天候とルール変更がもたらした「確信」
2日目の朝、コースは大雨に見舞われ、スタート時間が約30分遅延した。そして、ぬかるんだフェアウェイでの救済措置として、ボールを拾い上げて泥を拭き、置き直すことができる「プリファードライ(ボール・イン・ハンド)」のルールが適用されることが決定した。
この決定が下された瞬間、選手たちは今日のラウンドがどうなるかを悟っていた。ベン・ジェームスは当時の心境をこう証言する。
「ボール・イン・ハンドのルールになった時点で、今日はロースコアの日になると分かっていました。このレベルの選手たちにボールを置き直させてあげれば、当然ビッグスコアになりますから」
ホブランも「風がなく、グリーンも間違いなく昨日より軟らかかったため、はるかにスコアを伸ばせる状態だった」とコース状況を冷静に分析している。悪天候が皮肉にも、選手たちにビッグスコアの「確信」を与えたのである。
トッププロを襲う「伸ばさなければならない」重圧
しかし、コースが易しくなることは、トッププロたちにとって手放しで喜べる事態ではない。むしろ、「自分も伸ばし続けなければ置いていかれる」という特有の焦りや強烈なプレッシャーを生み出すのだ。
「60」を叩き出し首位に立ったシェフラーでさえ、スタート前からその重圧を感じていた。
「コースはとても柔らかく、風もそれほどない。今日はコンディションが易しくなると分かっていたからこそ、コースに出てそのアドバンテージを取らなければならないと感じていました」
トッププロにとって、バーディ合戦はミスが一切許されない我慢比べだ。
ホブランは会見で「61と65の差は何か?」と問われ、「ミスの許容範囲(マージン)が極めて小さいことだ。全く同じスウィングをしても、結果は大きく変わり得る」と語っている。事実、「13番ではイーグルを獲ったが、実はショットが少し左にブレていた。あと3フィート(約1メートル)傾斜を下っていれば池に落ちてボギーになっていたかもしれない」と明かし、そのスコアが紙一重の綱渡りであったことを告白した。
【動画】笑顔が素敵なビクトール・ホブランのイーグルパット【PGAツアー公式X】
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x.comまた、これほどのロースコアを生み出すためにはグリーン上での異次元の集中力も不可欠だ。バティアは2日間で合計250フィート(約76メートル)以上のパットを沈めている。厳しいピン位置に対して安全なエリアに乗せ、そこからロングパットを次々とねじ込む、あるいはバーディパットを絶対に外さないという極限のパッティング勝負となっているのだ。
誰もがスコアを伸ばす状況下では、たった一度のミスや停滞が命取りになる。コンディションが良いからこそ、常にアクセルを踏み続けなければならないという見えないプレッシャーが彼らを襲っていた。
限界なき伸ばし合い、異次元の週末へ
少しでも立ち止まれば、一気に順位が入れ替わる。PGAツアーの最高峰が集うシグネチャーイベントにおいて、限界なき伸ばし合いは極限の精神戦でもある。それを象徴するのが、首位シェフラーの冷徹なメンタルだ。
13番から16番まで連続バーディを奪い、夢の「59(50台)」が見えた場面でも、彼はスコアを数えることなく「目の前のショットの実行だけに集中していた」と語った。会見で「歴史的な59を出すことと、週末に向けて3打差のリードを持つこと、どちらが重要か?」と聞かれた際、彼は表情を変えずにこう答えている。
「当然、3打差のリードだ。2打差より3打差のほうがいいに決まっている」
記録の誘惑よりも、目の前の「サバイバル」と「勝利」だけを冷徹に見据える世界No.1の凄み。

2日目に「60」を出し、トータル16アンダーでトップに立ったスコッティ・シェフラー。30歳になったばかりだが、彼の時代はまだまだ続きそうだ(写真は26年キャデラック選手権)
2日目を終えて、トップのシェフラーは通算16アンダーまでスコアを伸ばし、ホブラン、バティアら後続も猛烈な勢いで追いかけている。自然の気まぐれとルール変更が生み出した「バーディ狂騒曲」の中で、誰が最後までプレッシャーに耐え、スコアを伸ばし続けるのか。異次元のサバイバルは、いよいよ過酷でスリリングな週末へと突入する。
写真/岩本芳弘
