
3143日ぶりとなる勝利を飾ったイ・ミヒャン(PHOTO/Getty Images)
「薬なしでは眠れない」満身創痍のサバイバル
この一週間、彼女の肉体は悲鳴を上げ続けていた。発端は昨年9月の「クローガー・クイーンシティ選手権」。3ウッドを打った際に右肩を負傷し、それでもシーズン最終戦まで無理をして出場を続けたことで、症状はさらに悪化してしまった。2カ月半のオフをとっても完治には至らず、この大会が連戦の3週目となったことで、肩の痛みは限界に達していた。
「昨夜は薬(痛み止め)なしでは眠れませんでした。肩にとって、今週は少し無理をしすぎてしまったと思います」
そんな満身創痍の状態で迎えた最終日。彼女を待っていたのは、最大瞬間風速11m/sを超える強烈な突風と、3143日優勝から遠ざかっているという想像を絶するプレッシャーだった。スタートの1番ホールでこそバーディを奪ったものの、極限の緊張と痛みからスウィングが乱れ、フロントナインで2つのダブルボギーを叩いてしまう。スコアを落とし、一時は完全に心が折れかけたという。
「本当に苦しくて、ほとんど諦めかけていました」
涙の優勝会見と、キャディがかけた魔法の言葉
絶望の淵にいた彼女を救ったのは、隣を歩く相棒の言葉だった。
「キャディがずっと『戦い続けろ、戦い続けろ(keep fighting, fighting)』と私に言い続けてくれたんです。だから、私も自分自身で戦おうと決めました。絶対に諦めないと」
その言葉で息を吹き返したイ・ミヒャンは、バックナインに入ると別人のようなゴルフを展開する。10番ホールでバーディを奪って流れを引き寄せると、竹田麗央や中国のジャン・ウェイウェイらが猛追してくる重圧の中、13番、そして最終18番もバーディを奪取し、1打差で逃げ切った。
優勝会見の席、彼女は震える手でマイクを握りしめ、あふれる涙を抑えることができなかった。
「本当に、本当に長い数年間でした。父、キャディ、コーチ、友人、そして家族。ツアーの仲間たちも、私にポジティブな言葉をかけ続けてくれました。この勝利は、彼らが私に作ってくれたものです。ただただ感謝したいです」
ベテランの意地が示すもの
最終18番、75ヤードの第3打を58度のウェッジでピンそばにピタリと寄せた一打は、彼女がこの1カ月間、激痛の中でフルスウィングができない代わりに磨き続けてきた「65ヤードを打つ感覚」の賜物だったという。
【動画】イ・ミヒャン、最終18番でカップに蹴られたほぼイーグルのショット【LPGA公式X】
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x.com若手やルーキーが次々と台頭し、パワーゴルフが全盛となる現代の女子ゴルフ界において、怪我の苦しみと長年のスランプを経て再び頂点に立った32歳のベテランの姿は、多くの選手に希望と勇気を与えたはずだ。そして、この日猛追を見せながらも、あと一歩及ばなかった竹田麗央にとっても、極限のプレッシャーと痛みに耐え抜き、最後に勝ち切るベテランの強靭な精神力を肌で感じたことは、今後の米ツアーを戦い抜く上で計り知れないほど大きな糧となるに違いない。
