フロリダ大学出身で、現在もフロリダに居を構える39歳のホーシェルは、まさに「ミスター・フロリダ」と呼ぶにふさわしい存在だ。かつての年間王者でもある彼の最大の武器は、その卓越したパッティングにある。
「彼のパッティングスタイルは非常に独特です。練習グリーンでも本番でも、彼は一切の素振りをしません。自分の直感とセットアップを信じ、ターゲットに対して完璧にスクエアに立つ。その精度の高さは世界トップレベルと評されています。余計な雑念を排し、研ぎ澄まされた感覚だけでカップを射抜く姿は、まさに職人芸と言えるでしょう」(以下、杉澤)
彼の強さを支えているのは技術だけではない。彼の右ポケットには、いつも「1936年発行の25セント硬貨」が入っている。
「それは、ジュニア時代にキャディを務めてくれた亡き祖父の誕生年の硬貨です。お守り代わりのこのマーカーは、彼にとって精神的な支柱となっています。プレッシャーがかかる場面でポケットの中の硬貨に触れることで、祖父が見守ってくれているという安心感を得て、冷静さを取り戻すのだといいます。こうした家族への想いや伝統を大切にする姿勢も、彼の魅力の一つですね」
順風満帆に見えた彼のキャリアだが、2023年にはプロとして最大の試練を経験した。
「2023年の『ザ・メモリアル・トーナメント』での出来事です。彼はディフェンディングチャンピオンとして臨みながら初日に『84』を叩き、最下位に沈んだ直後のインタビューは今も語り草になっています。悔しさと情けなさで涙が溢れそうになるのを必死にこらえ、彼は22秒間もの間、沈黙しました。トッププレーヤーとして、そして前年覇者として、あの日彼は言葉にできないほどの絶望と葛藤の中にいたのだと思います」
しかし、そのどん底の瞬間こそが、ホーシェルにとっての転換点となった。
「そこからの彼は、一度プライドをすべて捨てて、今の自分と真っ向から向き合うようになりました。包み隠さず『今は自信がない』『迷っている』と、自身の心の声を正直に発信し始めたんです。トッププロが自らの弱さをさらけ出すのはかなりの勇気が必要だったはずですが、その誠実な姿勢は、ツアー仲間からこれまで以上に深く尊敬されるようになりました。
そして何より、かつて年間王者になった時の相棒キャディ、マイカが彼の元に戻ってきたことが大きかったと思います。自分をさらけ出したホーシェルを見て、マイカは『もう一度彼を支えたい』と思ったのでしょう。この再会こそが、彼の中に確かな復活の兆しを生んだのです」

ビリー・ホーシェル(写真は25年ザ・セントリー、撮影/岩本芳弘)
ホーシェルの誠実さは、コース外での行動にも表れている。
「彼は本当に誠実な人です。2020年にコロナ禍で『ザ・プレーヤーズ』が急遽中止になった際、コースの近くに住んでいた彼は、自分の荷物を取りに来るついでに、子供たちと一緒に運営チームの片付けを手伝っていました。また、2024年2月のWMフェニックスオープンでは、同組のニコロ・ガレッティ選手がショットに入ろうとした際に叫んだ観客に対し、本人以上に怒って猛抗議したこともあります。仲間を想い、運営を敬う。そんな彼の人間性が、多くのファンや選手から愛される理由なのです」
本大会の舞台、TPCルイジアナとホーシェルの相性は極めて高い。2013年にはシングルス戦で優勝し、2018年にはチーム戦で優勝。さらに2022年にも2位に入るなど、まさにこのコースの攻略法を熟知している。
「今年はショットメーカーのトム・ホギーとペアを組みます。コースを知り尽くしたホーシェルと、安定感のあるホギーのコンビは非常に強力です。本来の実力からすれば今シーズンはまだ本調子とは言えませんが、やはりこの地で何度も輝いてきたホーシェルの勝負強さには期待せざるを得ません」
また、チーム戦ならではの戦いを見せてくれる日本勢の活躍からも目が離せない。
「今回は平田憲聖プロと中島啓太プロの若手実力派ペア、そして金谷拓実プロは米国で注目のウィリアム・マウとペアを組み出場します。今年もチーム戦ならではの爆発力で、日本勢が上位争いに食い込んでくる姿を期待したいですね」
仲間を想い、自分に嘘をつかず、常に全力でプレーする。誠実さと情熱を兼ね備えたビリー・ホーシェルが、思い出の地で三度目の栄冠を掴む姿に注目したい。
U-NEXT 木村真希
