史上初「英国外」開催へ。ポートマーノック招致のリアル
全英オープンの歴史において最も劇的な転換点となり得るのが、アイルランド共和国に位置する名門、ポートマーノックゴルフクラブでの開催構想だ。実現すれば、160年を超える歴史の中で初となる「英国(UK)外」での全英オープン開催となる。
ダーボンCEOはこの歴史的プロジェクトについて、「ゴルフクラブや地元当局、政府との大規模な実現可能性調査(フィージビリティ・スタディ)はほぼ完了しており、我々はあそこで全英オープンを開催できると確信している」と、極めて前向きな現状を明言した。
現在はアイルランド政府と詰めの協議を行っており、「年末までにはかなり明確な見通しを立てたい」と語る。全英オープンとAIG女子オープン(全英女子)が、ポートマーノックで開催される未来の青写真(青図)は、すでに手の届くところまで来ている。
「巨大化」への反論と、ロイヤル・リザムへの回帰
チケット需要が高まり、会場の熱狂がかつてない規模に膨れ上がる中、記者から「R&Aは大会の巨大化を目指しているのか」という鋭い質問が飛んだ。しかし、ダーボンCEOはこの言葉を明確に否定した。
確かにダーボンCEOは「全英オープンは我々の最大の商業的推進力(コマーシャル・ドライバー)である」と認めている。しかしそれは、単なる金儲けを目的としたイベントの肥大化を意味しない。「ここで生み出した利益は、すべて世界のゴルフ界の発展のために再投資している」という崇高な理念があるからこそ、彼らは収益性を追求しつつも、大会の魂を売り渡すことはないのだ。
その揺るぎない証拠が、2028年の開催地に決定しているロイヤルリザム&セントアンズの存在だ。リザムでの開催は、アーニー・エルスが優勝した2012年以来、実に16年ぶり(通算12回目)の帰還となる。
「リザムは敷地面積がはるかに小さく、今週のバークデールのような観客動員数に近づくことは絶対に不可能だ」とCEOは語る。それでもなお、彼らがリザムに帰還する理由は一つしかない。
「我々の根底にある原則は、『真のリンクスゴルフのテスト』を提供する会場に全英オープンを持っていくことだ。会場が小さいという理由だけで、ロータ(開催地ローテーション)から外すことはない」
収益や観客動員数よりも、リンクスの真髄を何よりも最優先する。これがゴルフ界の総本山たるR&Aの矜持である。
名門コース改造の真相と、ミュアフィールドの現在地
また、今大会の舞台であるロイヤルバークデールの大規模改修について、「R&Aが改修しなければ開催させないと脅したのではないか」という見方に対し、CEOは「そのような脅しは一切ない」と強調した。

開幕に先立って公式会見に登場したR&Aのマーク・ダーボンCEO
「あくまでクラブのメンバー(会員)がコースの変更を検討し、そのプロセスに我々を招き入れてくれた。我々はメンバー主導のコースの進化と、素晴らしいバランスを取ることができた」
全英ロータの会場はすべてプライベートなメンバーシップクラブであり、R&Aが権力でコースを変えさせることはないということを明言した。
一方、過去に女性会員問題などで揺れ、ロータから外れた時期もあったミュアフィールドでの全英再開催についても言及。「クラブとは良好な対話が続いている」としつつも、「再開催にはゴルフコースと敷地全体にいくつかの微調整が必要である」と明かし、まだクリアすべきハードルが存在する現状を率直に伝えた。
革新の地平と、2050年まで交わされた「聖地の約束」
現在、アメリカ・カナダ・メキシコで開催中のサッカーワールドカップがいい例だが、メガイベント化の波は、あらゆるスポーツの形を変えていく危険性をはらんでいる。しかしR&Aは、どれだけチケットの応募が殺到しようとも、「真のリンクスでのテスト」という全英オープンの魂だけは決して手放さない。
そのブレない姿勢を証明する決定的な事実が、今大会の開幕に際して発表された。R&Aは、地元リバプール都市圏やセフトン、ウィラルといった自治体との間で、「2050年までにこの地域(イングランド北西部)で少なくとも3回の全英オープンを開催する」というMOU(基本合意書)を締結したのだ。
アイルランド共和国への進出という未知なる「革新」を恐れず突き進む一方で、歴史を支えてきたイングランド北西部という「伝統の聖地」を、2050年という遥か未来まで見捨てずに守り抜くことを約束する。この温故知新のバランス感覚こそが、全英オープンという大会が愛され続ける理由なのかもしれない。
写真/R&A提供
