11月に福岡の麻生飯塚GCで開催された日本障害者オープンゴルフ選手権。この会場に可憐な女子高生がいました。東京女学館高等学校の2年生、土屋なるさんです。聞けば、自身の探究の一環として、わざわざこの大会に足を運んだとのこと。
お父様が「娘と一緒にゴルフがしたい!」と考えたことがきっかけで、4歳でゴルフを始めたという土屋さん。小学生くらいまではプロゴルファーになりたいと思っており、高1までは競技にも出ていたそうです。しかし、進学した学校にゴルフ部はなく、「英語が話せるようになりたい!」と学業に力を入れていくなかで、「ゴルフは私よりもっと上手い子がたくさんいる……」と、いつしかプロへの夢はなくなりました。しかし、ゴルフは今も大好きで、毎週コーチにレッスンを受け、楽しく腕を磨く日々です。

ベストスコアは83。女子高生は忙しく、最近は月に1度、コーチとのレッスンラウンドで父と母と回っているそう。「冬休みには月2回できます!」
さて、16歳のとき、土屋さんには大きな出会いがありました。義足のゴルファー・田中哲也さんの講演会でのこと。「日本のゴルフ場には身障用者駐車スペースなんて一台もないし、障害者がゴルフするわけがないと思っているんです」という言葉を聞き、衝撃を受けたそうです。
「国内外のゴルフ場を訪れるなかで感じていた違和感の正体が明確になった瞬間でした。日本のゴルフ場は“健常者のための空間”として無意識に設計されているんです。私は、『この現状を変え、ゴルフを通じた社会包摂のモデルを作りたい』と考えました」
素晴らしい問題意識です。そしてここから持ち前の行動力を発揮します。考えたことを「探究」の授業のテーマにしたのです。
「まず現状把握のため、自分が訪問した日米のゴルフ場で駐車場や設備を写真記録し、日本とアメリカの比較分析を行いました。その結果、アメリカでは5〜10台ほど障害者駐車スペースが設置されているのに対し、日本ではほぼ皆無でした。ゴルフ場支配人へのインタビューを重ね、“ゴルフ場は健常者が利用する場所”という無意識の思い込みこそが根本的な問題だと確信しました」
これだけでは終わりません。さらに実行力を発揮し、この課題に対し、『Golf for Diversity』プロジェクトを立ち上げます。
「これは、全国のゴルフ場の障害者駐車スペースを増やすことを目的とし、その第一歩として日本障害者ゴルフ協会(DGA)の会長、理事に活動の背景と熱意をプレゼンテーションしたんです」
こうして正式な連携が決定しました。DGAの理事、真辺和美さんは、「本当に素晴らしい活動でありプレゼンでした」と感心。想いが詰まっているだけでなく、“実”のある活動だからでしょう。
「今後、複数のゴルフ場に対して日本の現状データ、海外事例、インクルーシブ化のビジネスメリットを具体的に提示し、障害者専用駐車スペース設置への働きかけをより強化してきたいと考えています。noteやInstagramを通じた活動報告や調査結果の発信も行っていくつもりです」
我々が見落としてしまいがちなことをしっかり見つめ、調査・考察し、実際に世の中に役立つように提案していく。コツコツと、しかし日本のゴルフ界や社会に大きな変化を起こすであろう活動です。
「探究目的の1つである、ゴルフ場のインクルーシブ化の必要性を広める広報活動が実を結びつつあります。高校生の私でも、原体験に基づく熱意と具体的な提案があれば、既存の業界を動かせるという手応えを得ました。ゴルフ場というプライベート空間から、真の多様性社会を日本中に広げる未来を実現しつつ、『スポーツを通じた社会包摂のモデルケース』として確立し、健康寿命延伸、さらにはゴルフのパラリンピック正式種目化に貢献する活動を続けていきたいんです」
さて、ゴルフの魅力について、「4人で回れてたくさんコミュニケーションが取れるし、ただボールを打つだけではなく、風や距離などきちんと考えないといけないことが多く、だからそれが上手くいったらすごく楽しいんです」と話す土屋さん。大会では、初めてボランティアとして障害者ゴルファーと一緒にラウンドしました。

一緒に回った大原大地さん(右前腕欠損)の大きなアークを見て「すごい!」。もう一人の同伴競技者・中野智昭さん(片マヒによる軽度障害)とも記念撮影。「お2人ともすごく優しくて、楽しかったです」
「すごく楽しかったです。少しでもサポートできればいいなと考えていたのに、皆さんのほうが明るくてポジティブで、私のほうが元気をもらえました。私は赤ティーでプレーしていいと言われたんですけど、頑張って同じ白ティーで回ったんです。それを結果的に後悔しました(笑)。お2人ともプレーも力強いし本当に上手で。とにかく新しい発見だらけでした」
さて、生徒会長も務める土屋さん。選挙時のスピーチは、「伝統は守りつつ、時代のなみ(名前の“なる”にかけて)に乗った生徒会にしたい」だったそうです。まさに大会の前夜祭でDGAの松田治子代表が発した言葉、「協会はまだこれから。慢心せず運営を続けていきたいですし、選手の皆さんにも革新的な心を持って参加してほしいです」を思い起こさせるではありませんか。
「生徒会は文化祭の準備やとりまとめ、パトロール活動などもしなければなりません。毎週土曜に会議を行いますけど、そのときの司会が意外と難しくて。意見をまとめて、その場で判断もしなければならない。でも、副会長もしっかりしていますし、私もきちんと成長できたかなあと思います」
ゴルフはずっと続けたいという土屋さん。ゴルフ部のある大学に入学したいと考えています。
「ゴルフ部に入ってもっと上達して活躍したい。そしてDGAのお手伝いもずっと続けて、部活動を通しても、この活動を広げていきたいです」
今後も土屋さんの活動に注目していきたいですね。
PHOTO/Yasuo Masuda、本人提供


