「ブルーモンスター」最大の特徴は、多くのホールで絡む池、そしてフラットな地形で遮るもののない強風である。
「舞台となるドラールはグリーンの起伏も激しく、さらに高速な仕上がりが選手たちを待ち受けます。特に最終18番は、ティーショットとセカンドの両方で池を越えなければならない、ツアー屈指の難関ホールとして知られています。風が強くなればなるほどクラブジャッジは難しくなり、高速グリーンと相まって選手たちが悩まされる場面も多いでしょう」(以下、杉澤)
このコースを攻略するには、正確な判断力と、フロリダ特有の強いバミューダ芝に対応する高い技術が不可欠である。
「ヘンリーは過去5勝の多くをバミューダ芝や池絡みのホールが多いコース、風の強いコースで挙げており、まさに今大会の優勝候補筆頭と言えるでしょう。今シーズンはマスターズでの3位タイを含め、すでにトップ10入りが3回。仕上がり具合は完璧に近いですね」
彼の最大の武器は、その圧倒的なトータルバランスの高さにある。

フェアウェイキープ率が70.76%で2位タイ(1位はキム・シウー、2位タイはコーリー・コナーズ)のラッセル・ヘンリー(写真は26年ソニーオープン・イン・ハワイ、撮影/岩本芳弘)
「彼は現在、フェアウェイキープ率が全体2位、そしてスクランブリングは驚異の73%超えで全体1位を記録しています。ショットの精度が高いのはもちろん、グリーン周りの技術も超一流。ボギーを打つ確率が極めて低いため、コースが難しくなればなるほど、彼の強みが際立ってくるんです。ウィークポイントがないことこそが、彼の最大の武器ですね」
かつてはパットの名手として知られ、2013年のデビュー戦でいきなり優勝という鮮烈なデビューを飾ったヘンリー。しかし、2017年の優勝以降、長くタイトルから遠ざかる時期があった。その転機となったのが、2021年の全米オープンだ。
「3日目を終えて首位に立ちながら、最終日に『76』と崩れて13位タイに終わったあの日は、彼にとって残酷な経験でした。しかし彼はそこで立ち止まらず、『自分に何が足りないのか』を徹底的に見つめ直した。その答えが、アイアンショットのさらなる精度向上でした。最終日に崩れたからこそ、自分の弱点に気づき、進化することができたのだと思います。2022年の復活優勝、そして今の強さは、あの日の悔しさから生まれているんです」
また、ヘンリーはゴルフ以外にも多彩な才能を持つことで知られている。
「彼は高校時代、バスケットボールにも情熱を注いでおり、一年の半分はゴルフを休んでバスケに集中していた時期もあったそうです。また、8歳から独学で始めたギターを趣味としており、PGAツアーのイベントで演奏を披露したこともあるんですよ。奥様のテイル・ダンカンさんも世界的に活躍する画家ですし、非常に芸術家肌な一面を持っています」
彼の強さの土台は、名門ジョージア大学時代の過酷な競争環境にある。
「大学時代は、ハリス・イングリッシュ、ブライアン・ハーマン、パトリック・リード、キース・ミッチェルといった、後にPGAツアーで活躍するそうそうたるメンバーがチームメイトでした。こうしたハイレベルな仲間たちと日々切磋琢磨し、競い合ってきた経験が、今の彼の揺るぎない実力に繋がっているのは間違いありません」
そして、今の彼のメンタルを強靭に支えているのは、2024年に他界した父の教えだという。
「どんなに苦しい状況でも、彼は父から教わった『結果ではなくプロセスを意識する』という言葉を大切にしています。一打一打、自分がやるべきことに集中する。その積み重ねが、今の安定感を生んでいるのでしょう。怪物コース・ドラールの高速グリーンと池を前にしても、彼は淡々と自分のプロセスを遂行するはずです。芸術的なアイアンショットでブルーモンスターを攻略し、再び優勝カップを掲げる姿が、今から目に浮かびますね」
緻密な戦略と、不屈の精神。ラッセル・ヘンリーが魅せる「完成されたゴルフ」に、ぜひご注目いただきたい。
U-NEXT 木村真希
