カントレーを語る上で欠かせないのが、ファンから付けられた「パティー・アイス」という愛称だ。
「『アイス=冷静沈着』。どんなプレッシャーがかかる場面でも表情一つ変えず、淡々とパットを沈め続ける彼のクールな姿から名付けられました。昨年のこの大会(※当時は別コース開催)では4位に入り、この時期のタフなトーナメントへの勝負強さは証明済みです。一方で、今年の舞台であるクエイルホローは、昨年の『全米プロ』で彼がまさかの予選落ちを喫した因縁のコースでもあります。だからこそ、今年は期するものが大きいはず。あの悪夢を払拭するには、ショットの精度が極限まで求められるこのコースで、彼の揺るぎない精神力が大きな武器になります」(以下、杉澤)
クエイルホローは、ローリー・マキロイが4勝を挙げ、ウィンダム・クラークやジェイソン・デイといったメジャー覇者たちが歴代優勝者に名を連ねる、まさに「実力者しか勝てない」コースである。
「ここはショットやショートゲーム、戦略のすべてが揃った『トータルバランスが良い選手』でなければ攻略できません。カントレーは現在、パッティングが思うように決まらず優勝から3年半ほど遠ざかっていますが、それ以外のスタッツは今なおツアー屈指の『超S級』。この高いトータルバランスこそが、彼が常に上位に顔を出し、19試合中12試合でトップ25に入るという安定感を支えているのです」
史上最強のアマチュアとして54週連続で世界ランク1位に君臨し、アマチュア時代にツアーで「60」をマークするなど、カントレーのキャリアは華々しく幕を開けた。しかしその直後、順風満帆な歩みを止める大きな試練が訪れる。
「彼は背骨の疲労骨折が発覚し、二度とゴルフができないかもしれないと医師から告げられたこともあったそうです。そこから約3年近く戦線を離脱するという、プロとしてあまりに苦しい時期を過ごすことになりました」
身体的な苦難に加え、さらに追い打ちをかけるようなショッキングな悲劇が彼を襲う。当時キャディを務めていた高校時代からの親友、クリス・ロス氏を目の前での事故で亡くしたのである。
「こうした想像を絶する経験を経て、彼は『ゴルフは自分の人生の一部であって、すべてではない』という境地に達したのです。だからこそ、今の無冠の状況にも過度に神経質にならず、泰然自若としていられるのでしょう。若い頃に経験したあまりに深い苦しみが、いまの彼の揺るぎない精神性を形作っているのだと思います」

パトリック・カントレー。2020-2021年シーズンのフェデックスカップチャンピオンに輝いた実力者。25年「ツアー選手権」では最終日最終組でラウンドし、同組のトミー・フリートウッドに惜敗(2位タイ)した(写真は25年ツアー選手権、撮影/岩本芳弘)
カントレーはツアー屈指の読書家としても知られ、古代ローマの皇帝であり「ストア派」の哲学者でもあるマルクス・アウレリウスの教えを愛読している。
「ストア派とは、人間としてどう正しく生きるかを問い続け、どんな逆境でも感情を乱さないことを良しとする哲学です。彼がピンチの場面で見せるあの無表情な冷静さは、まさにアウレリウスの哲学をコース上で実証しているかのようです。そんな内面的な深さも、彼が『パティー・アイス』と呼ばれる理由の根底にあるのだと思います」
そんな彼を、2023年に結婚した妻のニッキさんが、エリート薬剤師として献身的に支えている。
「結婚して以来、まだ彼女に優勝カップを掲げる姿を見せられていません。誰よりもその姿を彼女に見せてあげたいという想いは、彼の静かなモチベーションになっているはずです。かつて松山英樹選手が全米プロで涙を呑んだこの難コースで、カントレーが哲学者のような冷静さで『グリーンマイル』を攻略し、待望の勝利を掴む瞬間を期待したいですね」
知性と不屈の精神。パトリック・カントレーがクエイルホローで見せる「静かなる強さ」に、ぜひご注目いただきたい。
U-NEXT 木村真希

