「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか? その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられているようです……。

「個体差」の中からエースを見抜くプロの眼力

GD ジャンボさんの話に戻せば、ドライバーに関してもトーナメント会場に何十本も持ち込み、あーだこーだと言いながら最終的に1本に絞り込んでいました。あれこそまさに「個体差」を選んでいたわけですよね。

長谷部 会場での大規模な試打テストは行っていませんでしたが、比較していたのはその通りです。毎年1月にジャンボさんが始動するキャンプ後半に、かつての習志野ジャンボ邸にトーナメントサービスカーを2日間横付けして、その場で組み立てていました。
 
ヘッド重量を調整するために発泡剤を入れたり、長さやバランスを変えたりしたものを、30本近く組んでいましたね。 当時、私が担当したのは、どのクラブが選ばれるか分からないので、1本ずつのスペック(ロフト、ライ角など)を測ってメモやテプラで記録することでした。最終的に選ばれたクラブのスペックを追っかけないと、「ジャンボさんが使っているエースの正体」が分からなくなってしまっていたんです。
 
必死にやっていたのを覚えていますが、結局ジャンボさんはシールを剥がしてしまい、鉛に暗号のような目印を入れていましたが……。

GD チェックしていたのは「振りやすさ」や「弾き」だったと思いますが、市販品の中にも「飛ぶヘッド」と「飛ばないヘッド」が混ざっている可能性はあるのでしょうか。

長谷部 正直なところ、当時の管理ポイントによりますが、ジャンボさん専用の特別な製造ラインがあったわけではないんです。量産工程の中から選別した研磨前の素材を当時の静岡工場の研磨職人が丁寧に研磨したものを渡していましたので形状は安定していたはずです。
 
ただ「フェースの弾き」に関しては、打ってみないと分からない。当時はトラックマンもありませんでしたからね。ジャンボさんが自宅の「鳥籠(練習場)」の中で打って、「これは弾きがいいな」、「これはエースだ」とつぶやく。そして「これは絶対に誰にも渡さん」と周りのジャンボ軍団を煽るんです。
 
そうすると皆が欲しがって騒ぐのですが、そうしたエンターテインメントも含めて、ジャンボさんは全30本を打つんです。2、3発パンパーンと打って、「これはいい、取っておけ」と。30本から5本に絞り、さらに2本に絞る。バラつきを逆手に取って、最高の弾きを求めていたんだと思います。

GD 以前、伊澤利光プロが「このヘッドは飛ぶ」と見抜いたことがありました。「フェースが歪んでいるから飛ぶんだよ」と。もし見た目で見抜く方法があれば、中古ショップで探す目安になるのですが、何かありませんか?

長谷部 フェースの向きはゴルファーの好みがあると思うので強いて言えば、Rゲージ(丸みを測る道具)を持っていくことでしょうか。最近テーラーメイドがフェースのロール(縦の丸み)について話をしていますが、決して新しい話ではありません。
 
かつてブリヂストンが開発した「230チタン(エイト)」でも、バルジ(横の丸み)をきつく(丸く)したほうが操作性が増し、結果としてスピン量が安定して飛ぶと言われていました。そうしたフェース設計に着目して、個体差を活かして中古クラブを選ぶというのは面白いかもしれません。丸いのがいいのか、平らなのがいいのか、という選択ですね。

GD 丸みがあるほうが、球は安定するのでしょうか?

長谷部 芯を外した時にスピン量がまとまると言われていますが、それは重心位置との関係もあります。重心が30ミリ以上深ければ効果的かもしれませんが、浅い重心のメタル時代には、スピンを減らすためにむしろフェース丸みを抑え平らにしていました。パーシモンよりもメタルのほうがバルジ、ロールが少なかったのはそのためです。

GD 今回のテーラーメイドの新作を含め、最近は昔の設計に近い部分があるのでしょうか。

長谷部 形状としては、少しパーシモンに近いフェース形状になっていると言えるかもしれません。重心が深くなっている分、少し丸みをつけてボールとの接触時間を制御しようとしているのではないでしょうか。
 
ただ、今のテーラーメイドのカーボンフェースは、研磨工程がないため個体差(バラつき)がないといっています。これはこれですごい発想だと思います。

GD チタンフェースは研磨しているのですか?

長谷部 レーザー加工など含めて研磨しています。研磨せざるを得ないんです。まったく無垢の状態で出しているメーカーはまずありません。
 
金属が固まったり鍛造から冷却する段階で、薄い形状は安定しないため、最終的な調整が入ります。溶接すればまた歪みも出ます。伊澤プロが見抜いた「歪み」というのも、そうした製造工程で生まれてしまうものなのでしょう。

GD それは手作業なんですね。機械で組むことはない?

長谷部 基本的には手作業が多いですね。だからこそ、良い意味での個体差が生まれる可能性があります。プロゴルファーでも、恵まれている人は多くの個体から選べますが、一方で「新しいモデルになかなかスイッチできない」プロがいるのも、今使っている個体が「選ばれた特別な一本」であり、それを超える個体に巡り会えていないからかもしれません。
 
ルールで反発性能が縛られている中でも、わずかな誤差(個体差)の中から最高の一本が選ばれている、ということですね。

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