世界で唯一の冠を持つ「第26回片マヒ障害オープンゴルフ」と「第3回中部障害者オープン」が、山梨の小淵沢CCで開催された。競技志向からエンジョイ派まで、幅広い層が参加するインクルーシブな今大会。パラメダリストや女子高生など、障害の壁を越え、己の限界という“勝負”に挑むゴルファーたちの熱き2日間を追った。

6月15~16日に、山梨の小淵沢CCにて、「第26回片マヒ障害オープンゴルフ選手権」「第3回中部障害者オープンゴルフ選手権」(日本障害者ゴルフ協会主催)が開催された。

画像: 今年は山梨県の小淵沢CCで開催。八ヶ岳、南アルプス、富士山が見える気持ちのいいフラットなコースで、選手たちはそれぞれの“勝負”に挑んだ

今年は山梨県の小淵沢CCで開催。八ヶ岳、南アルプス、富士山が見える気持ちのいいフラットなコースで、選手たちはそれぞれの“勝負”に挑んだ

本大会は、世界で唯一の「片マヒ」ゴルファーの冠が付いた大会と、日本の各地方で開催される障害者オープン競技大会(各地域3年ごとの持ち回り。23年間で九州・沖縄、中国、四国、北海道、東北、北陸、中部と巡ってきた)がそれぞれ開催され、合わせて世界障害者ゴルフランキング(WR4GD)の対象試合ともなる、“インクルーシブ”な大会。今年は、ティーを前方に特設した「重度障害の部」も設定。

協会代表理事の松田治子氏は、「最近、競技志向の障害者ゴルファーが増え、本当に素晴らしいことです。しかし、誰もが楽しめるゴルフという側面も大切。ですから、この部門を作りました。プレーした方からは『ゴルフを諦めていたけれど、またできて嬉しい』という声も聞かれ、こちらも嬉しく感じました」。

競技志向者とエンジョイゴルファーが“ともに試合に出る”ということは、難しい課題ではあるが、やり方によっては、意義深いものになるのだとわかる。勝負の世界はそれぞれの心のなかにある。

画像: 始球式の1人を務める村田氏。「緊張して引っかけました(笑)」。「片マヒオープン」の2位は初出場、鹿児島から来た小濱氏文氏(左)3位は親父ギャグもミートもヒット率が高い櫻田信児氏

始球式の1人を務める村田氏。「緊張して引っかけました(笑)」。「片マヒオープン」の2位は初出場、鹿児島から来た小濱氏文氏(左)3位は親父ギャグもミートもヒット率が高い櫻田信児氏

今回、参戦した片麻痺ゴルファーはいつもより多い19名(一部重度障害部門で参加)。片麻痺の主な原因となる脳卒中。日本の脳血管疾患の患者数は約189万人、傷病別統計での片麻痺の患者数(外来・入院患者)は約20万規模、病状が安定した後の方も含めると約140万規模とも言われる(厚生労働省資料より)。想像を絶する長きに渡る心身のリハビリテーションにゴルフが役立つとしたら、それはゴルファーとしてもインスパイアされることではないか。

片マヒ障害者オープンで連覇を達成したのは村田信廣氏。

「僕を応援して待ってくれる宮崎のゴルフ仲間にいいお土産話ができました。仕事も1週間休ませてもらって来ているので……」

働くコースの名前と懇意にしているコンペの名前が付いたウェアで2日間プレーする律儀な男だが、目標は高く、本大会も80台でのラウンドを目指していた。1日目の「91」は不満げに「もっと頑張らんと!」と臨んだ2日目は「85」。表彰式では嬉しそうに、「また成長して皆さんと出会えることを楽しみにしています」と語った。

画像: 自称“宮崎のジャンボ”村田氏のコブラポーズと200Yショット。尾崎将司は「子どもの頃土日にテレビで見ていたスター」。亡くなった後、追悼で髪の裾を伸ばしていた「その髪でハーフ38が出たけど、すっきり切って来ました」。今好きなプロは小祝さくらと菅楓華。「どちらも何が起きても動揺しないからいいですね」

自称“宮崎のジャンボ”村田氏のコブラポーズと200Yショット。尾崎将司は「子どもの頃土日にテレビで見ていたスター」。亡くなった後、追悼で髪の裾を伸ばしていた「その髪でハーフ38が出たけど、すっきり切って来ました」。今好きなプロは小祝さくらと菅楓華。「どちらも何が起きても動揺しないからいいですね」

「練習ラウンドを入れて3日間連続のラウンドは体力の限界でした。でも、連覇が目標の1つだったのを決められて安心できました。目標は健常者の皆さんと回って70台を出すこと。実は、この前、月例でハーフ38が出たんですよ。ハーフ40の壁は越えられたけど80の壁はなかなか高い。練習には励んでいるけど、体のトレーニングも必要ですね。ショットのときに、風や痛みなどで麻痺している左側が邪魔するんです。でも、片麻痺になって17年。年数をかけると“慣れて”もくるし、もっと体を磨いていきます。頑張りますよ!」とさらなる“勝負”に闘志を燃やしていた。

画像: 中島早千香さんの全身を使った豪快スウィング。ゴルフ好きの祖父母とよくラウンドするそう。「おばあちゃんが一番上手いです」

中島早千香さんの全身を使った豪快スウィング。ゴルフ好きの祖父母とよくラウンドするそう。「おばあちゃんが一番上手いです」

女子の部で優勝したのは、今年高校生になったばかりの中島早千香さん(上肢障害)。1日目は「91」で少し残念そうに、「お昼が苦手なマヨネーズのサンドイッチだったので、お腹が空いていたからかな」と自己分析。しかし、2日目は「83」のベストタイでのラウンド。「昨日より8打も縮まった。今日は、14番でおにぎりを食べたらいいショットが出てバーディを取れた。2日間、バーディを1つずつ取れたし、試合で80台を出すことが目標だったので、試合で出せたのが嬉しいです。今日はミスが少なかった。じつは、最後の短いパットが決まっていたらベストスコアだったんですけど……」とこちらも次の“勝負”に向かう。高校に入り授業も増え、練習時間が減ったが、まだまだ伸びしろは大きい。「昨日、有迫さんに教わってパットもよくなったかもしれません」と、“年上の”ライバルたちの中で、皆のアイドルとしてだけでなくゴルフ仲間として認知されているのだ。

画像: 山本篤氏(左)と有迫隆志氏の考え抜かれたスウィング。選手たちは、皆で常に教え合い高め合っている。2人の次の勝負は韓国での試合だ

山本篤氏(左)と有迫隆志氏の考え抜かれたスウィング。選手たちは、皆で常に教え合い高め合っている。2人の次の勝負は韓国での試合だ

そのパットの“先生”有迫隆志氏(左上肢機能全廃)は、2日間「82」「75」のラウンドにニコニコ。「練ラン、初日で感じた“ややこしいグリーン”を自分の感覚で打ったらパターが入りました。実は悩みがピークだったんですけど、吉田隼人にワンポイントアドバイスをしてもらった。僕は球が低い。だから右の腰をタテに使えるようにすると球が高く上がるようになった。すごく体が自由に、動きたいように動けました。今月末に韓国での試合があるので、頑張りたいです」と、このよい流れのまま、初開催の韓国での試合で“勝負”する。

本大会、初日に「78」を叩きだした陸上のパラアスリートでパラリンピックメダリストでもある山本篤氏(左大腿切断)は、2日目が「85」で、「ドライバーが曲がりました」とラウンド後すぐに練習場に向かった。

実力アップの理由を聞くと「練習量が増えました。仕事の関係で鹿児島に移住して、上手な人たちと回っているから」と語る。山本の場合、「上手くなりたい!」という強い意志と“勝負”への挑戦意欲こそが日々実力を上げているのだと感じさせられる。この日の練習場では有迫のレッスンを受けていた。

「ボールの位置、足の位置、ハンドファーストの位置、アドレス全般を教えてもらいました。継続できるかが問題ですけど」(山本)

「すごくよくなりましたよ。僕は皆がプロと同じスウィングはできると思っています。教えるのは好きなだけです。でも教えすぎるとライバルが増えて自分の首を締めるかな(笑)」(有迫)

山本も、月末韓国の試合に挑む。

画像: 「中部オープン」の2位は小林和春氏(右下肢欠損・左)、3位は伊藤寿氏(右下腿切断)。「いつか、隼人に勝って優勝したい」

「中部オープン」の2位は小林和春氏(右下肢欠損・左)、3位は伊藤寿氏(右下腿切断)。「いつか、隼人に勝って優勝したい」

さて、「中部障害者オープン」で優勝したのはこちらも連覇となる吉田隼人(右大腿切断)。「73」「73」と2日間さすがの安定したラウンドだった。

「(5月の)イギリスの試合で辛かった、手首を痛めたなかで硬いグリーンやフェアウェイでプレーするという状況でつかんだ技術が生きた感じです。コントロールしたショットでマネジメントできたのもよかった。でも、プロとしてはここからもう1歩、アンダーパーで回らないといけないと思っています。また、この経験を明日からの試合に生かしたいです」

画像: 貫禄のプレーで優勝した吉田隼人

貫禄のプレーで優勝した吉田隼人

17日には「山梨県オープン」にも出場した吉田。プロゴルファーとして負けられない“勝負”の舞台に立つ。

写真/増田保雄

 


This article is a sponsored article by
''.