昨年、悲願のグリーンジャケットを手にし、キャリアグランドスラムという呪縛から解き放たれたローリー・マキロイ。マスターズチャンピオンとして迎えた今年は、ジャック・ニクラス、ニック・ファルド、そしてタイガー・ウッズしか成し遂げていない「マスターズ連覇」という偉業に挑んでいる。予選を終え、2位に6打差という圧倒的なリードを築いたマキロイだったが、土曜日の“ムービングデー”にオーガスタの魔物が姿を現した。現地で密着取材を続けるプロコーチ・横田英治が、緊迫の3日目を分析する。

誰もが予期せぬ展開

「正直に言って、誰もこの展開は予想していなかったでしょう」

3日目の競技を終え、横田英治は開口一番にそう語った。予選ラウンド終了時点でのマキロイのゴルフは、まさに無双状態。昨年、長年の悲願を達成したことで精神的に楽になったからだろうか、雰囲気にも余裕すら感じられ、マスターズ史上最多リードとなる6打差をつけ、「もはや何打差をつけて連覇を果たすのか」という声もメディアの間では上がっていた。

画像: 今年「ザ・プレーヤーズ選手権」を制し、覚醒した感のあるキャメロン・ヤング

今年「ザ・プレーヤーズ選手権」を制し、覚醒した感のあるキャメロン・ヤング

「3日目のスタート前、マキロイにとってはスコアを伸ばして15アンダーが一つの目標、追う側の選手としては10アンダーを目指す。それが双方が数字的に目指すラインになると見ていました。それでも追う側の選手たちは、マキロイがスコアを崩すことを前提にしなければ、最終的に優勝には届かないと思っていたのです。しかし、現実はマキロイがスコアを落とし、キャメロン・ヤングが11アンダーまで伸ばして首位に並ぶ。これこそがマスターズの怖さだと改めて感じさせられました」

画像: 3日目のピンプレースメント。「バーディチャンスにつきやすい設定です」(横田)

3日目のピンプレースメント。「バーディチャンスにつきやすい設定です」(横田)

土曜日のオーガスタは、スコアを伸ばせる舞台設定だと横田は言う。ピンの位置は比較的チャンスを作りやすい場所に切られ、アグレッシブなプレーを促すようなセッティングとなっていた。しかし、その「伸ばすべき日」に、独走態勢のマキロイに微細な変化が生じていた。

11番、12番で垣間見えたスウィングの微妙な変化

前半、思うようにスコアを伸ばせず我慢のゴルフを強いられていたマキロイだったが、折り返しの10番でバーディを奪った瞬間、誰もが「ここからギアを上げる」と確信した。ところが、アーメンコーナーの入り口で事態は急変する。

「11番パー4の2打目をグリーン左の池に入れてダブルボギー。続く12番パー3でもティーショットを左に外してボギー。特に12番は、ピンが左に切られている日は比較的やさしい設定なのですが、マキロイの打球は今日通過した選手の中で最も左へ飛んでいました。ここで彼のスウィングに微妙な変化が見て取れたのです」

横田が注目したのは、クラブの「入射角」の変化だ。

「マキロイは間違いなく現代最高のスウィングの持ち主であり、そのポテンシャルを見ればタイガー・ウッズの後継者候補ナンバー1と言えます。しかし、タイガーにあってマキロイにないもの。それは『筋肉と関節のしなやかさ』です。マキロイは、切り返しで力が入った際、クラブが鋭角に入ってくる傾向があります。3日目も力みが生じ、その鋭角さがヘッドの抜けを悪くして、左へのミスを引き起こしていました」

流れを引き戻した「世界一のドライバー」

そのままズルズルと後退してもおかしくない流れだったが、ここで踏みとどまれるのが今のマキロイの強さ。崩れかけた流れをくい止めたのは、やはり彼の代名詞とも言える武器だった。

画像: 同じく飛ばし屋のサム・バーンズを置き去りにするティーショットを放つ

同じく飛ばし屋のサム・バーンズを置き去りにするティーショットを放つ

「13番こそ右にミスしましたが、圧巻だったのは14番のドライバーショットです。左の林ギリギリのラインを突き破るような痛烈な一撃。そして15番でも迷わず振りちぎってバーディにつなげました。アイアンの縦距離や方向に狂いが生じても、ドライバーのアドバンテージで強引に流れを引き戻す。まさに王者のゴルフです」

結果として、11アンダーの首位タイでホールアウト。横田は「このゴルフが最終日ではなく、今日(3日目)だったことはマキロイにとって幸運だった」と付け加える。もしこれが日曜日に起こっていれば、そのまま逆転負けを喫していた可能性が高い。

牙を剥くシェフラーとローズ

マキロイと並んで首位に立ったキャメロン・ヤングはもちろん脅威だが、下から迫る「ビッグネーム」たちの存在が最終日の展開をより複雑にする。

「まず怖いのは、今日ベストスコアタイを叩き出したスコッティ・シェフラー(7アンダー)です。予想外の逆転劇を何度も見せてきた世界ナンバー1はやはり怖い存在。とはいえ、マキロイが対シェフラーに4打のアドバンテージをもっているということは、マキロイが相当有利なことは間違いありません。マキロイが伸ばせないことが条件になりますが要注目です。

画像: 4打差ビハインドは確かに大きいが「シェフラーならもしかして」と思わせる強さは誰もが認めるところ

4打差ビハインドは確かに大きいが「シェフラーならもしかして」と思わせる強さは誰もが認めるところ

そしてもう一人、横田が「最も不気味な存在」として挙げたのが、昨年プレーオフでマキロイに敗れ、目前でグリーンジャケットを逃したジャスティン・ローズ(8アンダー)だ。

画像: 18番ホールでのローズ。非常に満足感に満ちた表情を浮かべていた

18番ホールでのローズ。非常に満足感に満ちた表情を浮かべていた

「ローズのゴルフは非常にクレバーです。3日目も4バーディ・ノーボギーと、淡々と自分のプランを遂行していました。昨年のリベンジ、そしてマキロイの連覇を阻止したいという思いは相当に強いでしょう。自分の描いたプランを忠実に遂行し、チャンスを待つ。ひとたび隙を見せれば足をすくわれる、そんなしたたかさを感じます」

固くて速いグリーンと風を制する者が勝つ

今年のオーガスタは晴天が続き、グリーンの硬さとスピードは例年以上。横田によれば、この「ガラスのグリーン」に気まぐれな風が加われば、さらに過酷なサバイバルレースになるだろうという。

「マキロイが史上4人目となる連覇を達成するのか、それともライバルたちがそれを阻むのか。マスターズに『安全圏』は存在しません。リーダーボードを見ればわかる通り、誰が勝ってもおかしくない状況が整いました。本当の勝負は、最終日のバック9から始まるのです」

近年まれに見るビッグネームの争い。今年、グリーンジャケットに袖を通すのは誰になるのか。

PHOTO/Yoshinori Iwamoto


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