本人の驚きと「無欲の境地」、そしてコーチ陣との対話
グリーン上で次々とカップに吸い込まれるボールに、ギャラリーのボルテージは最高潮に達していった。しかし、完全に“ゾーン”に入っていたスミス本人の心境は、驚くほど静かでフラットなものだった。
「15番で長いパットを沈めるまで、連続バーディのことなんて本当に意識していなかったんだ」
周囲の熱狂とは裏腹に、当のスミスは無欲の境地でひたすら目の前の1打と向き合っていたのだ。とはいえ、全英オープン覇者であり数々の修羅場をくぐり抜けてきた彼にとっても、8ホール連続でスコアを伸ばし続けるというのは未知の領域だったようだ。
「これまでに8連続なんてやったことがないと思う。間違いなく、僕自身の連続バーディのリストのトップに入る、最高にクールな出来事だね」
実はこの日の序盤、スミスは決してショットの調子が良くなかったと明かしている。そんな不調の中で彼を支え、大爆発へと導いたのは、コーチ陣との対話と極めてシンプルな思考だった。
「上手くいっていない時に、トニーやクロード(コーチや関係者)と『信頼すること(trust stuff)』について良い話し合いができたんだ。何か違う感覚を探すのではなく、今やっていることをただ信じた結果、バックナインで全てが噛み合った」
さらにこう続ける。
「すべてが上手くいっている時は簡単に信じられるけど、そうじゃない時こそ信じることが難しい。今日はとにかく、結果を恐れずに自分のプロセスを信じてショットを打つことだけを心がけた。それが最高の結果に繋がってくれたんだ」
そんな神がかったプレーを見せたスミスだが、新記録となる「9連続」がかかった最終18番ホールではパーに終わっている。その理由についての彼の本音は、非常にコミカルだ。
「18番のティーショットにやられたよ。あのティーショットは本当に大嫌いなんだ」と苦笑いしながら振り返る。また、最後にパーパットを沈めた際、同伴競技者のセバスチャン・ムニョスと思わず顔を見合わせて笑い合ったという。「無欲の境地」で完璧なゴルフをしていた王者が、苦手なホールで急に見せた人間らしさ。そんなギャップもまた、彼の大きな魅力である。
好調を支えるチームのリラックスした空気

フロントナインのときには8連続バーディがあるとは思わないゴルフだったキャメロン・スミス
圧倒的な集中力と技術で歴史的記録に並んだスミス。だが、一歩コースを離れれば、彼は「Ripper GC」の気さくなキャプテンとして、チームのムードメイクに一役買っている。
前夜、首位を走るチームメイトのハーバートが会見で明かして話題となった謎の「ニンジン切り大会」(ニンジンを包丁で2つに切り、重さの均等さを競うゲーム)。このシュールな遊びの発案者は、他でもないスミス本人だった。
「Instagramの動画で似たようなのを見てね。みんな同じ家で合宿みたいに過ごしているし、僕らはみんな負けず嫌いで競争心が強いから、やってみたら絶対に楽しいだろうなと思って提案したんだ。結果的に思った以上に盛り上がって、チームに最高の笑いを提供してくれたよ」
過酷な優勝争いと莫大な賞金がかかる大会の真っ只中にありながら、彼らの宿舎にピリピリとした緊張感は微塵もない。
「試合の前夜といっても、特別なことは何も話さないよ。みんなで体のケアをして、少し球を打って、ワイワイ夕食を食べたらすぐ寝るだけさ。ちなみに今夜は、伝統的なイギリス風のローストディナーをみんなで楽しむ予定なんだ」
「ニンジン切り大会」でプレッシャーを笑い飛ばし、リラックスした夜を過ごす彼らだが、いざコースに出ればその強さは圧倒的だ。事実、第3ラウンドを終えた時点で、ハーバートが個人首位、スミスが4位につける「Ripper GC」は、チームスコアで通算41アンダーに達し、2位のCrushers GC(32アンダー)に「9打差」という大差をつけて単独首位を独走している。スミス自身も「僕らのチームは、一度勢いに乗ると次から次へと止まらなくなるんだ」と胸を張る。
この気の置けない仲間たちとの強い絆と、ゴルフから完全に離れた大らかな時間こそが、極限状態での「無欲の大爆発」を生み出す最強の原動力となっているのだろう。
写真/LIVゴルフ提供

