2026年KPMG全米女子プロゴルフ選手権。舞台となるヘーゼルティンナショナルゴルフクラブで、世界ランキング1位のネリー・コルダが途方もない歴史的快挙に挑もうとしている。

彼女は今季すでに「出場9試合で4勝(勝率約44%)」という驚異的なペースで勝ち星を量産している。フィールド全体に対する1ラウンドあたりの貢献度(ストローク・ゲインド・トータル)は「+3.69」と、過去10年間で自身のキャリア最高の数値を叩き出しており、データ分析モデルによる今大会の優勝確率は「19%(断トツの1番手)」、トップ5に入る確率は「50%」と予測されるなど、まさに手が付けられない状態だ。

すでに「シェブロン選手権」と「全米女子オープン」のメジャー2勝を挙げている彼女が今大会で優勝すれば、1950年のベーブ・ザハリアス、2013年のパク・インビに続く史上3人目の「シーズン最初のメジャー3大会制覇」という大記録を打ち立てることになる。さらに、現在LPGA殿堂入りポイントを25ポイント獲得している彼女にとって、メジャー優勝で得られる2ポイントを加算すれば、栄華を極める「殿堂入り」までもが確定する。絶対女王は今、ゴルフ史の極めて重要な転換点に立っているのだ。

重圧をかわす「無頓着(Oblivious)」という防具

これほどの大記録を前にすれば、いかに強靭なアスリートであっても周囲の期待やプレッシャーに押し潰されそうになるのが普通だろう。しかし、世界中のメディアが「殿堂入り」を煽るなか、当の本人の態度は驚くほど自然体だ。

公式会見で殿堂入りについて問われたコルダは、なんと「殿堂入りに必要なポイント数(27ポイント)すら知らない」とあっけらかんと明かした。彼女は意図的に周囲の雑音をシャットアウトしているのだ。

「自分に余計なプレッシャーをかけたくないため、あえてそのことについては無頓着(oblivious)でいたいのです。ゴルフというゲームはただでさえ難しいのに、これ以上自分にプレッシャーをかけたらもっと難しくなってしまうから」

殿堂入りは素晴らしい成果だと認めつつも、それが毎日の練習や試合に臨むモチベーションの源ではないと語る。

「ただ良いゴルフをして、トーナメントで競い合うことを楽しみたいだけ」

この「無頓着」という精神的な防具を支えているのが、彼女の圧倒的なリカバリー能力だ。今季の彼女はグリーンを外した際のアプローチリカバリー率(スクランブリング)においてフィールド1位(75%)を誇っており、メジャー大会での連続予選通過記録もトップの「9試合連続」である。ミスをしても動じないメンタルと、ミスをカバーする技術が強力な両輪となっているのだ。

また、今年自身も殿堂入りを果たしたリディア・コーは、コルダの強さの秘訣についてこう証言している。

画像: 練習ラウンドでのネリー・コルダ。やるべきときはしっかりやり、オフは「良き叔母モード」で休む。このメリハリとバランス感覚が彼女の強さの秘密だとリディア・コーはいう

練習ラウンドでのネリー・コルダ。やるべきときはしっかりやり、オフは「良き叔母モード」で休む。このメリハリとバランス感覚が彼女の強さの秘密だとリディア・コーはいう

「彼女は午前や午後にやるべき仕事(練習)を終えると、すぐにそこから離れて休んだり、甥っ子の『良き叔母モード(aunt mode)』になったりします。そのバランス感覚こそが重要であり、長く持続可能なキャリアを築く秘訣だと思います」

意図的にゴルフから離れ、計り知れない重圧をフワリとかわす「無頓着さ」と「オンオフの切り替え」こそが、彼女の無類の強さを支えている。

「少しオタクっぽい(dorky)」絶対女王の素顔

完璧に見える世界No.1だが、彼女もまた重圧に苦しむ生身の人間である。過酷だった前戦の全米女子オープン直後、彼女は「眠りについた後、毎朝目を覚ましたくないほど疲弊していた」と会見で正直に明かしている。

心身をすり減らすほどの重圧を経験しているからこそ、意図的に無頓着でいることや、ユーモアを忘れないことが、彼女なりの自己防衛術として深く機能している。

その証拠に、彼女はコースの外で愛すべき素顔を見せている。前回ヘーゼルティンに出場した2019年の記憶を辿るため、彼女はスマートフォンで当時の写真を見返していたという。そこで見つけたのが、当時の自分が左打ちをしている動画だった。

「それを見つけて、今回再現しなきゃと思ったの。とても楽しかったわ」と彼女は笑う。自身の性格を「少しオタクっぽい(dorky)」と表現するコルダ。

「コース上では当然とても真剣だけれど、私が持っているプラットフォームを通じて、自分の本当の性格やユーモアをファンにもっと見せたいの」

【動画】「少しオタクっぽい」と語るネリー・コルダの左打ち再現動画【ネリー・コルダ公式インスタグラム】

張り詰めたメジャー大会の舞台裏で、昔の左打ちの動画をわざわざ再現してふざけてみせる。この「オタクっぽさ」と圧倒的な実力とのギャップ、そして強烈な重圧との向き合い方こそが、ネリー・コルダという選手の最大の魅力なのだ。

「いま、この瞬間」に集中する王者の哲学

どれほどの偉業達成のプレッシャーについて問われても、彼女の哲学は決してブレることがない。

「私は今年、『今この瞬間』に集中するマインドセットを持っています。最終的にトロフィーを掲げることが目標ですが、私はただ自分の準備にフォーカスし、それに100%の自信を持って頼るだけです」

周囲の喧騒をよそに、ただ「いま」と向き合い、ゴルフを心から楽しむ。無頓着さを武器にプレッシャーを跳ね除ける絶対女王が、厳しいヘーゼルティンのセッティングをどのように攻略するのか。歴史が動く瞬間は、すぐそこまで迫っている。

写真/PGAオブ・アメリカ


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