ブルーモンスターを制した「完全優勝」の金字塔

家族と一緒に記念撮影をするキャメロン・ヤング(撮影/岩本芳弘)
「ブルーモンスター」の異名をとるドラルの18ホールは、数々のドラマと悲劇を生み出してきた屈指の難関コースである。この難所で完全優勝を達成したのは、大会の長い歴史においてもヤングが史上3人目という快挙だ。
彼の強さを裏付けるスタッツは圧倒的だった。大会4日間を通じて奪ったバーディ数は、フィールド最多の24個。さらに、パッティングによるスコア貢献度を示す「SG: パッティング」では「+7.062」という驚異的な数値を叩き出し、グリーン上で他を圧倒した。
「コースが難しく、コンディションが厳しい時ほど、メンタル的には楽になる」
ヤング自身がそう語るように、タフな環境になればなるほど研ぎ澄まされる彼の集中力が見事に結実した4日間だった。
2番ホールでの自白――「誰も見ていなくても」貫いた誠実さ
この優勝を単なる「圧勝」以上に価値あるものにしたのは、最終日の2番ホール(パー4)で起きたある出来事だ。アドレスに入ったヤングのボールが、わずかに動いたのである。
【動画・約5分】何度見てもボールが動いていることがわからない……。世界が絶賛したC・ヤングの最終日2番Hの「誠実さ」とナイスパーセーブ【PGAツアー公式YouTube】
Unique ruling as leader Cam Young calls penalty on himself | Cadillac Championship | 2026
www.youtube.comゴルフ規則9.4(プレーヤーが静止している球を動かした)に抵触するこの場面。仮に黙っていれば誰にも気づかれなかったかもしれないわずかな動きに対し、ヤングは迷うことなく自らを申告し、1罰打を受けた。
「ボールが動いたのを見た瞬間、心臓が沈むような思いだった。しかし、それがゴルフというものだ。あそこで私にペナルティを課すことができるのは私自身しかいなかったし、見て見ぬふりをして『動いていない』と言うつもりは全くなかった」
ヤングは直後、13フィート6インチ(約4.1メートル)の痺れるパットをねじ込んでパーセーブを果たした。この高潔な精神と、直後のトラブルを見事にリカバーする精神力こそが、彼が真のチャンピオンたる所以である。
シークレットサービスが囲む「異例の日曜日」と家族の絆
最終日の会場は、普段のツアートーナメントとは全く異なる空気に包まれていた。現職のアメリカ合衆国大統領が観戦に訪れていたからだ。

スタンドでジャケットを着用しているのはドナルド・トランプ米大統領(撮影/岩本芳弘)
「至る所にシークレットサービスや警察がいて、明らかに普段とは違う雰囲気だった。クラブハウスのいつものドアから入ろうとしたら『今はここを通れない』と止められたりもした」とヤングは振り返る。そんな異例の厳戒態勢の中でも、彼は自らのゴルフを見失うことはなかった。
ラウンド後、大統領から直接称賛の言葉と握手を受けたヤングは、「非常にユニークな経験だ。彼はとても影響力のある人物であり、彼らの前でプレーできたことは本当に光栄なことだった」と敬意を表した。
実はこの厳戒態勢の裏側で、心温まるもう一つのドラマがあった。ヤングは会見で、「大統領の来場で警備が厳しかったため、最初は妻に『子供たちを車に乗せて往復4時間もかけて来ないほうがいいかもしれない』と伝えていた」と明かしている。 しかし、家族はそれらを乗り越えて18番グリーンに駆けつけた。初優勝(2025年ウィンダム選手権)の際には立ち会えなかった家族が、異例の緊張感に包まれたマイアミの地で彼の勇姿を見届けたのだ。戦いを終えた彼にとって、家族の姿はどんなトロフィーよりも嬉しかったに違いない。
2025年の「ウィンダム選手権」、そして3月の「ザ・プレーヤーズ選手権」に続く3勝目。次週のシグネチャーイベント「トゥルーイスト選手権(シャーロット)」、そしてその先のメジャー「全米プロゴルフ選手権」へ向けて、不屈の誠実さと家族の絆を胸に抱くチャンピオンの視界は、どこまでも澄み切っている。

