敗者に寄り添う品格
「あなたのプレーを誇りに思うし、素晴らしかった。今回を残念に思うのではなく、このメジャーの舞台で良いプレーができたと受け止めるべきよ。次戦以降も頑張ってね」
「アムンディ・エビアン選手権」の最終日、1打届かずにプレーオフ進出を逃して肩を落としながら国際映像のインタビューを終えた岩井明愛にそう言って歩み寄ったリディア・コー。激闘を終えたばかりのライバルにそっと寄り添うその姿は、長年世界のトップで戦い続けてきた彼女の深い人間性を物語っていた。
そんな心優しき元世界女王自身も、この日の主役の一人だった。最終日、自身が目標としていた6アンダーを上回る「64(7アンダー)」の猛チャージを見せ、通算13アンダーの7位タイへと一気にリーダーボードを駆け上がったのだ。
リディアはこの大会の元女王(2015年優勝)でもあるが、彼女自身「私が優勝したのは9月開催の時で、コースは今よりもずっと柔らかかった」と当時を振り返っている。開催時期や気候が変わり、猛暑によってグリーンが硬くなった現在のセッティングにあっても、見事なビッグスコアを叩き出してみせるあたりに彼女の凄みが光る。そして、この爽快なラウンドを最も近い場所で支えていたのは、今大会で急遽キャディを務めた彼女の夫だった。
評価は「A+」! スコアを支えた夫のグリーン読み
試合後の会見で、夫のキャディぶりについて「総合評価は?」と問われたリディアは、笑顔でこう答えた。
「私個人的には『A+(最高評価)』ね。他の選手にとってA+かどうかは分からないけれど(笑)。でも明らかに、普段のキャディであるポールには言えないような、夫だからこそ言える言葉があったわ」
この最高評価は、単なる精神的な支えだけを意味しているわけではない。実際にスコアに直結する大きな技術的貢献があった。リディアは「実はこの数年、ここのグリーンに苦戦していたのだけれど、今週は彼の『グリーン読み』を頼りにしたの。おかげで、過去数回出場した大会よりもずっと多くのバーディが獲れたわ」と明かしており、夫の的確なライン読みが、最終日の「64」という猛チャージを生み出す直接的な原動力となっていたのだ。
もちろん、夫婦ならではの遠慮のないアドバイスも彼女を奮い立たせた。
「アドバイスというより、最後通牒のようなものね。彼に『弱虫のキャディはしないぞ』って言われたの。その言葉のおかげで、私はもっと攻撃的なプレーができたと思うわ」
ちなみに、大会の初めに妻から夫へ送ったアドバイスは「遅れずについてきて、黙っていて」だったというから、夫婦ならではのユーモアと信頼関係がうかがえる。初日の1番ホールでボギーを叩いた際も、夫の「大丈夫、君ならできる」という励ましに救われたという。
キャディ業の過酷さ
「彼が私のクラブを担いで、まるで普通の週末のラウンドを一緒に回っているみたいだった。本当に楽しかったわ」と、夫婦でのトーナメントを満喫したリディアだったが、同時にこの経験は、ある大切な気づきを彼女に与えることになった。
「彼にバッグを担いでもらったことで、キャディという仕事がいかに過酷かということを実感したの。肉体的にも精神的にも、毎週あんなハードな状況を彼らがどうやって乗り越えているのか不思議なくらいよ」
身内をキャディに起用して好成績を収めたからといって、手放しで喜ぶだけで終わらないのがリディア・コーの素晴らしさだ。
「この経験のおかげで、いつも一緒に仕事をしているポールや、他のすべてのキャディたちの仕事に対して、より深く感謝するようになったわ」
苦悩の予選落ちを乗り越え、いざ今季最後のメジャー大会へ

トータル13アンダーの7位タイで「アムンディ・エビアン選手権」を終えたリディア・コー。調子は上向きだ
今年のメジャー第1戦、第2戦で連続して予選落ちを喫していたリディア。しかし、前戦の「KPMG全米女子プロゴルフ選手権」でトップ15に入って復調の兆しを掴むと、今回の「アムンディ・エビアン選手権」で見事にトップ10入りを達成。
苦悩のメジャー序盤から見事な復活劇を果たし、次戦への意気込みを問われると、彼女はこう答えた。
「ヨーロッパはここ数週間熱波が続いているから、それがコースにどう影響するかは分からないわね。でも、AIG女子オープンはいつも風が強いから、それ以外のコンディションは想定していないわ(笑)」
どんな過酷なコンディションであっても、自然体で受け入れるベテランの余裕。敗れたライバルに寄り添う優しさと、ユーモアたっぷりに夫との絆を深めた1週間。そして、陰で支えてくれるプロキャディたちへの深い敬意と感謝。リディア・コーが世界中のファンや選手から愛され続ける理由が、このエビアンで見せた爽やかな笑顔にすべて詰まっていた。
写真/大会提供
