今年、石川遼が参戦していることでも話題の米下部「コーンフェリーツアー」。バハマから始まり、2月から3月初めにかけてコロンビア、アルゼンチン、チリと南米を舞台に熱戦が繰り広げられた。今回、ブラジル在住のスポーツジャーナリスト・大野美夏がコロンビアとチリの試合に潜入。日本では情報の少ない貴重な大会の様子を、南米のゴルフ事情も交えて3回にわたりレポートしてくれた!

2026年、サッカーの聖地ラテンアメリカに日本人ゴルファーが乗り込んできた。石川遼、大西魁斗、杉浦悠太の3人だ。日本から飛行機を乗り継ぎ、丸1日かけて辿り着くこの地は、ゴルファーにとって究極のアウェイである。世界最高峰PGAツアーの下部組織、コーンフェリーツアー(KFT)の前半戦「ラテンアメリカスウィング」が、今まさに幕を開けようとしていた。

「特権」としてのゴルフ、社交の場としてのクラブ

ラテンアメリカを語る上で、歴史は避けて通れない。15世紀、スペインとポルトガルが世界を二分したトルデシーリャス条約の名残で、ブラジルはポルトガル語、その他の国々はスペイン語を話す。そんな広大な大陸で最大の人気スポーツは、言わずとしれたサッカーだ。W杯5回最多優勝を誇るブラジルを筆頭に、アルゼンチン、ウルグアイ、コロンビア……。サッカーはここでは「大衆の熱狂」そのものである。

対して、ゴルフはどうか。日本に2000以上のコースがあるのに対し、ラテンアメリカ全土でわずか800。

一番多いアルゼンチンで350、日本の23倍の国土があるブラジルには100余り、コロンビアとチリはそれぞれ7~80程度の数にすぎない。ゴルフは大衆のレジャーではなく、一部の富裕層がプライベートクラブに所属して楽しむマイナースポーツである。「会員制クラブで社交をし、ゴルフという競技を楽しむ」という特徴が、日本と大きく異なっている。

アルゼンチンにはパブリックコースが多く存在するが、ラテンアメリカでゴルフを嗜む人々は、クラブの会員権を買って、会員となるケースが主流だ。クラブには、ゴルフ以外のスポーツ施設を持つところも多く、テニス、サッカー、乗馬、スカッシュ、スイミングなどを通して、人と人の交流を深め、良い人生を送るコミュニティという意味合いが深い。南米の熱狂的なサッカーも、元々は社交クラブの中のサッカー部が発展しプロ化した歴史がある。私が所属するブラジル、サンパウロのPLゴルフクラブは日本人たちが1968年に設立したクラブで今でも会員は日本人、日系人、駐在員が中心だ。会員権を買って、月会費を払えば、グリーンフィーは無料でラウンドできるため、私は週3ペースでラウンドしている。やればやるほど得なので!

オープン戦や月例だけでなく、仲間内のコンペも、全てハンデキャップインデックスをベースにしたレギュレーションで、アンダーハンデの戦いをする。日本で普及している新ペリア方式が使われるのは見たことがない。 

そんなクローズドのバックグラウンドがある中、リオ五輪のために作られた”オリンピックコース”は例外で、大衆に開かれたパブリックコースとして今も健在だ。ゴルフだけでなく、誕生日パーティーをしたり、ビジネスパーティーに使われたりと、一般の人たちが使えるような工夫をしてレガシーを守っている。また、国際規格のコースであるため、PGAツアー傘下の試合もここで行われる。ちょっとブラジルらしいのは、フットゴルフ場が併設されているところだろう。

画像: コーンフェリーツアー第6戦「アスタラ・チリ・クラシック」が開催されたプリンス・オブ・ウェールズCCも1925年創設の歴史あるクラブだ

コーンフェリーツアー第6戦「アスタラ・チリ・クラシック」が開催されたプリンス・オブ・ウェールズCCも1925年創設の歴史あるクラブだ

PGAツアーが「未開の地」に投資する理由

そんな「狭く、濃い」土壌に、PGAツアーは戦略的最重要拠点として目をつけてきた。

現在、PGAツアーのトーナメントを見ると、PGAツアー、KFT、PGAツアー・アメリカズ、PGAツアーチャンピオンズ(シニア)で構成されている。KFTと同様に、PGAアメリカズにもラテンアメリカスウィングがあり、PGAツアーにとって、人材、経済の側面からラテンアメリカのポテンシャルを高く評価しているのは間違いない。

今期、KFTは全25試合のうち、前半7試合を「ラテンアメリカスウィング」と呼ばれるバハマ、パナマ、コロンビア、アルゼンチン、チリ、メキシコの6カ国で行った。

元々、PGAツアーがラテンアメリカに力を入れ始めたのは、今から14年前の2012年から。いわば種を蒔いてきたのだ。「PGA TOUR Latinoamerica」発足に伴い、この地域のポテンシャルに投資してきた。

大きな転機はもう一つ、2015年にマスターズを開催するオーガスタナショナルGCなどが主導して「ラテンアメリカ・アマチュア選手権(LAAC)」が始まった。この大会でラテンアメリカアマチュアの頂点に立てばマスターズ、全米オープン、全英オープン、全米アマ、全英アマの出場権を得ることができ、ラテンアメリカのジュニアたちにとって、アメリカでの成功が夢でなく、目標になった。さらに、2024年から、PGAツアーはKFTの下部であったPGAツアー・ラテンアメリカとPGAツアー・カナダと合併してパンアメリカン(北中南米)規模の「PGAツアー・アメリカズ」という統一パスウェイ(成功への階段)を作り、出場者は、より高レベルの競争と、より多くの世界ランクポイントを手に入れることができるようになったのだ。

単にPGAツアーの3部という意味だけでなく、「新しいスター候補」、「新しいスポンサー」、「新しい市場」の獲得という明確なビジョンがある。PGAツアーは、日本のような成熟市場とは異なる、荒々しくも類まれな身体能力を持つアスリートが、この大陸に眠っていると確信しているのだ。

今年のPGAツアー・アメリカズの第1戦は、4月16~19日の日程でブラジル、リオデジャネイロの五輪コースからスタートする。PGAツアーにとって、ブラジルは南米最大の国であり、第一の経済圏であるサンパウロ、そして第二の経済圏であるリオデジャネイロの経済力は大変魅力的である。ブラジル出身のスター選手さえ1人でも生まれれば、一気に爆発する期待の国である。

画像: オリンピックで112年ぶりにゴルフ競技が復活したのもここブラジルだった

オリンピックで112年ぶりにゴルフ競技が復活したのもここブラジルだった

ラテンアメリカのゴルフといえば、思い出すのは、アルゼンチンの英雄的存在、マスターズ優勝のアンヘル・カブレラ。今も現役で活躍している。ウェブドットコムツアー(現在のKFT)からPGAツアーに上がって安定した活躍をしているエミリアーノ・グリジョ。コロンビアのみならず世界中にファンを持つ”スパイダーマン”ことカミロ・ビジェガスは、現在44歳だが、2023年に9年ぶりの優勝を果たし人気は衰えていない(ビジェガスは母国開催のアスタラチャンピオンシップに参加し、地元の絶大な応援を受けていた)。コロンビアにはもう1人、2024年ZOZOチャンピオンシップ覇者ニコ・エチャバリアがいる。エチャバリアはアメリカの大学を卒業した後、PGAツアー・ラテンアメリカを経てトップにまで上り詰めた。今年のプレジデンツカップの世界代表候補に挙げられている注目株だ。チリからは、アマチュアランキング1位からPGAツアーに鳴り物入りでプロ転向したホアキン・ニーマン。現在はLIVゴルフを引っ張っている。ちなみにこのホアキンこそが、LAAC優勝からマスターズ出場をやりのけた選手なのだ。

ラテンアメリカの場合、各国に強いプロツアーがないので、才能ある選手はそれぞれの国のジュニア大会で認められると、アメリカの大学にスカウトされ進学することが一般的だ。ジュニア時代から、アメリカを見据えてプレーをする。また、ゴルフが2016年リオ五輪から正式競技になったことで、ゴルフ連盟、ゴルフ協会が国からの支援を受け、選手の強化に乗り出すようになった。


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