華やかなPGAツアーの舞台裏には、リーダーボードからは見えない人間ドラマが隠されている。極限のプレッシャーの中で戦うトッププロたちも、私たちと同じように悩み、もがき、時にクスッと笑えるような奇策にすがることもあるのだ。今週開催されている「ISCO選手権」の会場から、選手たちの人間味あふれるリアルな素顔を覗いてみよう。

ウィリアム・マウの「熱湯パター」

パットが決まらずスコアメイクに苦しむのは、プロもアマチュアも同じだ。前年覇者のウィリアム・マウは、パターの調子が「冷え切っていた」ため、気分を変えるための奇策に出た。なんと、冗談半分で自分のパターを沸騰した極めて熱いお湯に浸したのだ。

「翌朝目覚めた時もまだお湯は熱くて、その日、パターは1日中『熱い(hot)』状態が続いたよ」と本人は笑う。

冗談のように聞こえるが、効果は絶大だった。この日はロングパットが次々と決まり、ボギーなしの「63」という驚異的なラウンドを記録したのだ。

この日、マウと同組でプレーして首位(通算13アンダー)に立った大ベテランのルーカス・グローバーは、会見でこの「熱湯パター」について聞かれると、「今までパターを投げたり、蹴ったり、壊したりしたことはあるけど、茹でたことはないね(笑)」と返答。さらに「彼が全部のパットを入れていたから、モジョ(魔法の力)を台無しにしたくなくて、そのことについてはあえて聞かなかったんだ」と語っている。

大ベテランすらも驚き、あやかった奇策。「もちろん、今夜もまたお湯に入れるつもりさ」と笑うマウ。魔法の儀式を手に入れた彼に、もはや迷いはない。

【英語動画】ウィリアム・マウの復活はパターを煮たおかげ!?【PGAツアー公式X】

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スティーブン・フィスクの「データ遮断」

現代ゴルフにおいて緻密なデータ分析は不可欠だが、通算11アンダーの2位タイにつけるスティーブン・フィスクは、あえて「データ遮断」を実践している。スポーツ心理学者との話し合いの末、自分のスタッツを見ないように決めたのだ。「本当に重要なスタッツはただ一つ、『今日どんなスコアを出したか』だけだからね」と彼は言い切る。

画像: データを排除していると話すスティーブン・フィスク

データを排除していると話すスティーブン・フィスク

しかし、思わぬところから伏兵が現れた。母親から送られてきた初日のハイライト動画の冒頭に、「パッティングのストローク・ゲインドが3ポイント超え」というデータが堂々と表示されていたのだ。

「見ないようにブロックして、気にしないように努めたよ」と苦笑いするフィスク。会見で記者から「お母さんには(データを見ないようにしているというルールを)伝えたの?」と聞かれると、「いやいや、何も言ってないよ。大したことじゃないからね」と笑って答えている。徹底したメンタルコントロールを実践しながらも、悪気なく動画を送ってきた母親を責めない、彼の優しい素顔が垣間見えるエピソードだ。情報社会において、ノイズを「見ない」努力もまた、プロの重要なメンタルコントロールなのだ。

アーロン・ワイズの「どん底からの復活」

2日連続で「65」をマークし、通算10アンダーの好位置につけているアーロン・ワイズ。しかし、彼がここに至るまでの道のりは決して平坦ではなかった。

精神的なダメージで休養をとる前の彼は、ゴルフの練習どころかコース外の生活においても喜びを完全に失っていた。

「友人と夕食に行く気すら起きなかった。本当に、どん底の精神状態だったんだ」

そこから彼は、まずコース外の日常生活を立て直すことから始めた。本来の自分自身を取り戻し、ゆっくりとゴルフを生活の中に再導入していったのだ。そして、このどん底からの復活を支えたのは、彼自身の努力だけではない。

「ファンが違う態度(批判的)を取ることも簡単にできたはずなのに、僕が経験していることを理解し、すごくサポートしてくれた。ファンには感謝してもしきれない」

周囲の温かい支えがあったことを強調している。

「今は、昨日みたいに調子が良い日も、今日みたいに悪い日も、日々の異なるコンディションや挑戦を心から楽しめるようになった」

ゴルフの調子だけでなく、ファンの優しさに触れ、人生の喜びを取り戻した彼のプレーには、力強い輝きが宿っている。

【英語動画】アーロン・ワイズ自身の言葉で語る【PGAツアー公式X】

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【プレッシャーの正体】スーパーマンではない、等身大の戦い

完璧なショットを放つスーパーマンのように見えるトッププロたちも、実は様々な精神的プレッシャーと戦い、独自の工夫でもがきながらコースに立っている。泥臭くも愛おしい彼らのヒューマンドラマを知れば、ゴルフ観戦はもっと深く、もっと面白くなるはずだ。

写真/Getty Images


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