エースの瞬間と、家族の歓喜

母国開催の大会で26年LPGAツアー初のホールインワンを達成したイン・ルオニン(PHOTO/Getty Images)
ドラマが生まれたのは、実測153ヤードの7番ホールだった。ティーイングエリアに立ったルオニンは、少し左からのフォローの風を感じ取っていた。
「完璧な8番アイアンの距離だと思いました。でも、ここ数ホールはスウィングの調子があまり良くなかったので、とにかく自分のスウィングをすることだけを考えたんです」
無心で振り抜いた8番アイアン。放たれたボールは、彼女が「完璧な小さなカットボール」と表現した通り、美しい弧を描いてピンへと真っすぐに向かっていった。グリーンで4バウンドしたあと、ボールはスーッとカップに吸い込まれていった。
「実際に入るところを自分の目で見たのは、これが初めてでした。本当に特別な瞬間だったわ」
【動画】イン・ルオニンによるLPGA今季初エース【LPGA公式X】
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x.comカップインの瞬間、コースは熱狂に包まれたが、誰よりも興奮していたのは彼女の家族だった。「母が叫んでいるのが聞こえました。何マイルも離れた場所からでも聞こえるくらいの大声でね(笑)」。元世界女王の顔から、23歳の等身大の笑顔がこぼれた。ラウンド後、この歴史的なエースをどう祝うのかと問われると、「ランチを食べて、夜は家族とミニお祝いをするかも。彼らにミルクティーを買ってあげるわ」と、なんとも飾らない、彼女らしい素顔を覗かせた。
「目立ちたがり屋」のプロ意識と、チャリティへの熱い思い
ルオニンは自身の性格について、非常に興味深い自己分析をしている。
「私は普段、とても内向的な性格なんです。でも、ゴルフコースに出ると、不思議と外向的になるの」
記者の「コース上では少し『目立ちたがり屋(エンターテイナー)』ですよね?」という問いかけにも、「絶対にそうね」と笑顔で即答する。静かな日常から一転、大観衆の視線を浴びることでスターとしてのスイッチが入る。地元の大声援をプレッシャーではなくエネルギーに変え、最高のパフォーマンスで応えてみせる。まさにプロフェッショナルとしての「魅せるゴルフ」の真骨頂だ。
さらに、このホールインワンは単なるスコア以上の意味を持っていた。LPGAツアーが行っている「CME Group Cares Challenge」というプログラムにより、ホールインワンが達成されるごとに、セント・ジュード小児研究病院へ2万ドル(約300万円)が寄付されるのだ。
インタビューでその事実を初めて知らされたルオニンは、目を輝かせた。
「それは本当にクールね。2万ドルというのは大金だし、絶対に大きな意味がある。子供たちを助けるために、もっとたくさんのエースを出したいわ」
トップアスリートとしての闘争心の奥にある、深く温かい人間性が垣間見えた瞬間だった。
忍耐を胸に、地元優勝への渇望
この日スコアを伸ばし、通算5アンダーの11位タイで週末へと駒を進めたルオニン。しかし、地元での優勝争いに向けて、彼女に焦りはない。
「ゴルフは予測不可能なランダムなスポーツ。良いショットを打ってもディボットに入ることもある。だからこそ、キャディとも話していた通り『忍耐』が一番の鍵になるの。特にこのコースとコンディションはとてもチャレンジングだから、我慢して自分のゲームをすればチャンスはあると思う」
どんなスーパープレーが出ても、決して一喜一憂せずに冷静に足元を見つめる。それが頂点を極めた者のメンタリティだ。ツアーで大の仲良しであるジーノ・ティティクルが今年の「ホンダLPGAタイランド」で魅せたような母国での優勝という最高のシナリオへ向け、心優しき“目立ちたがり屋”のスターが、週末のブルーベイでさらなる熱狂を巻き起こす。
