「週刊ゴルフダイジェスト」や「みんなのゴルフダイジェスト」で、障害者ゴルフの取材記事を執筆したベテラン編集者が、日本だけでなく世界にアンテナを巡らせて、障害者ゴルフのさまざまな情報を紹介する連載。今回はアジアの役割についてお話しします。

2025年、日本で行われた2つの大きな障害者ゴルフの大会、身体障害者を中心とした障害者ゴルファーの日本一を決める「日本障害者オープンゴルフ選手権」と耳が聞こえない、聞こえにくいアスリートのための国際大会「東京2025デフリンピック」。

実は、どちらの大会でも耳にした話があります。障害者ゴルフに関して、アジアのなかでの日本の役割がより大事になってくるということです。デフゴルフ日本チームの野尻房男総監督は、デフリンピック開催をきっかけに、デフゴルフの普及を願いより広く活動していきたいと考えていますが、今大会では韓国のデフゴルフ協会の方々と交流を深めたという話をしてくれました。

「韓国では2年前にデフゴルフ協会が立ち上がったばかりなんです。今回の大会には出場していませんが、勉強のため、大会にわざわざ協会の方がいらっしゃって、どうすれば世界デフゴルフ協会に加盟できるか、などの話をしました。私自身がわかる情報などもお伝えしながら、交流を深められたと思います。今後もっと参加するアジアの国も増えていけばいいなと願っています」

そうなのです。デフリンピックのゴルフ競技に出場しているアジアのチームは、日本とインドだけでした。100年という長い歴史のなかで日本チームの参加は今回が初めてでしたから、アジアにおけるデフゴルフの認知度はまだまだと言わざるを得ないですよね。デフリンピックにボランティアとして参加されていた手話通訳の方が、「手話での表現は、国の数だけあります。言い換えれば世界中に耳の不自由な方はいるということです」と言っていました。デフリンピック全体では81の国・地域からの参加がありましたが、ゴルフ競技は21カ国のみ。今後はアジアのパワーが必要になってくるに違いありません。

画像: 東京デフリンピック・ゴルフ競技の会場、若洲ゴルフリンクスには参加国の国旗が掲揚された。今後増えていくはずだ。金メダリスト、インドのディクシャ・ダガールは欧州ツアーで活躍するプロ。アジアの、そして女性のデフゴルフの第一人者でもある

東京デフリンピック・ゴルフ競技の会場、若洲ゴルフリンクスには参加国の国旗が掲揚された。今後増えていくはずだ。金メダリスト、インドのディクシャ・ダガールは欧州ツアーで活躍するプロ。アジアの、そして女性のデフゴルフの第一人者でもある

また、日本障害者ゴルフ協会が主催する大会にはここ数年、韓国選手が多く参戦するようになりました。世界障害者ランク(WR4GD)を上げるためです。現在世界各国で毎年140試合以上のWR4GD対象試合が開催されていますが、アジア圏では昨年までたったの3試合しか開催されておらず、そのすべてが日本での試合でした。

そもそもWR4GDは、2019年1月、ゴルフをパラリンピックの正式種目にすることを目指して、R&AとUSGAが設定しました。パラリンピックに参加するためには、世界の各地域に競技人口がいることも必要事項の1つです。今年5月にイギリスで開催された国際大会「The G4D Open」の際、日本がアジア圏でWR4GDの対象となる試合をもっと増やすべきだという議題が上がり、これをきっかけに『JAPAN WR4GD ツアーシリーズ』が誕生、今年2試合が開催されました。

本ツアーの創設に携わった日本ゴルフ協会専務理事の石塚義将さんによると、「アジアでの試合数が少なすぎると実力が世界ランキングに反映されないという現象が起きてしまいます。そこで誕生したのが『JAPAN WR4GD ツアーシリーズ』です。小規模ではありますが、世界ランキング対象トーナメントを月1回のペースで開催することを目標にし、アジア圏の選手がランキングをもっともっと上げられる機会を作りたいと考えたのです」。

画像: 日本障害者オープンゴルフの前夜祭で盛り上がる韓国選手たち。アーチェリーのパラリンピアンもいて、その実力は高い。女子の部では、ハン・ジョンウォン(左下腿欠損)が優勝。来年のG4Dオープンの出場権を獲得した

日本障害者オープンゴルフの前夜祭で盛り上がる韓国選手たち。アーチェリーのパラリンピアンもいて、その実力は高い。女子の部では、ハン・ジョンウォン(左下腿欠損)が優勝。来年のG4Dオープンの出場権を獲得した

ツアーと名付けられているのは、日本がアジアの障害者ゴルフの基点と認められ、将来的にはアジアで行うツアーにしたいと考えているから。これから試合数をもっと増やしていきたい意向だと言います。また、今年の秋で6回目を迎えた「柏オープン」の予選大会の1つがWR4GD対象試合となりました。開催基準を満たすべく数多くのレギュレーションが存在するなかで、多くの方々の尽力で、少しずつ広がっている感じでしょうか。

日本障害者オープンゴルフ選手権の前夜祭に、韓国のある1つの障害者ゴルフ団体の女性会長がきていました。

「今後何か一緒にできることがあればいいですね」とは日本障害者ゴルフ協会代表理事の松田治子さん。協会が設立されて30年以上になりますが、早くから世界の障害者ゴルフの各団体とも接触・交渉してきました。

画像: 日本デフゴルフ連盟(現・日本デフゴルフ協会)は1997年に発足。この英語の本には1870年代からのデフゴルフの歴史がつづられている。いつかこのような本が日本にも生まれるはずだ

日本デフゴルフ連盟(現・日本デフゴルフ協会)は1997年に発足。この英語の本には1870年代からのデフゴルフの歴史がつづられている。いつかこのような本が日本にも生まれるはずだ

「アジアのWR4GDツアーの話もあるので。まずは日本の対象試合をなるべく増やしたいんです。いろいろな意味で日本がアジアのリーダーであるべきだと思うし、そうでありたい。アジアの国々とも情報交換しながら共にやっていければ。ヨーロッパとアメリカばかりに偏るのはよくないですから」

2025年は、日本の障害者ゴルフが新たなスタートを切った年だと言えるのかもしれません。

PHOTO/Yasuo Masura、Tsukasa Kobayashi

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