約700kmを超えた出会い。2人をつないだ「純粋な思い」

【左】三浦技研 代表取締役・三浦信栄氏【右】ササキ 代表取締役・佐々木政浩氏(写真/三木崇徳)
兵庫県と栃木県、距離にして約700km。両社の出会いは2021年、ゴルフ好きのための祭典「ジャパンゴルフフェア」の開催直後だった。当時、三浦技研は深刻な人手不足に直面しており、「国内生産」への強いこだわりを貫くための新たな鍛造パートナーを渇望していた。そこで、ゴルフクラブに特化したCNC加工とマシニング体制を有するササキに解決策を求めて、本社がある鹿沼へと向かった。
同業者ゆえに断られる可能性を危惧していたミウラ(三浦技研 代表取締役・三浦信栄氏)に対し、ササキ(ササキ 代表取締役・佐々木政浩氏)は「何をさせてもらいましょう?」と即答。その場に企業の壁はなく、「良いものを作りたい」という真摯な思いが2人を繋ぎ、今回のパートナーシップ契約に至った。
しかし、両社は出会ってすぐにこの「900シリーズ」の開発に踏み切ったわけではない。「本当に互いの高次元な技術が融合できるのか」を確かめるため、まずはアイアンやウェッジをテストケースとして実際に製品まで作り上げ、互いの技術力と可能性を確かめ合った。この妥協なきプロセスを経て生まれた絶対的な信頼こそが、今回のレフティモデルへと繋がっているのだ。
互いを補完し合う、最高点への「製造リレー」
週末には共にゴルフを楽しみながらも、日々経営者として働く者が羨むほどの迅速な共鳴だった。両社がこの協業によって目指すのは、互いの技術を駆使した「最高のものづくり」。その答えは、弱点を補完し合う緻密な製造リレーにあった。
【前半】株式会社ササキが「鍛造・CNC加工」を担当

ササキが最も大事にしているのは「いかに作業しやすい状態で三浦技研に手渡すか」
【製造工程を紹介】
①国内製軟鉄「S20C」の丸棒材をレフティモデル専用寸法に合わせて切断。
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②約1050℃まで加熱。1600トンプレスで鍛造し、ヘッドの基本形状を成形する。
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③フェース加工・ネック内径加工・基準面加工を5軸マシニングセンタを用いて同時に実施。
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④バック側(キャビティ形状)を切削加工。
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⑤キャビティロゴ、スコアライン、番手刻印を精密に施す。このスコアラインの彫刻においては、約200種類もの工具を駆使。すべてに精度計を配置し、0.01mm単位で深さを徹底管理する「狂いなき精密さ」を貫いている。
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⑥ビーズブラスト(微粒子を空気と混合させて吹きつける加工)で表面を均一に整え、品質検査を実施。
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高精度なヘッドを株式会社三浦技研へ託す。
【後半】株式会社三浦技研が「研磨」を担当
ササキによって0.01mm単位で精密に彫刻されたスコアラインやキャビティ形状を活かすため、三浦技研は従来使用していた「振動バレル」という機械研磨をあえて封印。ササキが作り上げた完璧な形をわずかでも崩さないよう、ペーパー目や角を取る繊細な作業をすべて熟練の「手作業」で行うという、執念の工程へと変更した。

協業によって、従来の「削りながら形を整えていく」工程が、「ササキが整えた形を崩さずに研磨していく」工程へと進化した
①ヘッドを調角し、全体を研磨。加工目を取り除いて重量を管理する。
*7番の場合の重量変化:275g→270.5g
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②手作業でエッジに丸みを持たせる。
*270.5g→269.5g
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③さらに全体を均一化し、丸みを持った滑らかな表面へと仕上げる。
*269.5g→268.5g
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④キャビティ内をブラスト処理後、綿や羊毛を使った道具を高速回転させ表面を磨く。
*268.5g→268g
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⑤メッキ後、外観検査・色入れ・仕上げを一本ずつ行い、完成!
*268g→271g
ササキの「精密さ」と三浦技研の「感性」の融合。機械では到達できない手作業の荒研磨やバフ研磨で、ミウラらしい形状と質感が命を吹き込まれる。
日本の技術を未来へ。なぜ「レフティモデル」だったのか

「LC-900」モデル
両社が自負する日本のものづくりの根底には、常に「人」がいる。人が技術を受け継ぎ、魂を吹き込むからこそ歴史に残る名品となる。新作発表会でプレゼンターを務めた三浦皓佑氏(三浦技研 取締役・28歳)と佐々木恭太郎氏(ササキ 専務取締役・32歳)という次代を担う若き経営陣にも、その価値観は色濃く反映されていた。

【左端】三浦皓佑氏、【右端】佐々木恭太郎氏(写真/三木崇徳)
これまで自社製作にこだわり続けてきた両社は、この協業の決意をどう伝えるべきか。その答えが「レフティモデル」だった。
三浦技研には幾度となくレフティモデルの要望が寄せられていたが、「右用の2〜3倍の研磨時間を要する」「母数が少ない」などの理由から、20年以上も応えられずにいた。この長年の分厚い壁を、ササキとの協業によって打ち破る。
日本のものづくりを、一人でも多くの人に届けたい。あえて困難に真正面から挑んだ彼らの決意の結晶。それが23年ぶりのレフティモデル「900シリーズ」である。

