カナダの英雄たちが抱く「オープン競技」消滅への強い危機感
もしこの新制度が導入された場合、最も影響を受けるとされるのが各国の「ナショナルオープン」である。仮にトラック1(エリート大会)に分類されれば、出場枠が少数のトップ選手に限定され、予選会を通じて誰もが実力で出場権を勝ち取れるという「オープン競技」本来の意義が失われてしまうからだ。
そもそも「RBCカナディアンオープン」は1904年に第1回大会が開催されており、「全英オープン」「全米オープン」に次いで世界で3番目に古い歴史を持つ権威あるナショナルオープン競技である。

23年大会の覇者であるニック・テーラー(左)とコーリー・コナーズ(右)
この歴史的価値が失われることに対し、2023年大会の覇者であり地元カナダの英雄であるニック・テーラーは、会見で率直な思いを吐露した。
「(予選会からの道が絶たれれば)本質的に『オープン』という名前を失うことになる。誰も自力で出場枠を勝ち取れなくなるなら、それは本当に大きなショックだ」
彼はツアー側が最高のプロダクトを作ろうとしていることに理解を示しつつも、長年愛されてきた伝統が失われることへの強い懸念を隠さなかった。
同じくカナダ出身の実力者、コーリー・コナーズも切実な思いを抱いている。
「私はこの大会をとても大切に思っている。今年は21人ものカナダ人が出場し、若手に最高峰の舞台を経験させる機会を与えられている。だからこそ、この大会が今後も繁栄し、『トラック1』のイベントとして選ばれることを切に願っている」
事実、今年のカナディアンオープンでは、ツアー・ルーキーのスダルシャン・イェラマラジュやA・J・エワートといった若手カナダ人がこの「オープン」の恩恵を受けて出場することになっている。
コナーズは会見でイェラマラジュについて、「本当に印象的で、彼のゲームには穴がない。週末のリーダーボードを駆け上がる姿をとても誇りに思う」と絶賛した。こうした「次代のスターが生まれる道」が絶たれてしまうことへの危機感は強い。
トラック1に選ばれなければトップ選手が来なくなり大会の価値が下がり、選ばれればオープン競技としての門戸が閉ざされる。地元選手たちは、受け入れがたいジレンマに直面しているのだ。
モリカワが語る「オープンの進化」とツアーの未来
一方で、常にツアーの最前線で戦うトッププレーヤーのコリン・モリカワは、この問題に対して極めて冷静な分析を行っている。現在あるシグネチャーイベントを念頭に置き、少人数フィールドの弊害とオープン競技の魅力についてこう言及している。

「オープン」競技の概念そのものを進化させる時期に来ているのでは? と話すコリン・モリカワ
「70人のフィールドは、出場している側からすれば素晴らしいものだが、出場できない71番目の選手にとっては最悪だ。誰も注目していなかった無名の選手が突如としてリーダーボードに現れるようなストーリーを、我々も愛している」
こうした伝統の良さに深く理解を示しつつも、モリカワはツアーの生き残りのためには変革が不可避であると語る。
「『オープン』の概念そのものを、進化させる時期に来ているのかもしれない。120人の世界最高峰の選手たちだけが集まり、カナディアンオープンで勝とうとするなら、それはそれで非常に意義のあることだ」
さらに彼は続ける。
「もし数枠の(ローカル選手やアマチュアの)出場枠が奪われることになったとしても、結果として数年後にはこの大会が『史上最強のフィールド』になる可能性だってある。得るものもあれば、失うものもあるんだ」と、メリットとデメリットの両面からツアーの未来を俯瞰している。
しかし、モリカワは単に「効率とレベルの高さ」だけを追求しているわけではない。
変革の必要性を語った直後、彼は「それと同時に、カナディアンオープンがこれまで築き上げてきた歴史もリスペクトしなければならない」と深く締めくくった。別の質問でも「ナショナルオープンで勝つことは歴史に名を刻むことであり、その歴史は誰にも奪えないものだからこそ、ぜひとも勝ちたい」と語気を強めている。彼にとっても、ナショナルオープンは単なる「ポイントや賞金の問題」で片付けられない特別な存在なのだ。

左からコーリー・コナーズ、コリン・モリカワ、ニック・テーラー
LIVゴルフの台頭に対抗すべく、米国の投資家グループ(SSG)から最大30億ドル(約4380億円)もの巨大資本を受け入れ、急激な変革期を迎えているPGAツアー。ナショナルオープンの誇りと伝統を守り、次世代に夢を繋ぎたい地元選手たちの切実な願い。そして、最高のエンターテインメントを提供するために競争レベルを極限まで高めようとするトップ選手の冷静な視点。
カナダの熱狂の裏側で交錯する選手たちのリアルな本音は、プロゴルフの未来がどこへ向かうべきかを我々に強く問いかけている。この深い議論の行方にも、引き続き注目していきたい。
写真/岩本芳弘
