
全米プロ2日目、ひとり5アンダーを出し、ジャンプアップしたクリス・ゴッタラップ(写真は26年WMフェニックスオープン、撮影/岩本芳弘)
「自分でも信じられない」規格外のラウンド
この日、アロニミンクGCを覆っていたのは、選手からバーディを奪う意欲を削ぐような過酷な空気だった。そんな中でマークされた「65」というスコアは、まさに規格外である。
その凄まじさは、誰よりもプレーした当人が一番理解していた。ゴッタラップ自身も「もし自分が家のソファで見ていたら、『どうやってあんなショットを打ったんだ?』と思うだろうし、実際にコースにいると不可能に思える」と語るほど、今回の「65」が特別なスコアであることを認めている。
テレビ中継で他の選手たちが次々と罠にハマっていく姿を見ていれば、アンダーパーで回ることすら奇跡に思えるだろう。それを現場の極限のプレッシャーの中でやってのけた事実は、彼のゴルフ人生において最も輝かしいラウンドの一つと言っても過言ではない。
攻略の鍵は「創造性」と「忍耐力」
彼がこの神がかり的なスコアを叩き出せた最大の理由は、教科書通りのゴルフを捨てたことにあった。強風と厳しいピン位置を攻略するためには、通常では試みないようなショット、例えば「190ヤードから4番アイアンで20ヤードのカットを打って風にぶつける」といった「創造性(クリエイティビティ)」が必要だったと明かしている。
190ヤードという距離であれば、通常プロはミドルアイアンで直接ピンを狙う。しかし、強風とマイクの先端のようなピン位置を前にして、彼はあえて長い4番アイアンを持ち、意図的に20ヤードも曲がるスライス回転(カット)をかけて風と喧嘩させるという、極めて高度でリスクの高い変則ショットを選択したのだ。常識にとらわれないこの「創造性」こそが、アロニミンクの理不尽な罠をすり抜ける唯一の鍵だった。
事実、この神がかり的なラウンドで彼が叩いたボギーは2番ホールのたった1つだった。しかも本人はそれを「15フィート(約4.5メートル)からの3パットという、ただの変なボギーだった」と振り返っている。唯一のボギーがグリーン上での不運な3パットであったことを考えれば、彼のショットがいかに完璧に風とコースを切り裂いていたかが分かるだろう。
そして、その大胆なショットを支えていたのは冷静な思考だ。彼は同時に、「30フィートに乗せれば良いショットだと思えるようになった」という「忍耐力」が好スコアの裏側にあったと語る。ピンをデッドに狙う欲望を抑え込み、約9メートルの距離に乗せれば上出来だと割り切る。その精神的コントロールが、致命的なミスを防いだのである。
世界1位シェフラーからの賛辞
この日のゴッタラップのプレーには、世界ランキング1位の絶対王者も惜しみない称賛を送っている。首位のスコッティ・シェフラーは彼のプレーについて、「彼の最大の強みはその『態度(アティテュード)』だ」と称賛した。
シェフラーは、「彼は過剰にフラストレーションを溜め込まず、次のショットに影響させない」という精神面の強さを評価している。難コースであればあるほど、ミスに対する苛立ちは蓄積し、次のショットの判断を狂わせる。しかしゴッタラップは、どんな状況でも飄々とした態度を貫き、ゴルフを楽しんでいた。
さらにシェフラーはこうも付け加えている。
「彼はただ楽しむのが好きなんだ。たまたまゴルフが上手いだけで、『ゴルフをしてて、たまには上手くいくし、ダメな時もあるさ』って感じで、僕らみんなが感じているようなことをそのまま体現している」
「たまたまゴルフが上手いだけで、ただ楽しんでいるだけ」とシェフラーが笑うように、悲壮感とは無縁のその明るさこそが、メジャーの重圧を跳ね返す最大の武器なのだ。
圧倒的な創造性と、ミスを引きずらない健全なアティテュード。今季好調のクリス・ゴッタラップがこのコンディションのなか叩き出した「65」は、ゴルフというスポーツにおいてメンタルと想像力がいかにスコアを凌駕するかを、世界中のファンに見せつけたラウンドだった。
ゴッタラップがPGAツアーで「その日の単独ベストスコア(outright lowest round of the day)」を記録したのは過去に3回あるが、直近の2回(2025年ジェネシススコティッシュ、2026年WMフェニックス)では、いずれもそのまま優勝を果たしている。過去のデータを見れば、彼が単独ベストスコアを叩き出した大会での勝率は異常に高い。彼がこのままワナメーカー・トロフィーをさらう可能性は十分にある。
