「今日は90を叩くかと思ったよ」
ラウンド後のインタビューで、シェフラーは自嘲気味にそう吐露した。普段、精密機械のように正確なボールストライキングで世界を席巻している無敵の王者の姿は、この日の前半には微塵(みじん)もなかった。吹き荒れる強風に翻弄され、ショットは次々とフェアウェイを外れていった。
「13番ホールまで、基本的にすべてのホールで深いラフかグリーンの外にいた。今日パーオンしたのは、たった6〜7回だけだと思う」
彼が明かしたスタッツは、トッププロらしからぬ悲惨なものだった。深いラフに沈むボールを探し当て、なんとか脱出を図る泥臭い作業の連続。シェフラーは当時の心境を「私の組を見に来た観客は、私がどこにいるか見つけるのすら難しかったはずだ。ずっとラフに隠れていたからね」とジョークを交えて振り返ったが、その内面では、這い上がれない不調と忍び寄る予選落ちの影に対する恐怖と闘っていた。
しかし、多くのメディアは13番からの猛反撃に注目するが、シェフラー自身が勝因に挙げたのは、前半の「泥臭いパーセーブの連続」だった。 記者に「90を叩きそうな日に、3番や5番でのパーセーブは大きかったか?」と問われた王者は、深くうなずいた。
「もちろんだ。3番のセカンドも酷かったし、4番、5番、7番でもアップ&ダウン(寄せワン)でなんとか凌いだ。今日はずっとそうやって、必死に食らいついていたんだ」
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x.com後半の爆発を呼び込んだのは、前半に致命傷を防ぎ続けた、この血の滲むような執念だったのだ。
絶望からの生還、そして牙を剥く王者のプライド

ホールアウト後に練習場で「なぜ後半良くなったのかを探しにいく」と話したスコッティ・シェフラー(写真は26年キャデラック選手権、撮影/岩本芳弘)
カットラインの重圧がのしかかる中、彼は決して試合を投げ出さなかった。13番ホールを契機に驚異的な巻き返しを見せると、上がり6ホールを3アンダーという異次元のゴルフでまとめ上げる。16番では長いパットを執念でねじ込み、終わってみれば、大崩れしたはずのラウンドを「イーブンパー(72)」で生還。通算1オーバーの19位タイという堂々たる位置で、見事に予選通過を果たしたのである。
「ここ数年で最悪のボールストライキングだったかもしれない。それでも、極めて高いショット精度が要求されるこの難コースで、なんとかイーブンパーでまとめることができた。こういう粘りこそ、自分でも非常に誇りに思うよ」
安堵とともにそう語ったシェフラーだが、最悪の1日を耐え抜いたことで、絶対王者の心には再び青い炎が灯っていた。歴史的な大会3連覇への挑戦を、彼は1ミリも諦めていない。
「この大会は完全に自分から逃げていく(終わってしまう)可能性もあった。でも、今は首位とたった9打差で、週末に向けてまだチャンスがある。このコースコンディションなら何が起こるか分からない。予選さえ通過できれば、まだチャンスはあるんだ」
最悪の日にスコアを崩さず耐え抜くのが超一流。絶望的な状況を自らの精神力でねじ伏せた直後に、「まだ9打差、逆転できる」と本気で牙を剥く底知れぬメンタリティこそ、彼が絶対王者たる所以だろう。
ただ、そんな恐るべき王者は、会見の最後に極上のウィットで記者たちを包み込んだ。
ある記者が「なぜ終盤になって急に良いショットが打てるようになったか、理由は分かりますか?」と質問すると、シェフラーは少年のような笑顔を浮かべてこう返したのだ。
「今からそれを見つけに、練習場へ行くところさ(I'm about to go find out.)」
ゴルフというスポーツの残酷さと、それを乗り越える人間の逞しさ、そして王者の人間的な魅力が詰まった、熱い2日目が終わった。
