日本障害者ゴルフ協会(DGA)では、東京(ときどき名古屋、関西でも)で月1回程度、練習場でのレッスン会を行っています。その会場、目黒にある練習場「スイング碑文谷」を訪ねました。協会理事の真辺和美さんは、「かなり遠くから、なかには新幹線を使っていらっしゃる方もいます。障害者の方々に教える人や場はまだまだ少ない。片麻痺の方は特に一歩が踏み出せずにいます。こういったレッスン会を増やしたい意向はあります」と、障害者ゴルフだけではなく社会参加への第一歩となる“場”の必要性を語ります。

毎月第1水曜日に開催予定。この日も、息子さんを参加させたいと考えているお母さまが見学に来ていました。興味ある方は、日本障害者ゴルフ協会にご連絡を
さて、この日は冬の寒さ厳しく、参加人数は少なめでしたが、1時間半の貴重な時間を、皆さん一生懸命、練習に費やしていました。そのなかに、鮮やかなオレンジ色のウェアを着て左手1本で真剣にボールを打ち続けている男性がいました。打席の後ろには、ボールの行方を静かに見守る女性がいます。小原英隆さん、智子さんご夫妻です。56歳の小原さんが脳卒中で倒れたのは2011年、15年前のこと。まだ40歳になったばかりの頃です。
「まさかそんなに若くして倒れるとは思いませんでした。あの頃、主人の仕事はすごく忙しかったですけれど、血圧が高かった、なんてことはなかったんです……」と語るのは智子さん。体の右側に片麻痺が残り、失語症にもなってしまいました。
仕事は同じ会社で続け、リハビリに取り組む日々。スポーツは水泳や卓球を始めましたが、あまり好きではなかったのだそうです。
「倒れる前は、ずっとスキーとゴルフが好きで。ゴルフのスコアは90~100くらいでしょうか。でも、もう一度やりたくても『片麻痺でどうやるの?』と私も主人も思っていました。倒れて10年くらいしてまず、主人が勝手に障害者を連れて行ってくれる方のスキーツアーに申し込んで、装具を板に付けてのスキーに挑戦したんです。その装具が合わなくて……それでも翌年からは昔のスキー仲間と2、3人で行くようになりました。装具なしで滑れるようになったんです。もちろん倒れたらお友だちが起こしてくれるんですけれどね」

小原さんご夫妻。奥さまは現在は運転担当。「右の視野が少し狭いので、運転させたくないんです」。夫婦円満の秘訣は「お互いが“流すこと”」。もうすぐ2サムラウンドも可能なのではないでしょうか
スポーツのチカラは大きいのです。まず、“外に出たい”という気持ちにさせてくれることが第一歩なのだと思います。
「12~13年間はずっと引きこもっていましたから。ゴルフもやっぱりしたそうだったから、私がこの協会を見つけて、連絡してこの練習会に来てみたんです。1年前です。そうしたら、同じ片麻痺の方で、200ヤードくらい飛ばしている方がいて、『こんなにできるんだ』と、そこから火がついたみたいです。負けず嫌いなんでしょうね」
この練習会以外は近所の打ちっぱなしに週3、4回ほど通っているといいます。
「私はついて行ったり行かなかったり。行くときはボールを打ったりもします」
昨春、「コースデビュー&レッスン会」で新君津ベルグリーンCCに行き、14年ぶりにコースに立ちました。
「練習して、3ホールくらい回らせていただいた。そのときの顔が、ものすごく楽しそうで、キラキラしていて、本気で嬉しいんだなと思いました」

熱心に練習し、170ヤード飛ばす小原さん。「ここに来たら当たるんですけど、コースではなかなか……」。目標は200ヤード。少しずつ近づいているように思えます
その後、協会が行うラウンドの月例会に数回参加しました。
「私はキャディみたいに回らせていただいています。私にもゴルフを『やれ』と言うんですけど、『私が回るとあなたはどうするの』と。『私も自分のラウンドで精いっぱいになるでしょうから、もう少し上手くなっていただかないと』と言いました(笑)」
ここにくるまでどのくらいの苦難があったのでしょう……でも今は2人そろって、心身ともに「前へ」向かっているようです。
「ゴルフをするようになってからはやっぱり前向きになりました。それまでは弱音を吐いてばかりで。障害者の皆さんには弱音を吐かない方も多いんでしょうけど、主人は違っていたので。今は『飛ばしたい!』と言っています。でもここには本当にポジティブな方も多いですし、付き添いの方々もパワフルで楽しいんです」

義足のプロ、吉田隼人氏が丁寧に教えます
レッスン会で指導する義足のプロ、吉田隼人氏は、小原さんのいまのスウィングを「左手1本で打っているので、手が体から離れて前に出るクセがある。するとドライバーでフェースが開きやすくなりスライスが出ますし、それを嫌がってこねて打つと低いチーピンが出ます。そこはチェックします。球が当たるとより意欲が出てきますからね。でも、最初より上手くなっていますし飛距離も伸びていて、僕もそんな成長を見るのが嬉しいんです」と話します。
3月に新君津ベルグリーンCCで開催される、中高生との交流ラウンドにも参加する予定の小原さん。
「周りの皆さんが、出ても大丈夫、と言ってくれたのでその気になっています」
練習後、小原さんご本人に最近の自身のゴルフについて聞くと、「悔しい、クソッと思います」。この気持ちこそが、さらにその先へ進ませてくれる原動力となるのでしょう。


