「看板持ち」の少年が見上げた背中
ここPGAナショナルは、フロリダ州ウェストパームビーチで育ったケプカにとって、単なるツアートーナメントの会場ではない。彼のゴルフ人生の「原点」とも呼べる場所だ。
「9歳か10歳の頃から、高校生になるまで、僕は毎年ここに来ていたし、スコアの看板を持つ係(スタンダードベアラー)をしたこともあったんだ」
ロープの内側に入り、ジェフ・マガードやスティーブン・エイムズといった当時のトッププロたちの組のスタンダードベアラーとして、ついて歩いた記憶。彼らが放つインパクトの音、スウィングの迫力。そのすべてが、若き日のケプカの血肉となっている。
「あそこまで選手に近づける機会は他にない。本当に楽しかったし、僕にとって特別な思い出なんだ」
殺伐としたツアーを離れ、パパになる時間
かつて憧れの眼差しでプロを見上げていた少年は今、自らが大歓声を浴びるスーパースターとなった。そして同時に、一人の「父親」にもなった。地元開催の今週、彼はホテル暮らしではなく、自宅からコースへと通っている。そのルーティンは、世界トップアスリートのそれというより、良きマイホームパパの日常そのものだ。
「昨日の練習ラウンドが終わった後、午後6時40分にはもう会場を飛び出していたよ。病気気味だった息子の寝かしつけに間に合わせたくて、急いで車を飛ばしたんだ」
そう笑うケプカ。さらに、朝のジムでのトレーニングの際も「息子を起こさないように、物音を立てずに静かにやっている」と明かす。コース上での近寄りがたいオーラはそこには微塵もない。
父親としての喜びは、ゴルフを通じても共有されている。彼は息子に、子供用のプラスチックのおもちゃではなく、本物のクリーブランドのウッドとアイアンを与えたという。
「プラスチックより重いから振るのが大変そうだけど、打ったボールがこれまでよりずっと遠くに飛んだことに、あいつ自身がすごく驚いていてね。それを見るのがたまらなく嬉しいんだ」
息子の成長を語るその声は、かつてないほど温かい。
浦島太郎状態と、地元が与える安らぎ
LIVゴルフを主戦場とする彼にとって、久しぶりのPGAツアー参戦は、ある種の「浦島太郎状態」でもあるようだ。
「『4年で選手の半分は入れ替わる』とどこかで読んだけど、本当だね。ロッカールームに行っても知らない顔ばかりだ」
激しい新陳代謝が起こるツアーの現実を肌で感じ、自身がすでにベテランの域に達していることを静かに自覚している。

地元での試合ということで、練習ラウンドでもリラックスした表情が多いブルックス・ケプカ(PHOTO/Getty Images)
だからこそ、地元での戦いは彼に特別な安らぎを与えてくれる。
「自分の家の、自分のベッドで眠れること。そして何より、友人たちが車で25分も走れば応援に来てくれること。これがどれだけ素晴らしいことか」
世界中を飛び回り、極限のプレッシャーの中で戦い続ける彼にとって、家族と友人に囲まれる今週は、魂を充電するための大切な時間なのだ。
新たなレガシーの始まり
かつて、重いスコア看板を一生懸命に持ち歩いていた少年。彼は今、メジャーの歴史に名を刻む偉大なチャンピオンとしてこの地に帰ってきた。そして遠くない未来、彼自身の息子が、父親の組の看板を持って歩く日が来るかもしれない。
トーリーパインズでの復帰戦で「ただ、愛されたかった」と本音をこぼした強面の男は今、地元フロリダで、愛する家族とファンに包まれながら穏やかな時間を過ごしている。人間としての厚みを加えたブルックス・ケプカが、愛する故郷のコースでどのような新しいレガシーを残すのか。その一打一打から、目が離せない。

