PGAツアーの旗艦大会「ザ・プレーヤーズ選手権」が、今年もTPCソーグラスを舞台に開幕する。「第5のメジャー」と称されるこの大会において、世界中のゴルフファンが最も熱い視線を注ぐ場所がある。コース終盤に待ち構える、名物「17番パー3」。グリーンが池に囲まれた、美しくも残酷な「アイランドグリーン」だ。距離はわずか130ヤード前後(日によって異なる)。しかし、風が吹き抜け、プレッシャーが頂点に達するサンデーバックナインにおいて、この短い距離が果てしなく遠く感じられるという。毎年数多くのトッププロを飲み込むこの“魔のホール”に対し、世界トップクラスの選手たちはどのようなメンタルで向き合っているのか。開幕前の会見から、彼らのリアルな心理戦を紐解く。
画像: トミー・フリートウッド、ジャスティン・ローズ、ブルックス・ケプカ。三者三様のマインドで17番に挑む(撮影/岩本芳弘)

トミー・フリートウッド、ジャスティン・ローズ、ブルックス・ケプカ。三者三様のマインドで17番に挑む(撮影/岩本芳弘)

アマチュアの「常識」はプロの「非常識」? フリートウッドの異端な準備

昨年のFedExCup王者であるトミー・フリートウッドの会見で、ある記者が興味深い質問を投げかけた。

「練習ラウンドで、17番のドロップゾーン(池ポチャ後の打ち直し地点)からあえて打つことはあるか?」

フリートウッドは、事もなげにこう答えた。

「ああ、あるよ」

この返答に、質問した記者自身が目を丸くした。「私が話を聞いた中では、あなたが初めてだ。おめでとう」と驚く記者に対し、フリートウッドも「本当に?」と逆に驚きの表情を見せた。

実はこれ、プロの心理における「盲点」とも言える部分なのだ。アマチュアゴルファーの感覚からすれば、「万が一池に入れた時に備えて、ドロップゾーンからの距離感や芝の感覚を練習しておく」のは、当然のリスクヘッジに思える。

しかし、極限のプレッシャーの中で「絶対にグリーンに乗せなければならない」トッププロたちの多くは、無意識のうちに「池に落ちる」というネガティブなイメージを脳に刷り込むことを極端に嫌う。そのため、わざわざドロップゾーンから打つという行為を避ける傾向があるのだ。

だが、フリートウッドの思考は極めてリアリストだった。

「もちろん、池に入れるつもりなんて毛頭ないよ。でも、あのホールには十分すぎるほどのメンタル的なチャレンジがある。だから、もし池に入れてしまったとしても、『準備ができている』状態にしておきたいんだ」

「『池に入れちゃった。さあ、ドロップゾーンはどこだ?』と慌てるのではなく、そこから打つ感覚を知っておきたい。これは僕なりの『準備の形』なんだよ」

ネガティブな想像から逃げるのではなく、それを受け入れ、冷静な対処法へと変換しておく。この卓越したメンタルコントロール術こそが、彼を年間王者へと押し上げた強さの秘密なのだろう。

「2.5メートルの誘惑」と「記憶喪失」。J.ローズの生存本能

一方で、このコースを21回も経験している大ベテラン、ジャスティン・ローズは、17番を含むTPCソーグラス全体への「敬意(リスペクト)」の重要性を説く。

「このコースは、外してはいけない側に外すとリカバリーが非常に難しい。ウェッジでピンを狙う際、グリーンの真ん中に打てば傾斜で6〜7メートル離れてしまうことが分かっている。だからこそ、2.5メートル幅しかないような狭いグリーン面を直接狙いたくなる強烈な『誘惑』に駆られるんだ」

最高のショットには報酬が、わずかなミスには手痛い罰(ボギー以下のスコア)が待つ。設計者ピート・ダイの罠に敬意を払い、自分の状態を客観視できるかどうかが鍵だという。

そんなローズに対し、記者が意地悪な質問をぶつけた。

「ブルックス・ケプカが17番で『8』や『7』を叩いたと話していましたが、あなたのあのホールでのワーストスコアを覚えていますか?」

ローズは笑って答えた。

「私がこれほど長くツアーで生き残れている生存本能の一つは、『記憶力が良くないこと』かもしれないね(笑)」

「キャリアの始まりに21試合連続予選落ちを経験したことで、過去のミスを引きずらないことを学んだんだ。だから、あまり覚えていないよ。ただ、昨年金曜日のカットライン付近で池に入れたことくらいは覚えているけどね」

長きにわたり世界のトップで戦い続ける男は、残酷な記憶を意図的に「忘却」することで、自らのメンタルを守り抜いているのだ。

過去の「8打」のトラウマをどう消すか。ケプカの割り切り

そして、ローズの話題にも上った男。メジャー5勝を誇り、大舞台に滅法強いはずのブルックス・ケプカは、この17番ホールに苦いトラウマを持つ。 彼は会見で、過去の大会を振り返りながら苦笑交じりに明かした。

「17番ホールにはやられているよ。ある年は『8』と『7』を叩いた。あれは本当にひどかった」

アマチュアであれば、大叩きしたホールに戻ってくるだけで嫌な記憶がフラッシュバックし、体がすくんでしまうものだ。記者から「あなたほどのレベルの選手なら、その記憶にどう対処するのか? 17番のティーに立つ時、そのことを考えるのか?」という直球の質問が飛んだ。

ケプカの回答は、実に彼らしい、シンプルで図太いものだった。

「いや、考えないよ。あの記憶が僕を呪うことはない。終わったことだし、どうしようもないからね」

さらに彼は笑いながら付け加えた。

「友達からはめちゃくちゃイジられるけどね。『オーガスタの12番(※同じく池絡みのパー3)と17番はお前の鬼門だな』って。でも、昨日の練習ラウンドではちゃんとグリーンに乗せたから、かなり興奮したよ(笑)」

過去の失敗に囚われず、完全に切り離す。起きてしまったミスを引きずらず、「今」やるべきことだけにフォーカスする。この究極の割り切り方こそが、ケプカをメジャーハンターたらしめている強靭なメンタルの正体である。

魔物と向き合う三者三様の思考法

「ネガティブな事態を徹底的に想定し、準備することで不安を消す」フリートウッド。 「過去の残酷な記憶を都合よく忘れ去る」ローズ。そして、「起きたミスは完全に切り捨て、現在に集中する」ケプカ。

アプローチは三者三様だが、どれも「17番という魔物」に飲み込まれないための、トッププロならではの極意である。これはスコアメイクに悩むアマチュアゴルファーにとっても、コースでのメンタルコントロールの大きなヒントになるはずだ。

今年のTPCソーグラス17番ホールで、彼らはどんな顔をしてティーイングエリアに立ち、どんな結末を迎えるのか。「第5のメジャー」のクライマックスに、今から期待が高まる。


This article is a sponsored article by
''.