2026年の「全米女子オープン」の舞台となるロサンゼルスの名門・リビエラCC。世界ランク10位のリディア・コーにとって、このコースでのプレーは2024年の男子ツアー「ジェネシス招待」のプロアマ戦に出場して以来のことだ。当時はアダム・スコットらのプレーを邪魔しないよう気を遣って歩いていたというが、今回は自身の「コンフォートゾーン」である女子メジャーの最高峰として、堂々とこの地に戻ってきた。コーはリビエラのコースセッティングについて、「風の向きが最大の鍵となる非常に公平(fair)なコース。特定のプレースタイルに有利に働くことがなく、キャラクターに満ちている」と高く評価している。

「アリと巨獣」——記録更新を前に見せる謙虚さと後輩への願い

この歴史ある名門コースで、彼女はふたつの歴史的偉業へ王手をかけている。一つは、今大会で優勝すれば達成となる「キャリアグランドスラム(米女子ツアーでは5大メジャーのうち4試合で勝利することを指す)」だ。これは、ヤニ・ツェンやアンナ・ノルドクビストといったライバルたちも同じく狙っている大記録である。そしてもう一つが、女子ゴルフ界のレジェンド、アニカ・ソレンスタムが保持する生涯獲得賞金歴代1位の記録更新だ。コーは現在、アニカの記録まであと76万7007ドル差に迫っており、今大会で上位に進出すれば、その巨大な記録を塗り替える歴史的チャンスを迎えている。

画像: 2024年セントアンドリュースオールドコースで開催されたAIG女子オープンでメジャー3勝目(15年アムンディ・エビアン選手権、16年ANAインスピレーション)を挙げたリディア・コー(撮影/姉崎正)

2024年セントアンドリュースオールドコースで開催されたAIG女子オープンでメジャー3勝目(15年アムンディ・エビアン選手権、16年ANAインスピレーション)を挙げたリディア・コー(撮影/姉崎正)

記録更新が目前に迫る中、本人のマインドは驚くほど冷静であり、謙虚である。メディアから記録の意義について問われたコーは、こう答えている。

「アニカは通算70勝以上、世界で90勝以上を挙げている。私が23勝を挙げているからといって、彼女が達成したこととは完全にレベルが違う」

そして、現代の賞金高騰という単一の指標だけでレジェンドと比較されることに対し、彼女独自の非常にユニークな比喩表現を使って最大限の敬意を表した。

「アニカの偉大さに比べれば、自分はまるでアリ(ant)のような存在。彼女は地球上で最大の生物(生き物)のようなものだ」

この「アリと巨獣」の比喩こそ、巨額のマネーが動く現代においても決して数字だけに踊らされることのない、彼女の成熟した内面を端的に表す言葉である。さらに彼女はこれに続けて、「数年後には、未来の選手たちが私よりもさらに豊かな環境と、大きな賞金規模の中でプレーできるようになってほしいと願っています」とも語った。

単に自身の価値観を語るだけでなく、女子ゴルフ界のさらなる発展を願い、後輩たちがより正当に報われる世界を望むその姿勢に、レジェンドとしての器の大きさが光る。

勝利への尽きせぬ情熱と、ゴルフの「クレイジーな魅力」

コーは、現代の女子ゴルフ界における市場拡大について、具体的な実例を挙げながら論理的に現状を分析している。

「今の時代は、最終戦のCME(グループ・ツアー選手権)で勝てばそれだけで300万ドルが手に入る。ジーノ(・ティティクル)にいたっては、わずか2試合(とAonのボーナス)で600万ドル以上を稼ぎ出している。私たちはかつてのレジェンドたちとは比べ物にならないほど、恵まれた賞金規模の中でプレーしている」(※ちなみに、今年の同大会の優勝賞金はさらに高騰し、女子ゴルフ史上最高の400万ドルにまで跳ね上がっている)

もちろん、プロである以上「お金が重要ではないというわけではない」と、彼女は等身大のホンネも隠さない。女子ゴルフの価値が上がり、大きな賞金のためにプレーできる現状には心から感謝している。

しかし、だからこそ時代背景に大きく左右される「獲得賞金額」の記録よりも、純粋に積み上げてきた「通算勝利数(win count)」のほうが、自身のキャリアにおいて遥かに意味があると考えているのだ。

天才少女と呼ばれた彼女でさえも、予選落ちなどの浮き沈みを経験し、それでもゴルフというスポーツが持つ泥臭い魅力に突き動かされている。コーは「不調のときでも諦めずにいられる理由」について、こう本音を明かしている。

「ゴルフは、5〜6回連続で予選落ちした選手が、翌週にはいきなり優勝したりするクレイジーなゲーム。だからこそ私はモチベーションを保ち、決して諦めずに努力し続けられる」

「ゴルフはグローブを外して最後のパットが落ちるまで何が起こるか分からない」という競技そのものへの尽きせぬ情熱こそが、彼女を前へ突き動かしている。

次世代へ繋ぐ温かい絆と、等身大のリスペクト

そんな生ける伝説としてツアーを牽引するコーだが、コース外では若い世代への温かい眼差しを持つメンターとしての顔も持っている。現在、スタンフォード大学を拠点に練習を行っている彼女は、今週プロデビューを果たす同大のメーガ・ガネら現役の学生選手たちにとって、最高の相談相手(リソース)であり友人となっている。

コーが学生たちをリスペクトしているのは、単にゴルフの腕前だけでなく、一人の人間としての姿勢にある。

「ゴルフだけでも非常に難しいのに、ゴルフと学業という2つのハードな課題を、どちらも高いレベルで両立させて素晴らしい成功を収めている。その労働倫理には深く感銘を受けている」と語るように、単なるゴルフ界の先輩としてではなく、対等な友人として彼女たちを尊敬しているのだ。

そんな関係性の中で、プロとして長いキャリアを築くために「自分の体に耳を傾け、スケジュールをコントロールすること」の重要性を説き、次世代へバトンを渡している。

そんな彼女たちの微笑ましい関係性を象徴するエピソードがある。ガネが大学のロッカー室で、得意とする「眉毛の糸脱毛(スレッディング)」をチームメイトに施していた際、それを見ていたコーが「私のもやって」と頼み込んだのだ。しかし、ガネからは「リディア、あなたの眉毛は(失敗したら)恐ろしすぎるから絶対に触れない」と健康的な冗談を交えて頑なに断られてしまったという。

世代を超えてツアー仲間と結ばれた温かい絆と、飾らない素顔。リビエラの地で歴史的偉業に挑む「アリ」は、確かな実力と愛される人間性を武器に、初日に笑顔でティーイングエリアへと向かう。

リディア・コーのヘアクリップにも注目!


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