
苦労人で知られるジェイク・ナップ。好調のまま優勝なるか!?(写真は24年マスターズ、撮影/岩本芳弘)
本大会との相性は特筆すべきものがある。ジェイク・ナップは過去2回の出場で、4位タイ、6位タイといずれもトップ10フィニッシュを成し遂げている。
「彼の今シーズンの調子は凄まじいですね。『ソニーオープン・イン・ハワイ』の11位から始まり、その後も『ファーマーズインシュランスオープン』5位、『WMフェニックスオープン』8位、『AT&Tペブルビーチプロアマ』8位、そして『ジェネシス招待』6位と、抜群の安定感を維持しています。そんな彼が得意とする舞台にやってくるわけですから、この絶好調の波に乗ってどのようなプレーを見せてくれるのか、非常に注目ですね」(以下、杉澤)
彼は今でこそPGAツアーで勢いに乗る一人だが、ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。
「彼は2016年のプロ転向後はなかなか結果が出ず、2021年秋から約9カ月間、ナイトクラブのガードマンとして働いていた異色の経歴を持っています。当時はコーンフェリーツアーでの成績が振るわず、出場権を失うという厳しい状況にありました。試合から遠ざかっていたその期間、夜は用心棒として働きながらも、彼の心は常にゴルフコースにありました。決して自分を投げ出すことなく、再び表舞台へ戻るための準備を静かに、そして着実に進めていたのです。そして2022年にPGAツアー・カナダの『CRMCチャンピオンシップ』で初代王者に輝いたことが、彼のキャリアにおける最大の転機となり、再び表舞台へと這い上がるきっかけを掴んだのです」
下部ツアー(コーンフェリーツアーとPGAツアー・カナダ)で100試合以上を戦い抜いてきた彼を支えていたのは、ある信念だった。
「彼はよく『竹』の話をするそうです。竹は何年もの間、地中でじっと根を張りますが、地上に顔を出した途端、数週間でぐんと伸びます。いつか自分もそのように大きく成長できる日が来ると信じ、用心棒をしていた苦しい時期も、朝からトレーニングや練習を欠かさなかったといいます。今、まさに『ジェイク・ナップ』という名の竹が、誰にも止められない勢いで空に向かって伸び始めていますね」
名門UCLA出身のエリートでありながら、プロ入り後は挫折の連続だったナップ。そんな彼がゴルフを諦めずに続けてこられた背景には、幼少期の忘れられない思い出がある。
「彼は幼い頃、タイガー・ウッズのキャディを務めていたスティーブ・ウィリアムズから、タイガーが実際に使用していたボールをもらったそうです。そのボールは今も彼のデスクに大切に飾られており、『あのボールがなければ、ゴルフを辞めてしまっていたかもしれない』と語るほど、彼にとってかけがえのない宝物になっています」
かつてはスウィングの美しさを追求していたナップだが、現在はより実戦的なスタイルへと進化を遂げている。
「彼は、以前はスウィングをいかに綺麗にみせるかを意識していたようですが、『どうすればスコアを作れるか』という実戦的な考え方にシフトしたことで、大きな飛躍を遂げました。特にパッティングの技術が他の選手より秀でており、ストロークゲインド・パッティングは全体11位と、非常に高い水準を維持しています。また、スコアリング・アベレージ(平均ストローク)は67.70で全体5位と、ツアー屈指の安定感を誇っています。卓越したパッティング精度と、持ち前のアグレッシブな攻めのゴルフが見事に噛み合っており、そのプレーは非常に見応えがありますね」
圧倒的な飛距離を武器とする一方で、課題となっていたティーショットの安定感を高めるために導入したのが「ミニドライバー」という選択だ。
「彼はミニドライバーというクラブ自体を『フェアウェイファインダー』と位置づけ、2024年からセッティングに加えています。当時、本人も『3番ウッドよりやさしい。270ヤード以上先からピンポイントに狙うのではなく、アバウトにグリーン周りに運べればいい時のティーショット用』と語っていましたが、まさにこの“割り切り”が彼のゴルフを変えました。現在のフェアウェイキープ率(58.57%)は98位と数字上は低く見えますが、この武器のおかげで“致命的なミス”が激減しています。狭いホールやプレッシャーのかかる場面で、大怪我を避けて次が打てる場所に置く。このマネジメントが確立されたことで、持ち前の爆発力がスコアに直結するようになったのです。用心棒時代に培った我慢強さと、この『フェアウェイファインダー』があれば、“ゴールデンベア”ことジャック・ニクラスが仕掛けた最難関の3ホール、通称『ベアトラップ(15番〜17番)』も、きっと冷静に攻略してくれるはずです」
2024年にメキシコでツアー初優勝を飾り、ついにPGAの表舞台へと躍り出たジェイク・ナップ。苦労の末に手にしたこの舞台で、彼がどこまで高く伸びていくのか。その熱いプレーにぜひご注目ください。
U-NEXT 木村真希
