いよいよ開幕する第126回「全米オープン」。この過酷な大舞台に、ゴルフファンが熱い視線を注ぐひとりのアマチュアがいる。現在、世界アマチュアランキング1位に君臨するジャクソン・コイブンだ。彼は今大会の2週間後に開催される「ジョンディアクラシック」でのプロデビューをすでに表明している。つまり、今週のシネコックヒルズGCでの戦いが、彼にとって「アマチュアとして挑む最後のメジャー大会」となる。

怪物アマを支える「抜群のアイアン精度」

彼に冠される「怪物」という異名は、決して大げさなものではない。その実績は、すでにアマチュアの枠を完全に超越している。今季、所属するオーバーン大学を全米制覇に導いたコイブンは、カレッジゴルフ界史上初めて「3大最優秀選手賞(ハスキンス賞、ホーガン賞、ニクラス賞)」を2度独占するという歴史的快挙を成し遂げた。

さらに「PGA TOUR University Accelerated(特別制度)」を利用し、ゴードン・サージェント、ルーク・クラントンに次ぐ史上3人目として、すでにPGAツアーのシード権までも獲得している。

何より凄まじいのは、プロのトーナメントでの実績だ。アマチュアとして出場した直近のPGAツアー4試合で、彼は「11位タイ、6位タイ、5位タイ、4位タイ」という、トッププロすら顔負けの驚異的な成績を叩き出しているのである。

その原動力について、本人は「(優勝争いをしている時は)メンタルゲームとコースの見え方が非常に良くなる。特にアイアンの調子が抜群に良く、パターで多くのバーディチャンスを作れている」と自己分析している。プロのトーナメントでも通用する「精度の高いアイアンプレー」こそが、彼を怪物たらしめている圧倒的な強みなのだ。

劇的な進化の裏にあった「プロ転向見送り」という決断

昨年の全米オープン(オークモント開催)では、高い壁に跳ね返されて予選落ちを喫した。実はコイブンは、大学2年を終えた時点でプロ転向することも可能だった。しかし、「まだ大学を離れる準備ができておらず、プロとしての苦難や移動に対する心の準備ができていなかった」として、プロ入りを見送った経緯がある。

この1年間、カレッジゴルフに残ったことについて、彼は公式会見でこう語っている。

「一人の人間として、精神的にも肉体的にも成長するための1年を与えてくれた。ただ『成熟』したんです」

昨年の悔しい予選落ちから1年という月日を経て、コイブンは心技体すべてにおいて劇的な進化を遂げたのである。

弱冠21歳とは思えない「シネコック攻略のクレバーな視点」

画像: 全米オープン後にプロ転向を予定しているジェイソン・コイブン

全米オープン後にプロ転向を予定しているジェイソン・コイブン

圧倒的な技術以上に末恐ろしいのは、その成熟した精神力と知的なコースマネジメント能力だ。

日曜日と月曜日に練習ラウンドを行ったコイブンは、今年の舞台であるシネコックヒルズについて、昨年の過酷なオークモントと比較しながら冷静に分析している。

「オークモントはティーショットのペナルティが厳しいが、シネコックはフェアウェイが少し寛容な分、グリーンの傾斜が激しい。これから水撒きが止められ、硬く焼けたグリーンになるはずだから、アプローチとパットの練習をたくさんします」

さらに、今後のプロ生活で待ち受けるであろう苦難について問われると、涼しい顔でこう言い切った。

「困難だとは思いません。それは単なる『適応』です。毎週違うタイムゾーン、違うコース、違う芝に適応するだけ。僕はそれをただ楽しみにしています」

シネコックヒルズのような難関コースの戦い方についても、「良いショットを打っても報われないことがあると受け入れ、パーを獲ることが良いスコアだと考えるマインドセットが必要」と語るコイブン。思い通りにいかないことが多いゴルフというスポーツに対し、弱冠21歳とは思えないほど達観した答えを持っている。

「アンダーパーで回った選手が過去にひと握りしかいない」と本人も警戒する超難関コース、シネコックヒルズ。アマチュアとしての集大成となるこの残酷で美しい舞台で、怪物ジャクソン・コイブンがメジャーの歴史にどのような爪痕を残すのか。プロの頂点すら脅かしかねない若き才能の躍動に、期待感は高まるばかりだ。

ジャクソン・コイブンの経歴

(1)カレッジゴルフ史に残る「史上初」の快挙
3大最優秀選手賞の「2度」の独占:カレッジゴルフにおける3つのナショナル・プレーヤー・オブ・ザ・イヤー賞(ハスキンス賞、ホーガン賞、ニクラス賞)を、史上初めて2度(2024年、2026年)独占
新人時代の「4冠」達成:大学1年次の2024年に、上記の3大最優秀選手賞に加え、「フィル・ミケルソン優秀新人賞」も含めた4つの全国賞を同一シーズンにすべて制覇。ゴルフ史上初の選手
SEC(サウスイースタン・カンファレンス)最優秀選手の3年連続受賞:所属するSECで、2024年から2026年まで3年連続で「SECプレーヤー・オブ・ザ・イヤー」に輝き、これも史上初の快挙

(2) 主なナショナル・アワード(全国表彰)
ジャック・ニクラス賞(2024年、2026年)
フレッド・ハスキンス賞(2024年、2026年)
ベン・ホーガン賞(2024年、2026年)
フィル・ミケルソン優秀新人賞(2024年)
マーク・H・マコーマック・メダル(2025年)

ジャック・ニクラス賞:大学ゴルフ界の「年間最優秀選手賞(MVP)」。全米大学体育協会(NCAA)のディビジョンI、II、III、およびNAIA、NJCAAの各全米カテゴリーから、年間で最も優れたプレーヤーがそれぞれ1名ずつ選出。近年ではジャクソン・コイヴン(オーバール大)が2024年(1年生時)と2026年に受賞。ブライス・モルダー、フィル・ミケルソンに次ぐ、歴史上3人目となる2度目の戴冠。

フレッド・ハスキンス賞:NCAAディビジョンIの年間最優秀選手賞。NCAAディビジョンIの年間最優秀選手賞。ニクラス賞と並ぶ大学ゴルフ界の最高栄誉で、投票(大学の監督や選手、ゴルフ記者など)によって選出。近年ではジャクソン・コイヴン(オーバール大)が2024年(1年生時)と2026年に受賞。なお、2度の受賞はベン・クレンショー、ボビー・クランペット、フィル・ミケルソンと並び、史上4人目。

ベン・ホーガン賞:大学・アマチュア・プロ戦のすべてを含めた「世界最優秀アマチュア(学生)賞」。NCAA(ディビジョンI〜III)やNAIAなどに所属する学生ゴルファーが対象だが、ニクラス賞と違うのは「直近12カ月の大学の試合だけでなく、出場した一般のアマチュア大会、さらにはPGAツアーなどのプロの試合」の成績もすべて合算して評価される点。ジョン・ラームやラドビッグ・アバーグ、そしてジャクソン・コイヴンのみが2度受賞。

フィル・ミケルソン優秀新人賞:全米の大学ゴルフ界における「年間最優秀ルーキー(1年生)賞」。大学ゴルフの最高峰であるNCAAの舞台で、そのシーズンに最もセンセーショナルな活躍を見せた新入生(フレッシュマン)に贈られる新人賞。

マーク・H・マコーマック・メダル:「世界アマチュアゴルフランキング(WAGR)年間1位」に贈られるメダル。毎年、全米アマや全英アマなどの主要アマチュア大会がすべて終了した時点(通常8月下旬)で、世界アマチュアランキングの頂点に立っていた選手へ贈呈。

写真/Getty Images


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