることになり、人口で考えると1200万人分の酸素を供給していることになる。

植栽されて40年経過した杉の林は1ヘクタール当たり年間約9トンの二酸化炭素を吸収していて、ゴルフ場では杉林と同等、あるいはそれ以上の二酸化炭素を吸収していることにもなり脱炭素に貢献しているといえる。

日本は平均的に降雨量が多く、雨は樹木や植物の根から吸収され蓄えられ、余分な水分は葉の気孔から大気へと蒸散される。蒸散されると気化熱により空気は冷却されることになり、木陰は涼しく感じることになる。樹木と広い芝地のあるゴルフ場においてこのような自然現象が日々繰り返され温暖化の防止に寄与しているといえる。

ゴルフ場は樹木、草、芝草、コースにより池や小川もある地域であり昆虫類や小動物の住処にもなり、生態系の保持にも役立っている。今やゴルフ場は継続可能な「自然環境の保全」という取り組みにより現代の里山的存在でもあるのだ。

文・写真/吉川丈雄(特別編集委員)
1970年代からアジア、欧州、北米などのコースを取材。チョイス誌編集長も務めたコースやゴルフの歴史のスペシャリスト。現在、日本ゴルフコース設計者協会名誉協力会員としても活動中

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